第四話
「あの猫――どういう関係?ワタシよりモ楽シク話してイタノハ何故?」
と聞いてきたうるかの問いに「あの猫とは」と聞き返してしまい天仁に危機が迫っている。
「あの猫――どういう関係?ワタシよりモ楽シク話してイタノハ何故?」
「あの猫とは―?」
この一言がうるかの心の奥を黒く染めていく
(あの猫?天仁さんがあんなに親しげに話をしていた女の事よ、なぜごまかすの?)
うるかは下を向いたまま考え事をしている様にも見えたが聞き取れないほどの小声で何か呟いていた。
天仁はうるかの変化に気付いて声を掛けようとしたが出掛かっていた声を止めた。
天仁は気付かないうちに頬をつたう汗に気が付いた。
(これはまずい――だが「あの猫」というのが何を意味している)
その考えを巡らせた瞬間に天仁は思い出した。
(そうか―昼休憩の時に同僚と食事をしていたのを、うるかは見ていたのか――)
「な、なぁ―うるか、もしかして猫って昼休みに一緒に食事をしていた同僚の事か?」
その言葉にうるかの体はピクッと反応を示した。
ゆっくりと顔を上げて天仁を見つめる。
――数分後
まだ天仁の顔を見つめているうるかの口が動いた。
「天仁さん――ワタシに見せた事ノない笑顔を何故アノ女に見せルノ?
ワタシだけの天仁さんなのだからワタシが見たことない笑顔もワタシのモノなの」
坦々と話すうるかを天仁はずっと聞いていた。
「ワタシの&$#66%&――!それ―%&’あま$%#――の」
うるかの話は続いていたがもう何を話しているのかもわからない。
一通り喋ったうるかはまた黙る。
そのタイミングで天仁は口を開いた。
「うるか―言いたいことはわかった」
うるかは天仁の顔を見て―覗き込んでいるが正しい表現だろう
その目をじっと見て天仁は話を続ける
「あの人は俺の同期の子で"白川 姫乃"さんだよ、俺が就職した時に一緒に入社した人だから」
天仁はうるかに猫の姿の子を説明しようとしていたが、うるかの様子はかわらない。
(だから何―)と言わんばかりの顔を更に近づけてくる。
「だから―うるかの考えているような関係ではないよ仕事上の付き合いだけだし、同期でたまたま
同じ所属だから仲良くしておかないと仕事にも影響あるからさ――仕事を円滑にするコツだよ」
うるかはまだジッと見ているが目を閉じて少し離れた。
(これは意外とすんなり納得してくれたか?)
と、思った矢先にうるかが話し出す。
「本当にそれだけなノ?ワタシと離レテいる間に二人だけでナニかしテなイ?」
天仁はこの問の答えは間違えられないと経験上悟った。間違えた瞬間に刺される。
そんな雰囲気をうるかは出していた。
平常心を保ちつつ天仁は正直に答えた。
「ない、二人っきりになる事はないし二人っきりになるなら、うるかと一緒がいい」
その言葉を聞いて安堵したうるかの顔があった。
天仁は知っている、うるかが後ろに手を回している理由を――。
後ろに隠し持っていた刃物はいつの間にか消えていた。