第三話
主人公の穂谷野 天仁は仕事帰りに突然襲われる
それは彼女だった、何かがおかしいと感じた天仁は彼女に理由を尋ねようとするが―――
不思議な力を持ちながら闇の深い彼女との日常生活
朝、うるかに起こされて毎回飛び起きても疲れは無い。
残業で遅くなって帰ってきて寝るのが遅くなっても朝になると元気なのだ。
今日はお弁当を持たされる―たまに弁当を持たされるのだが会社の同僚からも何故か好評で、お弁当の中身がちゃんと色とりどりで栄養面もしっかりしている。しかもうまい。
お昼時間に弁当を食べながら考えていたが、俺が家を出た後にうるかは何をしているのだろう。
たしか、仕事はしていると言っていた気がする。
―――その頃――
天仁の部屋にうるかの姿はない。
彼女が今いるのは天仁が働いているビルの前だった。
「天仁さんお昼ご飯を食べてるのを見なくてはね」
うるかはそう言うと姿が薄くなっていき見えなくなった。正確には見えにくくなっただけなのでよく見ると薄っすらとだがうるかの姿がぼやけて見える。
姿が消えたのを確認したうるかはスッと地面から浮き上がり上昇していく。
「いつもならこの部屋で天仁さんはお弁当を食べているのよね」
うるかは天仁がいつもお弁当を食べる時に来る休憩室のフロアまで飛んできて宙に浮いたままガラスに顔を近づけ覗いた―――。
部屋には20~30人程の人が食事をしている。
ちょっとしたカフェの様な感じで、4人席や8人席など多種多様なテーブルと椅子が置いてある空間だ。
窓際にはカウンターテーブルがありパンや飲み物の自動販売機などが置いている。
「いつも思うのだけど天仁さんの会社の休憩室おしゃれなのよね――」
うるかは休憩室を見渡し天仁を探していたが反対側の窓側のテーブルに座っているのを見つけて慌てて移動する。
(天仁さん見つけた~)
天仁は窓側の4人席に一人でお弁当を広げて今まさに食べようとしていたが何かに気が付いて顔を上げる。
数人が天仁の座っている席に座った1人は男の人で人間だ。
背が高くがっしり系の男で外見はいかにも女性にモテそうなイケメン風だ。
2人目は―眼鏡をかけた女性で耳が垂れている。
「犬か?」
うるかは独り言でつぶやいた。
頭から出ている短い耳が犬の様に垂れているのでおそらく犬の獣人だろう。
3人目、これがうるかの顔を顰めさせる原因だった。
頭から出ているピンとした三角形の耳――猫の獣人。
可愛い系の顔立ちに愛嬌もある、そして何より天仁の事をチラチラ見ては話しかけている様子がうるかの機嫌を損なわせていた。
うるかはガラスに近づけていた顔を更にガラスに押し付ける様に見た。
表情は変わらないが睨むようにその猫の獣人じっと見ていた。
(何、あの女――)
その後、お弁当を食べる天仁を見届けたうるかは静かに家に帰宅した。
無言で部屋の掃除や家事を熟し、夕食の準備をする。
天仁が帰宅し何事も無かったように夕食を一緒に食べてのんびりしていた天仁にうるかは声をかけた。
「ねぇ―天仁さん」
声を掛けられた天仁はうるかに振り向き反応した。
「どうしたの?」
うるかは天仁の顔をじっとみて一言
「あの猫――どういう関係?ワタシよりモ楽シク話してイタノハ何故?」
天仁はうるかの言葉に感情が無い事が分かったが、それよりも”あの猫?”という言葉を考えていた。
「あの猫とは―?」
この何気ない一言がこの後、大変な事になるとは思いもしなかった。