第二話
私は"狐華うるか"見ての通り狐だ。
狐とは言ったけど見た目は人のような姿をしているが耳と尻尾は何故か隠さない。
隠さないのには理由がある。私の好きな人が耳と尻尾を触ってくれるからだ。
生まれて400年以上は生きているのは確かだだけど詳しい年齢までは覚えていない。
以前、この世界の歴史書を読んだことがある、そこで私の記憶を辿って生まれて間もない頃の記憶と合致するのが400年前の出来事だった。
私の朝は早い、起きてすぐに天仁の顔を眺めるのが日課だ。
「寝顔―――可愛い♪」
この寝顔を見ている時は至福の時間で私一人だけの天仁になっているからだ。
充分に天仁の顔を堪能した後に顔を洗い歯を磨いてから朝ご飯を作り始める。
エプロンをして尻尾を振りながら朝食を作る狐の姿は天仁にしか見られたくない。
朝食の準備が終わって天仁を起こしに行く。
「天仁さん朝だよ。起きないと―――」
言いかけていた言葉を飲み込み、うるかは天仁の寝顔をじっと見ている。
(このまま一緒に―)
うるかは我に返ったように天仁を起こす。
「天仁さん仕事に遅れるよー。」
天仁の体を揺さぶる。
「うーん――もう少し―」
天仁はそのまま眠りに落ちていくのをうるかは大きな声で起こす。
「あ・ま・とさ~ん!朝ですよ~!」
「―っ!!な、なに!?」
天仁は飛び起きて周りを見渡す。
そして、うるかの顔が目の前にある事に気が付いた。
「う、うるか?」
「そうだよ。うるかだよ~おはよう天仁」
(天仁さんの驚いた顔も可愛いな~)
うるかは天仁がまだ寝ぼけている姿をにやけた顔で見つめていた。
そんなうるかの顔に気づいた天仁は怪訝そうな顔でうるかに声をかける。
「なぁうるか――なんで俺の部屋にいるんだ?」
うるかは少し考えて答えた。
「え?私が天仁さんの部屋にいるのはおかしくないよ。朝ご飯を作って天仁さんを起こしに来たんだからおかしくないでしょ?」
その言葉を聞いて天仁は少し俯いて何かを考えている。
「うるか――お前、隣じゃん?なんで俺の家に俺が起きる前からいるいのさ」
うるかは天仁の住んでいるマンションの隣人だ。毎朝天仁が起きる前から部屋にいて―――。
扉も窓も全て鍵を閉めているのに朝になるとうるかがいる。どうやって入ってきているのか未だにわからない。
「だって天仁さんを起こすのは私の役目だし、寝顔を見るために来てるんだよ。」
平然とごく当たり前のように答えるうるか。天仁は溜息をつきつつ朝の支度を始める、そんな朝だ。