惑星開拓日記
≫ザッザザ……適合者であるドールマスター……任務を遂行せよ……。
誰だ……? 俺を呼ぶ奴は!?
≫……作戦…………シークエンス要項……インストール開始……。
痛いッ痛いッ痛いッ!! 畜生!! 情報が……流れ込んでくる……。
≫相互リンク完了・ボンクラの脳味噌でも状況把握できたか? ――ならば……任務遂行の意思を確認、デバイスのイニシャライズ開始。
「ああ、おかげさまでね――――クソたれがッ!」
身体に組み込まれているデバイスがチキチキ音を立て俺を覆うタクティカルアーマーが展開する。
硬質化したアーマの拳を握りしめ、目の前にある≪キューブ≫を何度も殴りつける。
――ギィン! ギィンッ!!
無駄な事と分かっていても怒りが抑えきれない。宇宙でも随一の超硬物質で構成されており、破壊は不可能だ。
信じられない程の超技術で開発された≪キューブ≫は拠点としても活躍し、量子変換器でもある。――と、情報が勝手に脳内に刷り込まれている。
原生敵性生物を駆逐し、拠点を設営。テラフォーミングの足掛かりとなれ……か。
まだグラグラと脳内がシェイクされている気分だ。目の前にある≪キューブ≫に選出されたのが俺で、この惑星の開拓に従事しろ、だとぉ?
必要な物資や機材のテンプレートはキューブに組み込まれており、採掘や採取を自身で行いどうにかしろ、と…………。
「ああああああッ! ボケがッ!! どう考えれば惑星全てを俺が開拓できんだよ!? なにそれ使い捨て? バッカじゃねえの!?」
現在、俺が経っているこの場所は荒れ果てた地表にキューブが宙に浮かんでおり、あとは採掘道具である量子変換デバイスのみだ。
水も食料もない、寝床もない、高性能であろうタクティカルアーマーのみが寒さを凌いでくれる。
地球の日本で生活していた大学生の俺が何でこんなことに……。サイバネティックス化された自身の身体が意思に反応してカチャリと変形する、身体の大部分が機械化され記憶をインストールされた。
『われ思う故に我在り』とはよく言ったものだと思う。この俺の記憶は偽物で本物はとっくに死んじまってることなんて……分かっている。
「畜生……。畜生畜生畜生ッ!! なんだよッ! 居住可能惑星の探索の為に何億も何兆もばら撒かれた端末のひとつって。人間馬鹿にしてんじゃねえよ! なら記憶なんて必要ないだろ!!」
生き返った、訳でもないのだろう。
トラブルに臨機応変に対応できるためにある程度の思考パターンを選出。現地開発された武装や重機を使用する事から“ドールマスター”と蔑称されている、か。
身体の大部分がサイバネ化されているが胴体部は生身の物が多い、だが最大限強化された人工臓器に、赤い色をしていない血液は人間と呼べるものなのだろうか?
視界に表示される自身のステータスを眺めながらぼやく。
「なにが開拓進行度や現地異星物の駆除でポイントが溜まり、身体改造や嗜好品と交換できる、だ。――ゲームじゃねえんだぞ?」
初期ポイントとやらを無駄遣いして生成されたウイスキーを瓶のままあおり、愛煙していた銘柄のタバコに火を付けると、煙を強化された肺へ送り込む。
そこらの土や石では大した物質を生成できないようだ、ポイントを使えばできない事も無いがキューブに蓄えられたエネルギーをかなり消費する。
俺の酒とタバコの為にポイントを貯めるしかないのか……。
残りのポイントは≪九九八≫と表記されている。嗜好品のデータや表記されている文字や数字、俺の記憶の時代を基準に最適化されているのだろう。無駄に高性能なのがムカつく。
腕に内蔵された量子変換機能を持つ高性能なアーマーの腕から誘導レーザーを地面に照射する。
パラパラと分解されていき掌に圧縮されたキューブが生成された。この物質をキューブに転送し資材として活用される。居住可能の施設やインフラもこれでなんとかしろと……。
コスト削減しすぎだろ。外宇宙に広がる星系全てには手が回らないだろうし納得はするが。なにもかもが現地調達。
「はぁ……娯楽データもポイントで買えなかったら気が狂ってたぞ」
ゲームやアニメ、娯楽と付く物なら地球のコンテンツの何百年分も網羅していた。恐るべき技術だなホント。
ひとつキューブを作ってはアニメの為、二つキューブを作ってはゲームの為、三つキューブを作っては……。
キューブを背後に牽引しながら、鉄材の反応がする崖を次々と量子変換していく。綺麗な断面が出来ていくのは楽しくなってくるが、先程崩落して死にそうになった。
警戒センサーが反応して緊急回避しなければ圧死していたな。俺の開拓日記も初日に終了していただろう。
「ようやくこれで簡易拠点ぐらい設営ができるだろう。先は長いな……」
崖の上にある見晴らしの良い場所にキューブを固定し、早速拠点のテンプレートを使用して設営を行う。
「――ロード開始。完了まで数分か……すげえな」
地が均されていきアンカーが打ち込まれる。騒音が多少しているがそうそう危ない目に――
――緊急回避ッ!!
ゴガンッ! 先程まで立っていた位置に何かの激突音が聞こえる、すぐさま各種センサーを起動、目標の分析行動に移る。
「解析開始――――――あれが、原生敵性生物、か? なんともまあ怪物みたいだな」
形は人間タイプだが頭部がなく腕が異常に発達している、体表は赤黒く胴体に顔が存在している。
『キャアァアァアァッ! キュアアァアアア!』
「なんだ? 奇声か? 奴らの間の言語でもあるのか? ――だが、やることは変わらねえ、駆除するだけだ」
キュィン、と俺の腕が戦闘用に変化する、両腕が二倍程大きくなり指先は鋭くなる。――戦闘プログラム起動、脳内高揚物質の分泌量増加。
「キヒッ! 戦闘は初めて何でなぁ……その心臓抉り出してやるッ!!」
奴へ目掛けて駆け出し始める、全力稼働した機械の身体が赤熱する。
貫手にした腕をデカい胴体へと突き込む、巨腕で払われるも回転しながら後ろ蹴りを顔面に叩き込んだ。
目晦ましに成功、飛び上がると空中で前転、踵に突き出したパイルを展開、頭頂部らしきあたりに突き刺す。
「グリグリグリィってかぁ!? いてぇだろう?」
肘の先に凶悪な棘を追加し追撃する、深く刺さった事を確認するとパイルを延伸させる。
『ギャアァァアアッギュワッギュワァッ!!』
いったん装備を解除、蹴り上がりクルクルと回転し着地する。痛みに苦しんでいる敵性生物は頭頂部を抱え胴体がガラ空きだ。
「い・た・だ・き・マスッ!」
ダッダッダッ、と地を蹴り駆け出すと槍のように尖らせた貫手を心臓部らしき場所に突き刺した。
内部侵入確認、センサーに鼓動する臓器を確認、ぐちゅりと掴み取り――強引に引き抜いた。
「ハート・キャッチってかぁ!? ギャハハハハハハ!!」
ぐちゃ!! 鼓動する心臓を握り潰し破片が地に落ちて行く。生命の零落を確認。戦闘行動終了。脳内沈静化物質の分泌を開始。
どしゃり、と敵性生物が前のめりに倒れると間もなく動かなくなり……死亡した。
「ギャハハ! フヒィヒヒヒヒッ………………はぁ、鬱だ。死のう」
どうやら戦闘行動の際に出される高揚剤は危険だ。これじゃ冷静な判断ができないじゃないか……。
原生敵性生物の死体を量子変換しキューブに転送する。すると初殺害報酬やら、実績解除やらポイントがかなりの量を振り込まれている。
“殺害”か、皮肉な言い方しやがって。てめえらの押し付けた任務だろうがよ。
この後味の悪さを癒すための娯楽品リスト出しやがれ、とことん味わい尽くしてやるぞ。
こうして始まった惑星開拓日記をここに綴る。糞ったれな任務を遂行する俺を笑ってくれ。未来の俺よ、どうだい? 楽しんでいるかい?




