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ナナリーは放課後、ひとり生徒会室に向かっていた。
―リュシー様もフランツもヴィルもキースも私にメロメロよね。やっぱり私がヒロインなのよ♪
階段を下りて曲がれば生徒会室はそこというところに差し掛かった瞬間、
ナナリーは突然、背中を押され階段から転がり落ちた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫び声を聞き、生徒会室からリュシアール、フランツ、ヴィルム、キースが駆け付けるとナナリーが階段下で倒れてるのを見つけ、驚き駆け寄った。
「「「「ナナリー!!!」」」」
リュシアールがナナリーを抱きかかえた。
「リュ、リュシー様…」
ナナリーは顔色は悪いものの、意識はあった。
「ナナリー、大丈夫か?何があったんだ?」
「わ、わたし、階段を下りてて…それで………」
ナナリーは混乱して言葉が出ない。
「リュシアール様、とりあえずナナリーを生徒会室に運ぼう。怪我をしてるかもしれない、僕なら治療が出来る。」
ヴィルムが言った。ヴィルムは医師の家系で、ヴィルム自身、医療を学んでいる。卒業後は父が代表を務める医療院に勤める予定である。
「そうだな」とリュシアールは頷くと、ナナリーを腕に抱え生徒会室に運んだ。
―確かに誰かに背中を押されたわ…でもリュシー様たちが来た時には周りにはもう誰もいなかった。いったい誰が…もしかしてイベントかなにかなのかしら?まさかローゼリカ?イベントとは言ってもさすがに痛いのはいやよ!?でもこのゲームをプレイしてない私じゃ回避出来ないわ!
ナナリーはヴィルから治療を受けながら、そんなことを考えていた。
階段があまり高さがなかったこともあり、少しの打ち身だけで済んだようだった。
〈ナナリー、大丈夫?〉
『神様!?ねぇ、私、階段から突き落とされたのよ!?聞いてないわ!どうしたらいいの!?』
〈ナナリー、助けてあげられなくてごめんね。ナナリー、あなたを突き落としたのはローゼリカよ〉
『やっぱり!!!ローゼリカが私のことに気付いたってことなの?まさか、これから命を狙われるなんてこと…』
〈ナナリー、今の私の力では満足に守ってあげられない。ここの4人とは十分に仲良くなった、すべてを話して守ってもらおう。そして協力してローゼリカと悪魔を追い詰めるんだ。でも、断罪すべきは今じゃない。水面下で証拠を集めるんだ。ローゼリカ達に気付かれないよう慎重に。そうしないと本気でナナリーの命を狙うかもしれない。あぁ、私の愛し子ナナリー、私の力が足りないばかりに…。証拠集めは私も手伝うから。〉
『わかったわ、神様』
そうして、神との話が終わったころちょうど治療も終わった。
「ナナリー、終わったよ。」
「ヴィル、ありがとう。さすがね、ヴィルがいてくれてよかったわ」
そう言って、ナナリーが微笑むとヴィルは頬を赤らめる。
「ナナリー、大丈夫かい?混乱してるかもしれないけど何があったか話せる?」
「えぇ、大丈夫です、リュシー様。階段を降りてたら突然背中を押されたんです。」
「なんだって!?だがしかし、あそこには俺たち以外には誰もいなかったようだ。犯人は見たかい?」
「いえ、突然のことでしたし、後ろから押されたので、私も見てないんです、ただ…」
「ただ、なんだい、ナナリー?」
「もしかしたら、ローゼリカ様が…」
そこまで言って、ナナリーは俯いた。
「ローゼリカ?ローゼリカがどうしたんだい?」
リュシアールがそう聞くと、ナナリーはいっとき悩んだ様子を見せたが、覚悟を決めたように話し始めた。
「リュシー様、フランツ、ヴィル、キースも。聞いてほしいことがあるの。」
そうして、ナナリーはすべてを話し出した。
神様と話が出来ること、ナナリーが本当の愛し子だということ、ローゼリカのこと。
「神様はローゼリカ様が押したって…。私、怖くて…。でも、でも…このままじゃいけないと思うんです!このままじゃ、ローゼリカ様と悪魔にこの国は壊されてしまう。私、そんなの嫌です!」
ナナリーが話し終えると、4人は突然の話に戸惑っているようだった。
少しの沈黙の後、リュシアールが口を開いた。
「ナナリー。君を信じるよ。僕は君を守りたい。ローゼリカを一緒に止めよう。」
「リュシー様…!!!」
ナナリーが嬉しそうにリュシアールに抱き着いた。
それを見て、フランツ・ヴィルム・キースもナナリーを信じて守ると口にした。
「アモルナ様が言った通り、内密に証拠を集めよう。ナナリーも一人になるべくならないようにしてくれ。ローゼリカに気付かれてはいけないとはいえ、あまり近づかないようにしよう。マリオンは…」
「マリオン様は常にローゼリカ様の隣にいるから気付かれる可能性がある。だから手を出すなって神様が言ってたわ…。マリオン様は知らないのよ、守ってるローゼリカ様が恐ろしいことを考えているなんて…。きっとローゼリカ様の悪事が暴かれればマリオン様も悲しんでしまうわね…」
「ナナリーは本当に優しいな、マリオンは大丈夫だ、きっとわかってくれるさ、すべてが終わったら慰めよう」
そうして、ナナリーとリュシアール、フランツ・ヴィルム、キースはローゼリカの悪事を暴くため水面下で動き始めた。
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≪私の愛しいローゼ≫
『どうしたの?アモルナ』
≪ナナリーとリュシアールのことだけれど、やはりなにかおかしいわ。悪いことが起きなければいいのだけれど…≫
『確かに、お話をしたとき様子はおかしかったわ、でも少し様子を見ようと思ってたのだけれど…悪いことって?』
≪詳しいことはわからないわ、けど気を付けてローゼ。私はあなたが自分で解決したいという気持ちを尊重するわ。だから介入はしない。あなたの望みだもの。でもね、ローゼ。なにかあなたでは解決出来ない、どうしようもない状況になってしまったその時は、私に委ねてちょうだい。≫
『アモルナがそう言うなら、わかったわ。でもわたくしは自分の力で進んでいきたい。だからギリギリまではわたくしにやらせてちょうだい。』
≪えぇ、愛しいローゼ。あなたがそうやって成長していくのは嬉しくも寂しいものもあるのね。≫
『あら、アモルナはいつだって私のもう一人のお母さまよ!だから成長を喜んでほしいわ!』
≪ふふ、そうだね。私の愛しいローゼ。あなたが幸せであることが私の望みだよ。≫
―なにか人間ではない別の気配を感じる。もしそれが原因なのだとしたらローゼには手に負えなくなるかもしれない。そのときは…。
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