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ローゼリカは普段、王族とそれに連なる者の認められた者のみが使用できる特別室でランチを取っている。ローゼリカとマリオン、ナナリーは毎日のこと、そして生徒会で忙しいリュシアールも時間を見つけ3日に1回は一緒にランチを取っていた。

だが、ここ数か月は連日続けて断られることが多かった。

そしてまた断られたある日、ローゼリカが気分を変えたくなったのだろう、庭園でランチをしようと提案した。



「ねぇ、マリオン。ナナリーとリュシアール様に最近距離を取られてる気がするの。わたくし何かしてしまったのかしら?お茶に誘っても用事があるって断られることも多いし、たまにご一緒してくれても前より素っ気ない気がして…。」

庭園に向かいながらローゼリカは落ち込んだ様子でマリオンに話しかけた。

「確かにそうだな、でも気に障るようなことなんてしてなかったと思うぞ?俺から見ても突然様子が変わった気がする。」

「やっぱりそう思う?それにリュシアール様は生徒会と王太子のお仕事で忙しくされてるから、ご一緒されることは中々なかったけれど…。」

ローゼリカは先の言葉を続けるか悩んだが庭園に着いたため、一旦言葉を止め、そして庭園から聞こえてくる声に気付いた。



「リュシー様ったら、本当ですか?」

「あぁ、本当だよ。私は嘘は付かない。ナナリーと過ごす時間はとても楽しくていつまでもこうしていたいよ。」

「嬉しい!!!私もですわリュシー様♪」

それは、ローゼリカの誘いを忙しいから予定があるからと断った、ナナリーとリュシアールの楽しそうな声だった。

他の生徒会の面々も一緒にいるようだ。


その会話の内容にローゼリカは耳を疑ったが、覗いてみると確かにナナリーとリュシアールであった。

―どうして、ナナリーとリュシアール様が一緒に…。それに愛称で呼んで。まるで恋人のよう…。

ローゼリカは、胸が痛むのを確かに感じた、そして走り出し、その場から去った。


マリオンも目の前の光景と聞こえてきた会話が信じられず、傷ついた様子のローゼリカを見て、二人を問いただしたくなった。

だがしかし、それよりも先にローゼリカが走り出したため、ローゼリカを追いかけた。




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ナナリーは神の言葉を聞いてから、早速、生徒会に通うようになった。

言われた通り、ローゼリカに怪しまれないよう話しかけられたらそれとなく笑顔で対応し、

誘いも数回に1度は参加するようにした。


生徒会を手伝いたいというナナリーに最初は断りをいれていたリュシアールだったが、

何度も頼んでくるナナリーを鬱陶しく思うどころか、こんなに健気に自分たちの役に立とうとしてくれているナナリーを拒んではいけないという気持ちになった。

それは他の生徒会のフランツ・ヴィルム・キースも一緒だったらしく、ナナリーの申し出を受け入れることにした。


そうして、生徒会でナナリーと過ごすうちに、ナナリーと一緒にいたい気持ちが膨らんでいった。

ローゼリカのことは頭にあったが、ローゼリカのことを考えると自身の中にある黒い感情が増えるようで気持ちが悪く、一層ナナリーといることに拍車をかけた。


そうやって、数か月、ナナリーは生徒会の4人と過ごし、それぞれと親密になっていった。

そんなナナリーの腕と首では神からもらったネックレスとブレスレットが怪しく光っていた。

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庭園から逃げたローゼリカはマリオンと共に特別室に戻ってきた。

「最近、ナナリーがリュシアールや生徒会の方々と親しくしているっていうのは本当だったのね。あのナナリーが婚約者のいる方々と不適切な距離で親しくしているなんて。いつも誠実でいてくださったリュシアール様がそれを許しているだなんて。聞いても信じられなかった、信じたくなかった。………わたくしはどうしたらいいの?」

「ローゼリカ…」


ローゼリカは愛し子である、ゆえに愛情を惜しみなく注がれてきた。そして平和なこの国ではローゼリカを悲しませるような人間もいなかった。ローゼリカは愛し愛され生きてきた。だからこそ、二人の裏切りともとれる行動を前に動揺しひどく悲しんでいた。こんなに悲しい気持ちになったのは初めてだった。


「ローゼリカ、泣け。今は泣くんだ。たくさん泣いて、それから考えよう。俺はずっと側にいるから…。」

マリオンがそう言うとローゼリカの瞳から涙がひとつまたひとつと零れた。

そして、涙はとめどなく溢れ、ローゼリカは泣いた。



ひとしきり泣いたローゼリカ。マリオンはずっと隣にいてくれた。

「ありがとう、マリオン。こんなに泣いたのは初めてだわ。」

「そっか、俺はローゼリカの笑った顔が大好きだけど。泣きたいときは思いっきり泣いた方がいいんだ。少し落ち着いただろ?」

「えぇ、まだ戸惑いはあるけれど、少し落ち着いたわ。それでね、マリオン。わたくし、一度ナナリーとリュシアール様とお話ししようと思うの。もし、二人が想い合っているのならそれでいいともわたくしは思うの。でも今の状況は良くないわ。本当に想い合っているのなら、わたくしとの婚約は解消してそれからお付き合いをするべきだわ。」

先ほどまで悲しみに押しつぶされそうだったローゼリカはいない、やるべきことを前に見据えている。

「それはそうだが、ローゼリカはそれでいいのか?兄上のことが好きなんじゃないのか?」

「リュシアール様のことは尊敬しているわ、でもそれが恋なのかと言われると分からないわ…。わたくしはリュシアール様もナナリーも好きなの。この気持ちは一緒だわ、きっとそれは恋の好きではないのでしょう?マリオン、恋の好きってなんなの?」

「それは………。誰よりも守りたくて、大切で、特別なんだ。相手のことを想うだけですごく幸せな気持ちになれる、でも時々辛くもなるんだ。まぁ辛くなるのは一方通行の恋だけなのかもしれないがな。」

そう言うと、マリオンはとても優しいけれどどこか熱を持ったような瞳でローゼリカを見つめた。

そんなマリオンにローゼリカは胸に違和感を感じたがすぐに気を取り直した。

「マ、マリオンはそういう相手がいるってこと?」

「いや、そんな感じだって聞いたんだよ。それより、ローゼリカが二人と話をしたいって言うなら俺も協力する。ちゃんと話し合おう。」

「えぇ、ありがとう、マリオン。心強いわ。実は生徒会の他御三方にも婚約者の方がいらっしゃるでしょう?その方々から、ナナリーとも親しくしている私から注意してくれないかと言われていたの。どうにも、ナナリーはリュシアール様だけでなくその御三方とも親しくされていて、婚約者のいる方に対する距離感ではないらしいの。もちろん、婚約者の方にもナナリーにも直接言ったらしいのですが真面目に取り合ってくださらないようで…。ナナリーがそんなことするなんて信じられなかったから、考えておきますわとは言っていたのですけれど、あの様子を見るとそれもあながち嘘ではないのでしょうね。」

「あぁ、俺も信じられなかったが、先ほどのを見てしまってはな…。」

「近いうちにナナリーとリュシアール様とお話をしなくてわね。」

「あまり無理するなよ、ローゼリカ。こういうことはあまり慣れてないだろう。」

「それはそうですけれど、甘えるばかりではなく自分の足でしっかり歩かなくてはいけないわ。これはわたくしがやらなくてはいけないことなのよ。」


無垢で悪意など知らなかったローゼリカ。世間知らずとも言うのだろう。

でもローゼリカは知ってしまった、辛い気持ちを悲しい気持ちを。

そして、自身の力で前に進むことを選択したのだ。

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