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あれから、数日がたった。
あのあと、ナナリーは無事目を覚ました。ナナリーは憑りつかれてもなお、意識はあったのだという。だけど、見ていることしか出来ず、本当に申し訳ないことをしてしまったと泣いて謝った。そしてこんな自分は聖女には向いていないと。
だが、ローゼリカはナナリーが何も出来なかったのは仕方がない、むしろすぐに助けてあげられず申し訳なかったとナナリーを抱きしめ、一緒に泣いた。
そして、ローゼリカは聖女としてはもちろん友達として側にいてほしいとナナリーに伝え、
学園を卒業後、ナナリーはローゼリカの侍女となることを決めた。
「わたくしはいきなり聖女に任命され、平民から貴族になりました。ですから貴族の方が通う学園に入学することとなり、不安でいっぱいでした。でもあの日、ローゼリカ様は微笑んでわたくしに手を差し伸べてくださいました。その後も温かく迎えてくれて。ローゼリカ様が愛し子でよかった、ずっとお側にいたいと思いました。それなのに、わたくしは身体を乗っ取られ、ローゼリカ様を傷つけてしまった。アモルナ様に助けていただくまでわたくしは泣くことしか出来ませんでした。止められなかった。そんな無力なわたくしでも、ローゼリカ様が望んでくださるなら、わたくしは一生ローゼリカ様のお側におります。ローゼリカ様のお側にいたいと願うのです。」
「ありがとう、ナナリー。わたくしはナナリーのことが大好きよ。一生懸命で頑張り屋のあなたが大好き。
だからね、そんなナナリーにはずっと側にいてほしいの。あなたはわたくしの大事なお友達なのだから。」
生徒会のフランツ・ヴィルム・キースだが、操られていたこともあり、大きなお咎めはなかった。
だがしかし、もともとは自身の中にあった負の感情が膨れ上がった結果だったことを重く見た本人たちは、3年間辺境の地で騎士として精神を鍛えることを希望した。また、それぞれの婚約者には誠心誠意謝罪をし、婚約は継続となっていた。
ローゼリカは王宮の庭園でリュシアールと会っていた。
「ローゼリカ、今回の件、本当にすまなかった。大切に思っていた君を辛い目にあわせてしまった。」
「いいのです、リュシアール様。すべては悪魔が起こしたこと。リュシアール様は操られていただけですわ。」
「いいや、確かに悪魔の力で操られていたかもしない。でもネックレスは人の中の黒い感情を誘発させるものだった。私は、確かにローゼリカに黒い感情を持ち、それを増長させてしまった。それが今回のことを引き起こしたんだ。私は、ローゼリカのことを大切に思ってたよ。でもそれと同時に羨ましく妬ましくもあったんだ。私は第1王子で王太子だ。でもローゼリカはそれ以上に愛し子として大事にされていた。僕が次期国王になるのに重要視されているのはローゼリカなんだ、そういう思いが心の奥底にあった。だから、すまない、ローゼリカ。」
「リュシアール様、わたくしはリュシアール様のそんな葛藤に気付けなかった。わたくしはきっと傲慢だったんですわ、愛されることに慣れてしまっていた。だから、今回の件はいい教訓になったと思いますの。ですので、おあいこということにいたしましょう!」
「ローゼリカ、君って子は…。ありがとう。」
そう言ってローゼリカとリュシアールは笑いあった。
あのあと、リュシアールは自身が次期国王の座にいかに執着していたかを反省し、
もっと広い世界を見てみたいと、留学という形で他国に行くことが決まった。
そして、王位継承権を返上し将来は臣下として、国を支えていくこととなった。
ローゼリカとの婚約もその際に解消となった、これはローゼリカとリュシアール双方の希望だった。
「…ローゼリカ、私にとって君は大切な妹のような存在だった、それでも婚約者になったからには大事にしようと思った。でもローゼリカの隣には私よりふさわしい者がいる。本当はずっとわかってたんだ、気付かないふりをしていた。君の婚約者であることが私が王太子でいられる理由だと思っていたから。」
「リュシアール様、それは違いますわ。確かにわたくしが婚約者になったのも理由のひとつかもしれません。でもリュシアール様は今まで、次期国王として励んでいらっしゃいましたわ。それを皆、認めていたのです。リュシアール様は大事にされていたのです、愛されていたのです。もちろん今もですわ。」
「ありがとう、ローゼリカ。君は僕の大事な妹で幼馴染だ、どうか幸せになってくれ。」
「ありがとう。リュシアール様はわたくしの大事なお兄様であり幼馴染ですのよ、ですからリュシアール様も幸せになってくださいね、約束ですよ。」
「あぁ、約束するよ、ローゼリカ。私は先に失礼するよ。出発の準備があるんだ。ローゼリカはゆっくりしていくといい、とっておきの紅茶とお菓子だ、堪能していってくれ。」
そう言うと、リュシアールは席を立った。
お言葉に甘えてローゼリカが紅茶と菓子を堪能していると、声をかけられた。
「ローゼリカ。」
「あら、マリオン。どうしたの?忙しいのではなくって?」
マリオンはリュシアールが王位継承権を返上したことにより、王太子となった。
そして、次期国王としての教育で忙しくしており、ローゼリカの聖騎士とはいえ中々側にいられなかった。
「ローゼリカが来てるって兄上から聞いて、抜け出してきた。最近、会えてなかっただろ、元気だったか?」
「えぇ、元気よ。最近はナナリーとまたよく一緒にお茶をしたりお出かけしたりしてるのよ。マリオンは?少し瘦せたんじゃない?」
「ローゼリカが元気ならよかったよ。まぁな、次期国王になるための教育をあまり受けていなかったからな。学ぶことがたくさんあって、少し疲れてるだけだ。でも頑張ってみせるよ。」
「頑張ってね、マリオン。応援してるわ。」
「あぁ。」
マリオンは何か考えているようだった、そしてしばらくの沈黙ののち覚悟したように口を開いた。
「ローゼリカ。聞いてほしいことがあるんだ。」
「え、えぇどうしたのマリオン?」
急に真剣な表情になったマリオンにローゼリカは戸惑った。
「ローゼリカ、君は兄上の婚約者だった。だからこの恋が叶うことはない、諦めなくてははいけないと思っていた。それでも聖騎士に任命されて、正式に君の側にいれるようになった。俺はそれだけで幸せだった。でも、あんなことがあって、君が泣いているのに側にいることしか出来ないのがとても歯がゆかった。俺なら泣かせたりしないのに、その涙を拭ってやりたい、でも俺の立場ではできない。悔しかった。そうして何も出来ないうちにすべてが終わった。もう、あんな思いをするのは嫌だ。ローゼリカ、君が悲しい時はその涙を拭わせてほしい、君が嬉しい時はその笑顔を一番に見せてほしい。君を聖騎士としてではなく、一人の男として側で守らせてほしい。ローゼリカ、ずっと前から君のことを愛してる。君の笑顔が曇ることのないよう、君を側でずっと愛し続ける。だから俺と結婚してください。」
そう言って、マリオンは跪きローゼリカの手を取り、手の甲に口づけた。
ローゼリカは頬を真っ赤に染め、そして、微笑んだ。
「わたくしリュシアール様が離れて行ってしまったとき悲しい気持ちになったわ。でもあなたが側にいてくれたからわたくしは頑張れた。ありがとう、マリオン。わたくし、もうマリオンが側にいてくれないと無理なの。マリオンに側にいてほしい。わたくし、きっとマリオンのことが好きなんだわ。だからわたくしをお嫁さんにして、マリオン。」
「ありがとう、一生君のことを大事にするよ、ローゼリカ」
マリオンはそう言って微笑んだ。
そうして、2人は初めての口づけを交わした。




