誓い
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「塔也ー! 行く準備できたー?」
土曜日、バイトを終えて一旦部屋に帰って来た俺達は、今晩の支度をしている。
今日は、しゆのさんの実家にお泊りなのだ。
よし、これでオッケーかな。
「うん、準備できたよ」
「ホント? どれどれ……」
そう言うと、しゆのさんが何故か俺のカバンをチェックしだした!?
「あー! 塔也、こんな入れ方したら制服もシャツもクシャクシャになっちゃうし!」
「え!? そ、そう……?」
「そうだし! 明日はコレ着るんだから、ちゃんとしないと!」
しゆのさんは「もう!」と言いながら、俺の制服を綺麗にたたみ直し、丁寧にカバンにしまってくれた。
うう……申し訳ない。
「ホント、塔也はアタシがいないと全然ダメだし!」
「はは……何一つ否定できない……」
うん、俺には苦笑することしかできないな。
「さあ、お母さんもお父さんも多分ソワソワしながら待ってるし、早く行こ!」
「ああ」
戸締まりをして玄関の鍵を掛けると、軽やかに階段を降りると。
「んふふー、塔也」
「うん」
俺はス、と差し出されたしゆのさんの手を取って恋人つなぎをすると、しゆのさんの実家へと向かう。
「あは、だけどあの弟、あれから姿を見せなくなったし」
しゆのさんは人差し指を顎に当て、んー、と考えるような仕草をしながらそんなことを言った。
まあ、俺と後藤くんであれだけ追い詰めたんだ。さすがの和也も、もうそんなことをする度胸もないだろうしな。
なお、このことについて、しゆのさんには一切話していない。
「はは、警察の警告が効いたんじゃない?」
「あは! きっとそうだし!」
俺はお茶を濁すようにそう告げると、しゆのさんが嬉しそうに同意した。
うん、やっぱりしゆのさんのこの笑顔を、俺は絶対に曇らせたくない。
明日……俺はしゆのさんのために、精一杯サポートしよう。
それから、しゆのさんと楽しく雑談しながら歩いていると、あっという間に家に着いた。
「あは! ただいま!」
インターホンも押さずにしゆのさんは玄関を開けて中に入る。
俺もその後を追いかけて中に入ると。
「「おかえりなさい!」」
待ち構えていたかのようにお母さんとお父さんが入口で出迎えてくれた。
「た、ただいまです……」
「ふふ、お帰りなさい」
前回釘を刺されたこともあり、俺は少し恥ずかしいながらも“ただいま”の挨拶をすると、お母さんが微笑んでくれた。
「さあさあ! 今日は焼肉だよ! 早く食べよう!」
「あは! 塔也、焼肉だって!」
「あ、ああ……」
お父さんが嬉しそうにそう告げると、しゆのさんもぱあ、と笑顔になり、俺の腕に抱きついた。
う、嬉しいけど、俺はどう反応すればいいんだろう……。
「ふふ、さあさ、早くリビングに行きましょ!」
「うん!」
お母さんが笑顔でそう促すと、俺達はリビングへと入った。
そこには。
「おお……!」
「うわあ……二人共、またすごい張り切ったんだねー……!」
俺としゆのさんは、思わず感嘆の声を漏らす。
何というか、その……すごい霜降りの牛肉が塊でドーンとテーブルに鎮座している……。
「ははは、知り合いに頼んで、特別に分けてもらったんだ」
嬉しそうにそう語るお父さん。
や、やり過ぎな気がするけど……まあ、素直に頷いておこう……。
「ふふ、じゃあどんどん焼いていくわね!」
お母さんが牛肉を食べやすい大きさにカットし、鉄板の上に乗せる。
その肉の焼ける匂いに、俺は思わず唾を飲み込んだ。
「あは! 塔也、焼けたし!」
「あ、ありがとう……」
そう言って取り皿にお肉を乗せてくれるしゆのさん。
嬉しいけど、何で俺がトップバッター!?
しかも、三人が三人、目をキラキラさせて俺が食べるのを見守ってるし……。
「は、はは……いただきます……」
いたたまれなくなった俺は、とにかく焼けたばかりの牛肉をたれにつけ、口へと運ぶ。
「! う、美味い……!」
な、何だこの肉!?
口に入れた瞬間、まさに溶けたぞ!?
「あは! やった!」
「うふふ! どんどん焼くわよー!」
「ははは! いやあ、頑張って手に入れた甲斐があったよ!」
いや、確かにすごいお肉で、メチャクチャ美味しかったけど、その……そ、そんなに手放しで喜ばれると、すごく恥ずかしい……。
その後も、俺は三人から食べているところを見守られ、恥ずかしい思いをしながら夕食を過ごした。
◇
「ふう……」
夕食もお風呂も終わり、俺は用意していただいた客間の布団に入っている。
明日に備えて早く寝ないと、だな……。
でも。
「お父さん、そんなことを考えていてくれていただなんて、なあ……」
夕食後にお父さんから聞かされた話。
それは……俺をこの家の養子として迎え入れること。
その話を聞いたお母さんは、すごく喜んでいた。
しゆのさんは最初は反対したけど、その後にお母さんから何かを耳打ちされて、態度は一変、大喜びで賛成した。
じゃあ俺はといえば、ここまで俺のために色々としてくれるお父さんとお母さんには、本当に感謝しかない。
実の家族に見捨てられた俺なのに、こんなに大切にしてもらえて……。
だけど。
「俺は……どうしたら……」
——コンコン。
ん? 誰だろう……って、一人しかいないか。
ドアを開けると、訪れたのはやっぱりしゆのさんだった。
「あ、あは……いつも隣に布団を並べて寝てたから、その……落ち着かなくって……」
「う、うん……俺も、少し寝付けなかったところ」
「そ、そっか……」
そう言うと、しゆのさんは俺の布団の中に入った。
「ね……ちょっとお話しても、いい?」
しゆのさんが俺の顔を覗き込んで尋ねた。
「ああ、もちろん」
「あは、ありがと……あ、あのね? さっきお父さんが話してた件、なんだけど……」
「うん……」
「アタシは、どちらでもいいと思うし……」
しゆのさんから告げられた言葉は、意外なものだった。
あの時の態度からも、しゆのさんはてっきり養子縁組を勧めてくるものだと思っていたんだが……。
すると……しゆのさんが俺を抱き締め、俺の顔がしゆのさんの胸にうずまる形になった。
「し、しゆのさん?」
「アタシね? あの話を聞いた直後、お父さんの提案通りにするのが一番だって思った。だって、そうすれば塔也はもう絶対にあんなつらい思いしなくて済むし」
「うん……」
「……でもね? だからって、塔也からすればそんな簡単に割り切れる話じゃない、よね……? ひどい親だからって、塔也自身がなんの心の整理もつかないまま、いきなり『もう赤の他人です』って、そんな風に思えないよね……?」
「…………………………」
「だから、ね? アタシは塔也がすごく悩んで、考えて、そして、納得できる答えを出して欲しいし……アタシは、塔也がどんな答えを出したって、塔也の隣にずっといるし……ずっと、塔也を支えるんだし……」
「あ……」
しゆのさん……君は……。
「塔也? ……あ……ん……」
俺は顔を上げると、しゆのさんにキスをした。
しゆのさんの想いが嬉しくて。
しゆのさんの優しさが嬉しくて。
「ん……は……」
「ん……しゆのさん、ありがとう……俺、しゆのさんを好きになって、本当に良かった……」
「あは……それはアタシのほうだし……塔也、大好き……」
そう言って俺を優しく見つめるしゆのさんは、誰よりも……世界中の誰よりも、綺麗だった。
「しゆのさん……俺、やっぱり養子縁組については断ろうと思う」
「あは……そっか……」
そう告げると、しゆのさんはどこか納得した表情を浮かべた。
でも……俺が決意したのはこれだけじゃなくて。
「だけど……俺がこれから大人になって、本当の意味で君を護れるようになった時……その時は、その……本当の“家族”になろうと思うんだ……」
「っ! と、塔也、それって……!」
「うん……俺、今はまだこんなだけど……それでも、俺はしゆのさんと……一緒に、なりたい」
俺ははっきりとしゆのさんに告げる。
俺は……君とずっと添い遂げたいんだと。
「あ、あは……ゆ、夢じゃないよね……?」
「こんな大切なこと、夢で終わらせる訳にはいかないよ……」
「うん……うん……!」
しゆのさんは涙をぽろぽろと零し、何度も頷く。
そして。
「ん……ちゅ……」
——俺は、しゆのさんに誓いのキスをした。
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