どっちが正しいか
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■池田和也視点
「うう……! クソッ! クソッ!」
僕は自分の部屋に帰るなり、傍にあったゴミ箱を蹴飛ばしては何度も踏みつけていた。
それもこれも、全部あの兄さんがこの僕を脅したりするから!
「だ、大体、あんな不良なんか連れてきたりして、卑怯じゃないか!」
そ、そうだよ! なんで兄弟同士の話し合いに、あんな頭の悪そうな部外者を連れてくるんだよ!
僕は、ああいう低俗な奴は本当にキライだ!
前の学校にいた、アイツ等みたいな……!
◇
兄さんが実家を出て遠くの高校に引っ越した時、僕は心の中で大笑いした。
だって、この僕に全部劣る兄さんが、僕に嫉妬して逃げ出していったんだよ?
しかもあの時の兄さんの背中……このまま自殺でもしちゃうんじゃないかと思ったよ。
まあでも、これで目障りだった兄さんもいなくなったお陰で、僕は毎日最高の生活を送っていた。
僕を見ては、いつも褒め称える両親。
僕の成績の良さに、嫉妬や羨望の眼差しを向けるクラスメイト達。
もちろん、僕のことが好きだって女の子もかなりいた。
そんな感じで順風満帆な生活を送っていた僕は、高校は当然ながら県内有数の進学校を選んだ。
だけど……その高校に入学してからの僕の日々は地獄のようだった。
周りの連中は、僕よりも明らかに頭が悪いクセに、テストになると急に勉強したフリをして、いつも僕よりも良い成績を取っていた。
こんなの、絶対にカンニングしているに決まってる。
一度そのことを指摘したら、連中は顔を歪めて必死で否定したっけ。
そんな態度からも『実はカンニングしてました』って自分で言ってるようなものだよ。
なのにアイツ等……それから事あるごとに僕を無視して、まるで僕をイジメるようになったんだ!
夏休みが明けて二学期に入ると、もう僕に話しかけるような奴は誰一人いなかった……いや、一人いたな。
グズノロで、顔だってちっとも可愛くない、冴えないクラスメイトの女の子が。
ソイツは一生懸命僕に話しかけてきたけど、僕とは釣り合ってないこと、分からないのかなあ。
何度もそのことを指摘したのに、結局転校するまでずっと話しかけてきて……。
まあいいや。
それで、僕はその学校に居場所を失くして、もう学校に通うのやめたんだ。
あんなクズ共と関わっても碌なことにならないしね。
そしたら、父さんと母さんが、『転校するか?』と話を持ちかけてきた。
まあ、あんな学校になんの未練もないし、いい機会だからその話に乗ることにした。
選んだ転校先は……兄さんのいる、あの高校。
それは、お金ばっかり無駄に使って何の役にも立たない兄さんに、せめて僕の世話をさせようという父さんと母さんの配慮だった。
ちょうどその近くに有名な進学塾もあったし、一流大学を目指すには悪くない環境だったこともあり、僕はそれを受け入れた。
まあそれに、久しぶりに兄さんの相手してやるのも悪くないしね。
そうして二年生になるタイミングで、僕は転校した。
だけど、そこで見たものは、僕の想像とはまるっきり違っていた。
だって……あの兄さんが、ギャルだけどものすごく綺麗な女子と楽しそうに一緒にいたんだから。
頭にきた。
壊してやろうと思った。
だから、まずはあの二人の関係について調べようと、新しいクラスメイト達に尋ねて回った。
だけど返ってきた反応は、全員が『その話題には触れないでくれ』と、敬遠するものばかりだった。
まあ、その理由は後で分かったけど。
そんな中。
『えへ、君もあの二人って、似合ってないと思うよねー!』
そう言って、僕の考えに同意してくれる女子がいた。
それが、隣の席に座る、“神森陽菜”さんだった。
彼女も黒髪ショートボブであまり目立たない子ではあったけど、愛くるしいその姿は、それでもこのクラスで一番可愛いと思った。
そんな神森さんは、兄さんとあの女子……“萩月しゆの”さんの情報を色々と教えてくれた。
あの“噂”の話やバイト先、果ては家族でも知らないような二人の個人情報に至るまで。
気味が悪かったけど、そんな彼女がいつも最後に僕に言う言葉。
『池田くんしか萩月先輩を救えないんだよ! このままじゃ、萩月先輩がカワイソウ! だから、頑張れ!』
その言葉に励まされて奮い立った僕は、何とかしてしゆのさんに理解してもらおうと、彼女に教えてもらったバイト先の喫茶店に足を運んだ。
なのに……。
「……なのに、なんでそれがストーカーだって言われるんだよ! 僕は、あのしゆのさんを助けようと……僕の傍において護ってあげようと、そう思っただけなのに……!」
僕はもう一度、ゴミ箱を思い切り蹴飛ばすと、壁にぶつかってポトリ、と床に落ちた。
——ピリリリリ。
「え……電話……?」
スマホを取り出して画面を見ると……発信者は父さんだった。
「も、もしもし……」
『ああ……和也、私だ。今度の日曜日だが、示談するために向こうと会うことになっているんだが……お前も一緒に来るか?』
「え……?」
父さんからの話は、まさかと思うようなものだった。
だって、僕にそんな気はないけど、向こうは僕のことをストーカーだと思っている訳で、そんな僕が一緒にいることを嫌がるんじゃ……。
「そ、その……そんなことできるの……?」
僕は電話の向こうにいる父さんにおずおずと尋ねる。
すると。
『ああ、もちろん。大体、向こうは被害者だと言っているが、言ってしまえばコッチこそが被害者な訳だからな』
「え? それはどういう……」
僕は父さんの言っている意味が分からず、思わず聞き返す。
『まあ、お前は何も心配する必要はない。とにかく、不出来な長男ではあるが、少しは役に立った』
「兄さんが?」
僕はますます分からなくなる。
だって、こんなことになったのは兄さんの責任なのに、それがどうして……。
『ははは、まあ、日曜日を楽しみにしていろ。そして、お前はそれまで大人しくしておくんだ』
「う、うん……」
僕は曖昧に返事をすると、通話を切った。
父さんがなんであんなに自信があるのかは分からないけど、それで僕の立場が良くなるなら何だっていい。
それに……あのクズ兄さんに仕返しができるなら、こんな嬉しいこともないしね。
「あはは、これでしゆのさんも、どっちが正しいのか理解するといいけどね」
僕は日曜日のことを考え、口の端を吊り上げた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の朝更新!
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