窓ガラスに映った女の子
ご覧いただき、ありがとうございます!
「ハハハ! いつもお世話になってます!」
「いえ、こちらこそお世話になってます」
マスターとの挨拶が終わった後、お母さんが今度は支店長とにこやかに挨拶を交わす。
「今日は親子水入らずでお出かけですかい?」
「え、ええ、まあ……」
支店長は何気なく聞いたんだろうけど、お母さんからしたら答えづらいよなあ……。
まさか、俺の弟のせいで警察に被害届出しに行ってただなんて、言える筈ないし。
「それで……少し塔也くんをお借りしてもよろしいですか?」
「塔也? ええもちろん!」
支店長のお許しもでたので、俺はお母さんと一緒に窓際奥の席に移動する。
「そ、そういえば、どうしてしゆのさんは喫茶店に?」
席に座るなり、俺はお母さんに尋ねる。
だって、俺はてっきり今日はバイト休むものだと思っていたし、マスター達だってそのつもりみたいだったし。
「うふふ、しゆのがね? 『ストーカーなんかに負けない! だって、アタシには塔也がいるんだし!』って言って、聞かないのよ。あの子なりに、塔也くんに心配かけたくないみたい」
「あ、そ、そうですか……」
うう、そうやって言ってくれるのは嬉しいけど、俺としてはしゆのさんの安全が第一で……。
「それに、しゆのが言う通り、塔也くんが守ってくれるんでしょ?」
「そ、それはもう! 絶対にしゆのさんに指一本触れさせませんから!」
ニヨニヨしながら俺を見つめるお母さんに、俺は勢いよく立ち上がって宣言した。
すると。
「あうう……塔也のバカ、大好き」
い、いつの間にかエプロンをつけて出てきたしゆのさんが、後ろから俺に抱きついてきた!?
というかお母さん……気づいてましたね?
「うふふ、じゃあ今日のことを説明するから、しゆのも座りなさい」
「うん!」
ということで、しゆのさんが俺の隣に座るなり、お母さんが説明してくれた。
被害届については無事警察が受理してくれたこと。
で、近日中に警察のほうからうちの実家あてに連絡して、事情聴取を行うとのこと。
その時に、今後しゆのさんに近づかないよう、警告してくれるらしい。
「……それで、本当は塔也くんへのつきまといについても対応してもらえればよかったんだけど……」
そう言うと、お母さんがガッカリした様子で肩を落とした。
「え、ええと……?」
「うん……お母さん、警察の人に一生懸命お願いしてくれたんだけど、『家族間のことなので、警察として言うことはできない』って……」
まさか、俺のことまで気にしてくれているとは思わなかった。
「あ、ありがとうございます! お気持ちだけで、本当に嬉しいです!」
「私としては、塔也くんだって大切な“息子”なんだから、何とかしたかったんだけど……」
お母さん……俺は、その言葉だけで十分です……。
「あは! とりあえずこれ以上は悩んでもしょうがないし、しばらく見守るだけだし!」
「うん、まあそうなんだけど、ね……」
でも……まだ何が起こるか分からない。
しゆのさんを一人きりにしないように、俺がいつも傍にいないと……!
「あは……塔也、無理しちゃダメだよ……?」
「しゆのさん?」
頬を赤く染めたしゆのさんが、俺に手に自分の手を重ね、上目遣いでそんなことを言った。
「塔也のことだから、アタシを守ろうとして無理しそうだもん。それに、そんな顔してたし」
「ええ!?」
う……お、俺って考えてることが顔に出やすいのかなあ……。
「んふふー、塔也のことだったら、なんだって分かるんだし」
そう言ってはにかむしゆのさん。
うう、恥ずかしいやら嬉しいやら……。
「あらあら、仲が良いわね。でも、しゆのが言った通り、無理は禁物よ?」
「はい……」
俺はしゆのさんとお母さんに釘を刺され、ただ頷くばかりだ。
◇
「んじゃ、塔也はこのまま上がっていいからな!」
「はい、お疲れ様でした!」
支店長が豪快に笑いながら喫茶店を出るのを、俺はお辞儀して見送った。
「じゃ、私もそろそろ仕事に戻るわね」
「あは! お母さんありがとう!」
「ありがとうございました!」
手をヒラヒラさせながら店を出るお母さんに、俺達も手を振る。
「さて……それじゃ俺はこのままじっとしてても落ち着かないから、マスター、何かお手伝いします」
「本当かい? いや、助かるよ」
「やったー! じゃあ、皿洗いと店の外の掃除お願い!」
嬉しそうに瑞希さんからエプロンを手渡され、俺は思わず苦笑した。
まあ……しゆのさんのこと、色々と気にかけてくれたしな。
ということで、俺はシンクに溜まっていた食器をまとめて洗う。
まあでも。
「いらっしゃいませー!」
こうやって笑顔で接客するしゆのさんを眺めながらする仕事も、楽しくて仕方ないんだが。
だからホラ、あれだけあった食器も、気がつけば全部洗い終わっているし。
じゃ、残りの外の掃除をするか。
バックヤードからバケツと雑巾を取り出し、表に出て窓ガラスを拭く。
うーん……結構汚れがひどいな。
一生懸命窓拭きにいそしんでいると。
「あれ?」
窓ガラスに映った、黒髪ショートボブの女の子が俺の目に入る。
この女の子は……。
俺は振り返って声を掛けようとする……が、その前に女の子は踵を返してどこかへ行ってしまった。
そして、俺はその女の子がいた場所を、しばらく眺め続けていた。
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次回は明日の朝更新!
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