予定外のギャルの出勤
ご覧いただき、ありがとうございます!
「あは、それじゃ行ってくるね!」
「塔也くん、終わったら連絡するわね」
次の日の放課後、しゆのさんは迎えに来てくれたお母さんと一緒に警察署に向かった。
和也のストーカー行為に対する被害届を提出するために。
「ふう……まあ、これで警察から和也……というかうちの両親に警察から警告される筈だから、もうあんな真似されることもない、と思うんだけど……」
うーん……それでもやっぱり心配だから、当分の間はしゆのさんを一人っきりにさせる訳にはいかないな……。
となると、明日からのしゆのさんのバイトは俺が送って行かないと、だな。
「っと、俺もバイトに行かないと」
そう呟くと、俺は早足でバイトへと向かった。
◇
「ふう……」
一通り今日の作業が終わり、俺は一息吐くと袖でグイ、と汗を拭った。
しゆのさん……無事に被害届は提出できたかな……。
まあ、お母さんも一緒だし、問題はないと思うけど。
「おーい塔也! 終わったんならちょっと付き合えよ!」
あ、支店長が大声で呼んでる。
なんだろう……追加で作業でもあるのかな……。
俺は急いで支店長の元に駈け寄ると、支店長はバシン、と俺の背中を叩いた。
「ハハハ! ちょっと仕事抜けて喫茶店行くぞ!」
「は、はあ……」
俺は曖昧な返事をしながらチラリ、と事務室を見回す。
……うん、事務員さんが支店長を睨んでるけど、見なかったことにしよう。俺は知らない。
「お前もしゆのちゃんに逢えるから嬉しいだろ~!」
などと、支店長はからかってくるが。
「あー、今日はお母さんと用事があって、しゆのさんはバイト休みです」
「何だ、そうかい。んじゃ、たまには瑞希ちゃんでもからかってやるかあ!」
そう言って、ガハハと笑う支店長。
というか、しゆのさんが居ようが居まいが、瑞希さんはからかわれる運命にあるらしい。
「んじゃ、行くぞ!」
「はい」
事務所を出て支店長の隣に並び、一路喫茶店へと向かった。
…………………………で。
「……オイ、塔也。アレってお前の弟、だよなあ?」
訝し気な表情で、支店長が指差す人物こそ、物陰に隠れて喫茶店の前を張り込みしている和也だった。
「……ですね」
「あ! オ、オイ!?」
俺は支店長の制止も聞かず、夢中で喫茶店の入口を凝視している和也の元に向かう。
そして。
「おい」
「何だよ……今俺は大事な……って、に、兄さん!?」
肩をポン、と叩いて声を掛けると、鬱陶しそうに振り返った和也がようやく俺に気づいた。
「あはは、奇遇だね」
「『奇遇だね』じゃないだろ……オマエ、何やってるんだ?」
「何って……別に……」
そう言うと、和也はプイ、とそっぽを向いた。
「何やってるんだって聞いてるんだよ! オマエ、この喫茶店に何の用だ!」
「べ、別に関係ないだ「関係あるから聞いてるんだ!」」
なおもとぼける和也の胸倉をつかみ、俺は大声で問い質す。
「オマエ……昨日もしゆのさんに会いに来たそうじゃないか」
「…………………………」
「いいか、よく聞け! しゆのさんに何かしてみろ! その時は……ただじゃおかない!」
「っ!?」
そう叫んで突き押すと、和也はよろけてその場で尻餅をついた
コイツのことだ、警察から警告を受けたとして、それを絶対に守るって保証はどこにもないからな。脅しでもなんでも、ちゃんと釘を刺しておかないと。
「チッ! クソ!」
和也はすぐに立ち上がり、忌々し気に俺を睨むと、逃げるようにその場を立ち去った。
「あー……お前の弟、とうとうあそこまで堕ちたかあ……」
「……はい」
渇いた笑いを浮かべながら、和也が去った後を眺める支店長に、俺はそう返事するのが精一杯だった。
「まあいいや、とにかく中に入ろうぜ」
「はい……」
苦笑する支店長の後に続き、俺は喫茶店の扉をくぐる。
「いらっしゃーい!」
「おや、いらっしゃい」
うん、店内にはやっぱりマスターと瑞希さんだけだった。
俺はそのことにホッとしつつも、それでもしゆのさんがいない景色に寂しさを覚えてしまう訳で……。
「で、ご注文は?」
「おう! 俺はブレンド!」
「俺は、レモンティーを」
「はーい」
瑞希さんは素早くおしぼりとお水を置くと、注文を取ってカウンターの中に入った。
というか……ちょっとだけ機嫌良さそう?
「ウーン……しゆのちゃんいないから、代わりに瑞希ちゃんでもからかおうかと思ったんだが……今日のところは止めとくか」
そう言って、支店長は頭を掻いた。
「えっと……どうしてですか?」
少し不謹慎ではあるが、支店長がそうした理由が知りたくなり、つい尋ねてしまった。
「おう……ちょっとばかし、瑞希ちゃんが機嫌悪いっつーか、落ち込んでるっつーか」
「そ、そうなんですか?」
俺には機嫌良さそうに見えるけどなあ……。
「ハハハ! まあな。さすがにこんな小っちゃい頃から知ってるからな」
支店長はコップをつかむと、クイ、と水を口に含んだ。
その時。
「あは! 遅くなりました!」
何と、お母さんと警察に被害届を出しに行っていた筈のしゆのさんが元気に店にやって来たのだ。
「え、ええ!? しゆのさん!?」
「あ! 塔也いらっしゃい!」
そう言うと、しゆのさんはバックヤードへと駆け込んで行った。
「ホントにもう、あの子は……」
少し遅れて、苦笑しながらお母さんもやって来た!?
「いつも娘がお世話になってます」
そしてマスターに深々と頭を下げるお母さん。
「い、いえ、ひょっとして、しゆのちゃんのお母さん、ですか……?」
マスターがおずおずと尋ねると、お母さんがニコリ、と微笑んだ。
そして、そんなお母さんを見るマスターの顔が少し赤くなった。
「……パパ、ママに言いつけるからね?」
「っ!? ちょ、ちょっとまて瑞希!?」
ジト目で眺める瑞希さんに、マスターがあたふたする。
はは、こんなマスター見たの、初めてかも。
「お! 瑞希ちゃん、調子出てきたな!」
「し、支店長! べべ、別に私はいつも通りなんだけど!?」
豪快に笑う支店長の肩を、瑞希さんは恥ずかしそうにポカポカと叩いた。
あ、そうか……瑞希さんもしゆのさんのこと、心配して……。
「瑞希さん、ありがとう」
「へ? なんで池田くんがお礼言ってるの?」
「なんでも」
キョトンとする瑞希さんに、俺は口元を緩めながらお水を飲んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は今日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




