アイツの弟がやって来て
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■萩月しゆの視点
「んふふー♪」
「お、しゆのちゃんご機嫌だね」
「あは! そうですか?」
お客さんにそんな風に声を掛けられ、思わず尋ねる。
ア、アタシ、そんなに機嫌よかったかな……。
「うんうん、何というか嬉しくて仕方ないって感じがするよ」
そう言うと、お客さんがうんうん、と頷いた。
そっかー……でも、それもしょうがないよね。
だって塔也ったら、学校の廊下で……ねえ。
「あ、あは! ごゆっくり!」
アタシは急に恥ずかしくなり、慌ててカウンターの中に入った。
「ハハハ、相変わらず塔也くんとは仲が良いみたいだねえ」
「や、やだなマスター……」
あう、マスターには図星だったみたい。
「ハイハイ、良かったねー。そりゃあ大好きな彼氏にハグなんてしてもらったら、浮かれるのもムリないよねー」
瑞希がジト目でアタシ睨んだかと思うと、悔しそうにプイ、と顔を背けた。
ていうか。
「……ひょっとしてアンタ……見た?」
「……まあ? 廊下であんな堂々と? 池田くんとハグ? なんかしてたら?」
ああー……メッチャ拗ねてる。
「ていうか、アンタもサッサと彼氏作ればいいじゃん」
「あああああ! もおおおお! ちょっと自分が学校一可愛くて、オマケに素敵な彼氏がいるからってえええええ!」
そう叫ぶと、瑞希はわしわしと頭を掻きむしった。
でも。
「あ、あは……塔也が素敵な彼氏って……その……よく分かってんじゃん……」
アタシは瑞希の言葉に気を良くし、つい照れてしまった。
「くううううううううう!」
「ああ……瑞希、お願いだからパパにそんな残念な姿を見せないでくれ……」
涙を流しながらトレイをガシガシと噛む瑞希に、マスターが憐憫のまなざしを向ける。
「あ、あは……」
アタシはなんてコメントしていいか分からず、思わず苦笑していると。
——カラン。
「いらっしゃ……っ!?」
入ってきたのは、塔也の弟だった。
ていうか、なんでこの喫茶店にまで!?
……やっぱり、例の『クラスの女の子』が教えたの?
アタシがその弟を睨みつけ、追い返そうと入口に向かおうとする……んだけど、どういう訳か、アタシの脚が、身体が動かない。
な、なんで……!?
「あ、こ、こちらへどうぞ」
すると、アタシの雰囲気を察して気を遣った瑞希が、弟を席へと案内してくれた。
なんで……アタシはホッとしてるの?
「ええと、ご注文は……」
「ああいや、できればしゆのさんに接客して欲しいかな?」
そう言って、弟はこちらに向かってにこやかに微笑む。
「は? ていうか勝手にアタシの名前を呼ぶなし!」
他にもお客さんがいるにもかかわらず、アタシは思わず叫んでしまった。
こうやって無理やりにでも叫ばないと、アタシは……。
「えー、そんな冷たいこと言わないでくだ「すいません、お客じゃないんだったら帰ってくれます?」」
なおも軽口を叩こうとする弟に、瑞希が睨みつけた。
ていうか瑞希……怒ってる?
「は? 一応僕も客なんだけど? その態度ってなくない?」
「当店では、人を不快にさせる方をお客様と認定しておりません」
うわ……何というか、瑞希の奴、辛辣だなあ……。
「……いや、アンタのほうこそ不愉快なんだけど?」
「はは、うちの従業員目的でわざわざやって来るあなたのほうが、余程不愉快……いえ、キモチワルイですけど?」
瑞希も弟もお互い譲らず、睨み合いを続ける。
や、やっぱりアタシが……!
アタシは自分の脚を力ずくで動かして、二人の元へ……って!?
「マ、マスター!?」
「まあまあ、ここはうちの瑞希に任せて」
マスターに制止され、アタシはカウンターの中から瑞希を見守る。
そして、それにホッとしている自分がいて……。
「そもそも、うちの従業員に何の用なんですか!」
「何の用って……そりゃあ悪い男に騙されてるみたいだから、僕が何とかしてあげ「はあ!?」」
弟の放った言葉が許せなくて、思わず声を上げてしまった。
言うに事欠いて、アタシの塔也を悪い男呼ばわりするなんて……!
塔也を悪く言われ、我を忘れたアタシはやっぱり二人の元に行こうとするけど……それでもマスターは行かせてくれなかった。
「アハハ! 悪い男って? ひょっとして池田くんのこと言ってる?」
「……それ以外に誰がいるの?」
馬鹿にするように嘲笑を浮かべる瑞希に、弟は不機嫌そうに顔を歪めた。
「なあんだ、聞いてみれば、要はうちの従業員の彼氏に嫉妬して、わざわざうちの店までやっかみを言いに来たんだ。うわダサ」
「っ!」
瑞希の言葉に、弟は勢いよく立ち上がる。
「え? 図星突かれたからって、キレたの? ホントダサいよね。ていうかキモイ。ストーカーじゃん」
「ひひ、人のことストーカー呼ばわりするなんて! 失礼じゃないか!」
とうとうキレた弟が、瑞希に詰め寄ろうとする。
だけど。
「オイオイ、瑞希ちゃんに何しようとしてるんだ?」
「さっきから聞いていれば、君、かなり不愉快だよ?」
「え……あう……」
お店にいた他のお客さんが二人に割って入ると、弟はしどろもどろになる。
ていうか、ああやってすぐにテンパるところ、ホント塔也とは大違いだし。
「……………………チッ」
とうとういたたまれなくなった弟は、舌打ちをしてお店の扉へ向かうと。
「またね、しゆのさん」
そう言い残し、お店を出て行った。
「あああああ! もう! パパ、塩! 塩ちょうだい!」
「ほら」
マスターから塩を受け取った瑞希はお店を出ると、「二度と来るなー!」と大声で叫んで塩をまいていた。
……本当に、もう二度と来ないで欲しい。
「あー……しゆのちゃんも災難、だねえ……」
「はい……」
「ホント! ふざけんな!」
まだ怒りが収まらないのか、戻って来た瑞希が叫びながらカウンターをバシバシと叩いている。
「ところで、彼は一体何者なの?」
「あ、あは……実は塔也の弟、なんです……」
「「「「うわあ……」」」」
そう告げた瞬間、マスターと瑞希……あ、他のお客さんも、一斉に微妙な顔をした。
「とてもあの塔也くんの弟とは思えないねえ……」
「ていうか、いつか犯罪行為に及びそう……」
……アタシも二人の意見に完全同意だし。
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次回は明日の朝更新!
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