この強さは、君がくれた
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「やあ、遅かったね」
「……和也」
アパートの前で、和也が俺達の帰りを待っていた。
「なあ……一つ、言いたいことがあるんだが……」
「? 何だい?」
今まで無視してきたのに、急に俺が話しかけたもんだから、和也は嬉しそうに返事をした。
「お前……そんなに俺に付きまとって、その……キモチワルイぞ……?」
「っ!?」
俺の言葉に相当頭にきたのか、和也は怒りに満ちた表情に変わった。
「うるさい! 兄さんが僕と話をしようとしないからだろ!」
「まあ……特にお前と話すこともないからな」
「僕にはあるんだよ! ……っていっても、兄さんがどうしてそこまで頑なに拒むのか、分かったけどね」
そう言うと、和也はチラリ、としゆのさんを見た。
「……彼女は関係ないだろ」
「いや、関係あるでしょ。ねえ、“しゆの”さん?」
「っ! 気安くアタシの名前を呼ぶな!」
和也に名前で呼ばれ、しゆのさんが吠えた。
それより……。
「お前、なんでしゆのさんの名前を知ってるんだ?」
「えー、だって、クラスの女の子に聞いたら、し……「だから名前で呼ぶなし!」……兄さんと同じくらい有名らしいからね。まあ、兄さんとは全然違う意味で、だけど」
そう言うと、和也はまたあの、舐め回すような視線でしゆのさんを見ようとする……が、そうはさせない。
「塔也……」
「はは、しゆのさんは俺の背中に隠れてて」
「えー、何で隠れちゃうかなあ……」
「決まってる。お前なんかに見られたら、ただただ不快だからだ。俺も、しゆのさんもな」
俺の言葉で、和也は顔を歪めて舌打ちした。
「チッ……まあいいや。とにかく、そんな理由で僕と暮らせないってことなら、色々と事情が変わるよね。このことは、“父さん”にも話しておくから」
「好きにしろよ」
「ふうん……兄さんのくせに、強気だね。それも、そこにいる人のお陰? それとも、母さんが言ってた、急に出てきた女の人がいるから?」
和也は、俺を睨みつけながら皮肉を込めて問い掛けてくる。
だが。
「別にお前には関係ないことだろ? お前はお前で、好きにあの両親を頼れよ」
「あはは、何言ってるの。兄さんにとっても、自分の親……「違う」」
俺は和也の言葉を遮り、強い口調で否定する。
「……俺が“親”だと心から想える人は、二人だけだ」
「あ……塔也……」
するとしゆのさんは、背中越しに俺を抱き締めてくれた。
「フン……あーあ、母さん悲しむだろうなあ、兄さんがまるで親子の縁を切るみたいなこと言っちゃうんだもんなあ」
「ウルサイ」
とぼけながらそんなことをのたまう和也に、とうとうしゆのさんがキレてしまった……。
「最初に縁を切ったのはオマエの親だし! 勝手に悲しめ! オマエ等がどうなろうが、知ったことか!」
しゆのさんは和也を睨みつけ、大声で罵倒する。
「あはは! 何、兄さん、彼女に守られちゃってるの? ダサ」
俺を煽るように腹を抱えて大笑いする和也。
だが。
「そうだな……俺にはこうやって、支えてくれる、理解してくれる、そして、温もりをくれる最高の彼女がいるんだ。それにひきかえ……オマエは可哀想、だな」
俺は、必死で大笑いのフリをする和也に、憐憫の眼差しを向けた。
結局のところ、和也はこうやって俺にマウントを取らないと、アイデンティティが保てないんだろう。
そう考えると、コイツも可哀想だって言えるかもしれない、な。
「ウ……ウルサイウルサイ! 兄さんのくせに! 僕なんかより圧倒的に劣るくせに!」
「ハイハイ、もうそれでいいよ。だから……もう俺に構うな」
そう告げると、俺はしゆのさんの手を取る。
「しゆのさん、行こう」
「塔也……うん!」
俺は唇を噛み締めて肩を震わせ、憎悪の眼差しを向ける和也の横を通り過ぎ、階段を昇って部屋へと入った。
パタン、と部屋のドアを閉めると。
「わ!」
「塔也……!」
しゆのさんが、俺の身体を抱き締めた。
「はは……以前の俺だったら、あんなこと言われたら立ち直れないくらいショック受けてたと思うが、今じゃ全然平気だよ。あ、もちろん、これは強がりなんかじゃない」
俺はしゆのさんの肩を抱く。
そして。
「だって……アイツに言った通り、俺にはしゆのさんがいる。お母さんも、お父さんもいる。後藤くんだって、古賀さんだって、支店長やマスターだって。だから、俺はもう、あんな程度の言葉に惑わされたりしない」
「塔也……!」
「はは、この強さは、全部しゆのさんがくれたんだよ」
そう言うと、俺はしゆのさんを抱き寄せ、そして、口づけを交わした。
「ん……ちゅ……」
「……しゆのさん、大好きだ」
「あは……アタシも……」
お互い見つめ合い、絆を確認した俺達。
「じゃ、余計な横やりが入ったけど、今からお祝いしようか! しゆのさん特製のビーフシチューで!」
「あは! うん!」
さあ、今日も二人で幸せな晩ご飯を始めよう。
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次回は今日の夜更新!
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