芽生えた「何か」
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教室を出た俺達は、昼ご飯を食べる場所として屋上につながる階段の踊り場にした。
ここなら、他の生徒達の視線を気にしたりすることもないから。
というか、俺は昼休みになるといつもここにいるんだが。
「んふふー、ウマウマ!」
美味しそうに弁当を頬張る萩月さん。
俺はそんな嬉しそうな表情の彼女を眺めながら、袋を破ってパンを取り出すと、一気にかぶりついた。
まあ、味は可もなく不可もなく、ってやつだな。当たり前か。
そんなことを考えていると。
「あ、そーそー。明日からは、三食のご飯はアタシが作るからね」
「ええ!?」
萩月さんからの突然の提案に、俺は驚きの声を上げた。
「い、いや、そんなことしてもらわなく「つーか、アタシがそうしたいの!」」
俺が遠慮しようとするが、萩月さんに言葉を遮られてしまった。
「大体、池っちみたいな食生活にしたら、アタシのこの身体がプヨプヨになるし!」
「う……」
「それに朝も言ったけど、自炊したほうが安上がりなんだから!」
「そ、それは聞いたが……でも……」
萩月さんに申し訳なくて俺がぐずっていると、彼女はそっと弁当を下に置いた。
「むぐ!?」
「あーもう! いちいちウッサイ! とにかく、アタシがしたいからそうすんの! だから、池っちはこうやって首を縦に振ればいいんだっての!」
萩月さんは、両手でサンドイッチする俺の顔を無理やり上下させた。
ち、力業……。
「はい! この話はおしまい!」
ピシャリ、とそう言うと、萩月さんは再び弁当を食べ始めた。
「萩月さん……」
「何? まだ何かあんの?」
名前を呼んだだけでキッ、と睨む萩月さん。
だけど。
「本当に、ありがとう」
俺はお礼を言うと、深々と頭を下げた。
萩月さんは、ああいったけど、本当は俺の事情を知っているから、俺の身体を気遣ってくれているから、そう提案してくれたんだ。
俺は……本当に、幸せだ。
「チョ、チョットやめてよ! アタシは池っちの部屋で世話になってんだし、ギブアンドテイクでしょーが!」
「いや、それでも! ……それでも、ありがとう」
「あ、あうう……」
とうとう照れくさくなったのか、萩月さんはプイ、と顔を背け、人差し指で真っ赤になった頬を掻いた。
「そ、そんなことより! 早くご飯食べないと昼休み終わるよ!」
「あ、ああ、そうだな」
結局その後、俺達は変にギクシャクしたまま昼ご飯を食べた。
◇
——キーンコーン。
放課後になり、俺は帰り支度を始めていると。
「オイ」
突然、クラスメイト数人に机を囲まれた。
恐らく、昼休みの件だろう。
「…………………………」
俺はクラスメイト達を無視するように席を離れようとするが、彼等は俺の前に立ち塞がった。
どうやら俺を帰す気はないらしい。
「つーかさ、ちょっと萩月さんに優しくされたからって、なに調子に乗ってんの?」
「大体、オマエみたいな奴、本気で萩月さんが構う訳ねえだろ!」
「はあ……ホント目障りだから、消えてくれない?」
いつも通りだが、言いたい放題だな。
とはいえ、昼休みの件などで萩月さんのことを悪く言う奴がいなくて一安心だ。
「……話はそれだけか?」
「はあ? んだ、その態度!」
俺は男子の一人に肩を思いきり押され、少しよろめく。
「俺は暇じゃない。そもそも目障りだというなら、こうやってわざわざ俺なんかに構わなければいいだろう」
「っ! この「へえ……何、その手?」……っ!? は、萩月さん!?」
いつの間にか、クラスメイト達の後ろには萩月さんが腕組みしながら立っていた。
「い、いや、コイツが生意気なこと言うから……」
「は? その前にアンタがなんて言ったか覚えてないの?」
萩月さんが下から睨みつけると、バツが悪いのか顔を背けた。
「そ、そもそも私達悪くないし! こんなクズが存在するからいけないんでしょ!」
「は?」
「っ!?」
萩月さんにものすごく低い声で威嚇され、女子の一人が思わずたじろぐ。
『つーかさ、ちょっと萩月さんに優しくされたからって、なに調子に乗ってんの?』
『大体、オマエみたいな奴、本気で萩月さんが構う訳ねえだろ!』
『はあ……ホント目障りだから、消えてくれない?』
「……どっちがクズか、これ聞いても分かんない?」
「「「…………………………」」」
萩月さんがスマホを掲げながら凄む。
いつの間に録音してたんだろう……。
「まあいいや、こんなクズ共放っておいて、早く帰ろ?」
「あ、ああ……」
俺は萩月さんに促され、そのまま教室を出ようとしたところで。
「あ、そうそう」
そう言った後、萩月さんは昼休みの時と同じように、クルリ、と後ろへ振り返った。
「また同じような真似したら、アンタ達のこと、さっきの音声と一緒に実名をネットで晒すから」
「「「っ!?」」」
そう言い残し、萩月さんと俺は教室を出ると。
「萩月さん、その……嬉しいけど、次からはあんなことしなくていいから」
俺は不機嫌そうに歩く萩月さんにそう告げると。
「は?」
ますます不機嫌になった彼女は、俺をギロリ、と睨んだ。
「あ、い、いや……そのせいで萩月さんに迷惑が掛かったら……「つーかさ」……っ!?」
言い切る前に、萩月さんが眉根を寄せながら、俺に詰め寄る。
「あんな奴等にそんな度胸ないし。仮に来たところで、また同じ目に遭わせるだけだし。それに」
萩月さんは一拍置くと、ジッと俺の顔を見つめた。
「……それに、池っちがあんな目に遭ってるの、黙って見てられる訳、ないじゃん」
「っ!」
そう言って、プイ、と顔を背ける萩月さん。
俺はそんな彼女から、目が離せなかった。
萩月さん……。
「さ、さあ! 今日は色々買い出ししなきゃいけないんだから、サッサと行くし!」
「あ、ああ!」
照れくさそうにしながら足早に歩く萩月さんの背中を追いかけながら、俺は自分の中で芽生えた“何か”を護るかのように、そっと胸に手を当てた。
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