二つの提案
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俺達“家族”は、その場で抱き合ったままだった。
それは、あっという間だったかもしれないし、かなりの長い時間だったかもしれない。
でも、俺にとってその時間は、離れがたい程……離しがたい程、温かくて幸せな時間で……。
すると。
「ふふ……せっかく“家族”水入らずで美味しいお寿司を食べてたのに、ホント迷惑な電話だったんだから……ねえ? あなた?」
「ははは、そうだね。とりあえず今後のことがあるから、そのお寿司でも食べてゆっくり話し合おうか」
「あは! そうだし! だ、だって……塔也とアタシのことだから……ね? 塔也?」
「うん……そうだね……」
俺達四人はお互いそっと離れると、笑顔でリビングへと戻った。
だって、身体は離れても、心がつながってる……それだけは、ハッキリと感じられたから。
「さあさ! お寿司の続き、食べましょ!」
「あは! 茶碗蒸し冷めちゃったから、アタシが温め直すね!」
「あ、俺も手伝……「うん、塔也に任せたら台無しになりそうだから、遠慮するし」……ヒドイ……」
「「「「あはははははははは!」」」」
ああ……いいなあ……。
温かい、なあ……。
「まあ、とりあえずお寿司をつまみながら、少し現実の話をしようか。二人が住んでいるアパートは来週の日曜日で契約が切れるのは事実だから、その後どうするかなんだが……」
「はい……」
そうだ……まだ、俺達の居場所について解決した訳じゃない。
お金はともかくとして、契約が切れる以上、代わりとなる部屋を日曜日までに探さないと……。
「そこで、塔也くんに二つ提案がある」
「二つ……ですか?」
そもそも提案って、どういうことだろう……。
「まず一つ目。これは、今いるアパートから引っ越して、僕達の家に住むこと。しゆのちゃんの部屋もそのままあるし、幸い、うちの家は空いている部屋がいくつかあるから、全然問題ない。それだけじゃない、生活費だって僕達と共同だから、一切かからないよ」
うぐう……一つ目の提案からものすごく魅力的な提案ではある……!
「ダ、ダメダメダメ! そんなのダメだし!」
おっと、ここでしゆのさんが反対を表明したぞ。
「しゆのちゃん、どうしてだい?」
「そうよ、すごくいい提案だと思うけど?」
「だ、だって……」
しゆのさんが口を尖らせ、チラリ、と俺を見た。
ああうん……しゆのさんが言いたいことは分かるよ。だって、俺も君と同じ思いだから。
「え、ええと……もう一つの提案というのは……?」
とりあえずこの提案は後回しにして、俺はもう一つの提案を尋ねた。
「うん。もう一つは、今住んでいるアパートの大家さんと、契約が切れる日曜日から新たに契約し直すってものだね。ただこの場合、既に次の入居者が決まっていたら、さすがに出て行くしかないんだけど、ね」
そう言って、お父さんが苦笑した。
でも……今まで通りあの部屋で……。
俺はしゆのさんをチラリ、と見る。
しゆのさんは笑顔で俺に力強く頷いてくれた。
うん……やっぱり俺の思いを理解してくれるのは、しゆのさんだけ、だな。
「お父さん……俺のこと、ここまで親身に考えてくださって、ありがとうございます」
「ははは、当然じゃないか」
俺はまず、俺のためにここまで心を砕いて提案してくれたお父さんに感謝した。
そして。
「それで……俺は、二つ目の提案である、今まで通りあのアパートで暮らすことを選びたいと思います」
「そうか……」
俺がそう答えると、お父さんは少しだけ残念な表情を浮かべながらも、どこか納得した様子だった。
「野暮なことだけど、どうしてそれを選んだか、聞いてもいいかい?」
「はい……俺はあの部屋に二年住んでますが、これまで色んなことがありました。といっても、そのほとんどが苦しいことばかりでしたが……」
俺は昔のことを思い出し、思わず苦笑する。
「ですが……たった二か月弱ではありますけど、あの部屋にはかけがえのないものがあるんです……」
すると、しゆのさんが俺の隣に座り、俺の手にそっと自分の手を添えた。
「うん、そうか……二人には、とても大切な場所なんだね」
「「はい(うん)」」
俺としゆのさんは、お互い見つめ合い、そして、微笑んだ。
そう……あの部屋は、俺としゆのさんだけの居場所なんだ……。
「あーあ、せっかく四人で一緒に暮らせると思ったのにー……」
「ははは、それは仕方ないよ」
拗ねたお母さんの髪を、お父さんが優しく撫でながら宥める。
「だけど! 二人であの部屋に住むんなら条件があるわ!」
「じょ、条件……ですか?」
お母さんの言葉に、俺はゴクリ、と唾を飲んだ。
「毎週土日は、特別な事情がない限り、この家で一緒に晩ご飯を食べること! いいわね!」
そう言うと、お母さんがニコリ、と微笑んだ。
「「はい!」」
俺としゆのさんは、元気よく返事した。
お母さん、お父さん……本当に、ありがとうございます。
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次回は明日の朝更新!
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