もう一つの居場所
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「ふふ、簡単なことですよ。住む場所も生活費も、全てうちで面倒見ますので、今後一切、塔也くんと関わり合いにならないで欲しいんです」
『っ!?』
お母さんから放たれた言葉に、スマホ越しにうちの母親の息を飲む声が聞こえた。
それはもちろん、俺にとっても衝撃的で。
「ふふ、そこまでお金を出し渋る上に、今までまともに塔也くんと接したこともないんですから、むしろあなたにとっても好都合なんじゃないですか?」
お母さんは皮肉を交えてそう告げる。
そして、うちの母親は……多分、お母さんの提案を受け入れるだろう。
『え、ええ……それなら、まあ……』
ほら、な。
「それじゃ、交渉成立ですね。ふふ、ではそのように……」
『あ、あの……本当に児童相談所には……』
「ええ、言いませんよ? あなた方が今の約束を反故にしない限りは」
『そ、そうですか……』
そう言って、安堵の溜息を漏らすうちの母親。
俺は……。
すると。
「しゆの、さん……?」
俺をより強く抱き締めながら、何故かしゆのさんは涙を流していた。
「ア、アタシがいるから! 塔也には、ずっとアタシがいるんだから!」
しゆのさんは、何度も何度もそう叫んだ。
まるで、俺に言い聞かせるように。
まるで、電話の向こうの俺の母親に言い放つように。
母親に捨てられた俺が、悲しまない……よう、に……!
「う、うう……!」
「塔也……塔也……!」
俺はしゆのさんの胸に顔をうずめ、声を殺して泣いた。
実の母親に捨てられた事実を受け入れるために……そして、そんな俺を受け入れてくれた、しゆのさんの想いに応えるために。
「……じゃあ、通話を……って、ああそうそう」
『まだ、何か……?』
「この会話、全て録音してありますから。後でなかったことに、なんてことはありませんからね?」
『…………………………』
「では……二度と塔也くんに近づくな、クズ」
——プツ、ツー、ツー……。
最後に強烈な捨て台詞を残し、お母さんは通話を切った。
「塔也くん……勝手な真似をしてごめんなさい……」
お母さんは俺に向き直ると、頭を深々と下げて謝った。
「や、やめてください! お、俺のほうこそ……本当に、申し訳ありません、でした……」
しゆのさんの胸から顔を起こし、俺もお母さんに深々と頭を下げた。
「そ、それで、生活費や家賃は、俺のバイトで何とかなり「塔也くん」」
俺がそう切り出すと、お母さんに言葉を遮られてしまった。
そしてお母さんの表情は、少し怒っているようにも見えた。
「塔也くん……責任感が強いのは悪いことじゃないけど、あなたはまだ高校生なの。だから、もう少し大人に頼ることを覚えなさい」
「で、ですが……っ!?」
するとお母さんは、俺の顔を両手で挟んで俺をジッと見つめる。
「こんなこと言うのはあなたにとって酷だけど、あなたのご両親は“親”として失格だったし、頼れるような環境にいなかったことも理解できる……でもね? あなたのことを大切に想っている大人だって、ちゃんといるのよ?」
「…………………………」
そう言って微笑むお母さんに、俺は何も言い返すことができない。
いや……俺にはその言葉がもったいなさ過ぎて、それを受け止めるのが怖くて……。
「そうだぞ塔也くん。君は僕達に、いつだって頼っていいんだ。君には僕達がいる、娘であるしゆのちゃんと同じように、君は僕達にとって、もう息子のように想っているんだから」
そう言うと、お父さんがニコリ、と微笑んだ。
「だから……僕達に、塔也くんのことを支えさせてくれないかな?」
「あ……ああ……!」
俺の目から、とめどなく涙が溢れる。
こんなこと、言ってもらったことがなくて。
こんな優しい言葉、言ってもらえるなんて思わなくて。
「ああ……あり、ありが……とう……ございます……!」
「塔也……!」
「「塔也くん!」」
嗚咽を漏らしながらも、感謝の言葉を伝えようと必死で声を出す。
そんな俺を、同じように涙を零すしゆのさんが抱き締めてくれて。
そんな俺達を、お母さんとお父さんは、微笑みながら優しく抱き締めてくれて……。
俺は……俺は、今日初めて、“家族”というもう一つの居場所を見つけた。
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次回は今日の夜更新!
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