母親と母親
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「? 塔也?」
スマホの画面を見て固まっている俺に、しゆのさんが不思議そうに声を掛けた。
「あ、ああ……ゴメン、ちょっと電話してくる……」
しゆのさんにそう告げると、俺は席を立って一旦リビングから出る。
そして、通話ボタンをタップすると。
「も、もしもし……」
『ああ、塔也。電話くらいすぐに出なさい。それよりあなた、ちゃんと和也に会った?』
開口一番、母さんは捲し立てるように皮肉と用件だけを話し始める。
というか、『ちゃんと和也に会った?』って何だよ。そもそもそんなこと、あらかじめ聞かされてないんだが。
……そう抗議しようと思ったが、どうせこの母親は俺の話なんて聞いちゃくれない。
なので、俺は半ば諦めて。
「ああ……下校のタイミングで向こうから話しかけられたよ」
『はあ……初めての学校であの子も緊張してるんだから、兄のあなたがどうして気遣ってあげないの……』
溜息と共に、そんな理不尽な言葉が電話の向こうから投げられる。
『まあいいわ……今日電話したのは、あなたが今住んでるアパートの件よ』
「アパート?」
? あの部屋が一体何だっていうんだ?
『ほら、和也もそっちに引っ越したでしょ? だから、これからはあなたも和也と一緒に住みなさい』
「はあ!?」
母さんから突然放たれた言葉に、俺は思わず声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! いきなり何を……!」
『いきなりって……当たり前でしょ? 二人別々に暮らしたら、お金だってかかるし、それに和也は今、再来年の大学受験に向けて一番大切な時期なの。だから、兄のあなたが世話をするのは当然でしょ?』
母さんは、何を馬鹿なことをとでも言わんばかりに、呆れた声でそう告げた。
だがそんなの、俺にとってはまさに死刑宣告と同じだ。到底受け入れられない。
しかも母さんは、弟は大学を受験することがさも当たり前であるかのように言いながら、高校三年の俺は、大学を受験しないことが既定路線みたいな話しぶりだ。
こんなの……こんなの……!
『とにかく、来週の日曜日には今のアパートも解約するから、すぐに出る準備しておくのよ?』
「ら、来週の日曜日!?」
そ、そんなすぐに!? メチャクチャだろ!
「む、無理だそんなの! 一週間もないじゃないか!」
『何? じゃああなた、その分余計にかかった家賃だったり生活費だったりを、あなたが負担できるの?』
母さんはまるで俺を馬鹿にするかのように、踏みにじるようにそう告げる。
それこそ、『オマエなんかに何ができる』とでも言わんばかりに。
「……分かった」
『そう? そんなこともいちいち言わないと分からないなんて、本当にあな「俺が、家賃も生活費も負担する」……て、はあ!?』
俺の言葉に、母さんがさっき以上の呆れた声を漏らした。
「自分のことは自分でする! 家賃も! 生活費も! 全部俺が賄う! だから……だから……!」
俺はスマホに向かって大声で叫ぶ。
こんな……こんな理不尽受け入れられるか!
あの部屋は……あの部屋は、俺の大切な、たった一つだけの居場所なんだ……!
『あらそう。でも残念だわ、もう大家さんと解約の手続きしちゃったし』
「っ!? ま、待ってよ! なんでそんな勝手に!」
『勝手にって……当たり前でしょ? 解約手続きは一か月前までにしないといけないの。だからあなたは、和也と一緒に住んで世話をするか、自分で別の部屋を探して、一人で生活するかのどちらかよ』
「そんなの……そんなのってえ……!」
『あら、泣いてるの? 情けない……あ、そうそう、あなたが『自分でする』って言ったんだから、契約の手続きとかも、全部一人で勝手にやりなさい』
……賃貸契約なんて、未成年の俺ができる訳……ないだろ……。
それも分かっていながら、こんな……こんな……!
その時。
「塔也くん、替わりなさい」
「え……?」
顔を上げると、いつの間にかお母さんとお父さんが目の前に立っていた。
そして。
「塔也……!」
しゆのさんが、泣きそうな表情で俺を抱き締めてくれた。
「じゃ、借りるわね」
「あ……」
お母さんはいきなり俺のスマホを奪うと、画面をタップした。
「失礼、あなたは塔也くんにどのようなご用件で?」
『は? いや、あなたこそ誰ですか?』
「私? 私は“佐久間美月”と申します。まあ、塔也くんの“親”、みたいなものでしょうか?」
え、ええ!?
お母さんの言葉に、俺は驚いてしまう。
というか、通話をスピーカーにした!?
「まあそういうことで、私はあなたにちゃんと名乗りましたが、あなたは“誰”ですか?」
『は、はあ……塔也の母ですが……』
「母? そうですか。では最初に戻りますが、塔也くんにどのようなご用件で?」
『ああいえ、塔也の弟の和也が、今日から同じ学校に通うことになったので、一緒に暮らすように話をしていたところで……』
「へえ……塔也くんの弟が今日から学校に通うのに、わざわざ今日になって連絡してきたんですか?」
お母さんの口調は、まるで詰問するかのようにうちの母親を質問攻めにしている。
『そ、そんなの、うちの家庭の事情ですから。あなたには関係ないでしょう?』
「いえ、先程も言いました通り、私は彼の“親”みたいなものですから。それで、なぜ今日になって?」
『…………………………』
なおも問い詰めるお母さんに、うちの母親は無言になる。
「ふう……これじゃ埒があかないわね……塔也くん、お母さんになんと言われたのか、説明してくれる?」
そう言うと、お母さんは俺に向かってウインクした。
「あ……はい……その、弟がコッチに来たから、今住んでるアパートを来週の日曜日までに出て、弟と一緒に暮らして世話をしろって……」
『っ!? 塔也! あなたは余計なこと「いいから、続けて?」』
うちの母親が慌てて止めようとしたが、お母さんはそれを制止し、俺に続きを促した。
「それで……だったら俺が、生活費も、家賃も全部自分で賄うって言ったんだ……! なのに……なのに、もうあの部屋は解約の手続きしたからって! 弟と一緒に住むか、自分で別の部屋見つけて勝手に契約しろって!」
俺は拳を強く握り締め、大声で叫んだ。
だって……こんな仕打ち、悔し過ぎるだろ……!
すると。
「あは……塔也、大丈夫だよ」
「し、しゆのさん……!」
しゆのさんが、俺をギュ、と優しく抱き締めてくれた。
「はあ……今の話、本当なんですか?」
『……い、いえ、その……』
「ハッキリ言いなさい!」
『あ、だ、だけどこれはうちの問題で……』
「言っておきますが、これは“虐待”ですよ? 分かっているんですか?」
『ち、違うわよ!? ね、塔也、違うわよね?』
お母さんから“虐待”だと告げられ、狼狽したうちの母親が、まるで懇願するかのように俺に同意を求める。
今さら……今さら……!
「とにかく、これは電話だけで済む話でもなさそうですので、直接会って話をしますか? 児童相談所で」
『…………………………』
「まあ、そうは言っても私としても塔也くんのためにも穏便にしたいので、こちらの条件を一つだけ飲んでいただければ、この件はなしにしましょうか?」
『……というと?』
お母さんの言葉に、うちの母親は縋るように尋ねる。
「ふふ、簡単なことですよ。住む場所も生活費も、全てうちで面倒見ますので、今後一切、塔也くんと関わり合いにならないで欲しいんです」
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次回は明日の朝更新!
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