ギャルと弟
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「やあ兄さん、久しぶり!」
「か、和也……!」
俺を呼ぶ聞き覚えのある声に振り返ると、そこには何故かうちの学校の制服を着た俺の弟、“池田和也”が笑顔で立っていた。
「ど、どうしてここに……?」
「アハハ、実は二年生からこの学校に転校してきたんだよ。より一流大学への進学率が高い塾がこの街にあってね」
「そ、そうか……」
和也の答えに頷くと、俺は俯いた。
「ねーねー塔也、コイツ誰?」
しゆのさんが俺の後ろからヒョコッと顔を出し、おもむろに尋ねた。
「あ、ああ……俺のおと「弟の和也です! 兄がお世話になってます!」」
すると和也は俺の説明を遮り、ズイ、と身を乗り出して自己紹介をした。
「別にアンタに聞いてないし。ま、いっか。塔也、行こ?」
そう言ってしゆのさんは俺の腕をグイ、と引っ張る。
「あ、ああ……和也、それじゃ」
「アハハ……またね」
俺としゆのさんはにこやかに手を振る和也を無視するかのように、その場を離れた。
「あのさ……こんなこと、塔也に言うのはアレなんだけど、アイツはダメだね」
校門をくぐるなり、しゆのさんは開口一番、そんなことを言った。
「え、ええと……和也の奴、しゆのさんに何かしたの?」
「そうだね……まず、塔也が話してる最中に勝手に自分アピールって、バカだよね」
「ああ……」
それは確かに俺も感じたな……。
「で、アイツの視線、まるでアタシを値踏みするみたいに見てたし」
「何だって!?」
和也の奴……! よりによってしゆのさんに!
「あは……まあまあ、そもそもアタシの相手になんないんだから、塔也も怒るだけムダだし。でも……ありがと」
そう言うと、しゆのさんは俺の腕にしがみついた。
「ま、とにかく、塔也は実家から離れて正解だし、今後も学校でアイツは無視するに限るし」
「そうだな……」
俺はしゆのさんの言葉に頷く。
だけど……和也がコッチに来たんだ。絶対にうちの親は、俺の所に連絡してくるだろう……。
それも、俺に対して理不尽な話をぶつけてくるに違いない。
すると、しゆのさんが抱き締める力を強くした。
「あは……大丈夫だよ、塔也。塔也にはアタシがいる。葵だって、後藤だって、それにうちの両親だって、みんな塔也の味方なんだから」
そう言って、しゆのさんはニコリ、と微笑んだ。
「ああ……そうだな……」
しゆのさんの言う通り、俺は以前の俺じゃない。
俺には、こんなに俺のことを想ってくれるしゆのさんがいるんだから。
俺はそんなしゆのさんに微笑み返すと、俺達の居場所であるあの部屋へと帰路についた。
◇
「お疲れ様でしたー!」
「おう、塔也お疲れ!」
バイトも終わり、支店長に挨拶すると俺は事務所を出て喫茶店へと向かう。
今日はこの後、しゆのさんの実家に一緒に行くのだ。
というか……俺からすれば、緊張しかない。
いや、もちろんご両親のことは重々承知しているし、絶対に歓迎してくれるってことは分かってはいるが、それでもその……彼女の実家だなんて、お作法も何も分からないし……。
そうやって悶々をしているうちに、喫茶店に着いてしまった。
——カラン。
喫茶店のドアを開けると。
「いらっしゃ……塔也!」
お客さんが帰った後のテーブルを片づけていたしゆのさんが、俺の姿を見るなり、ぱあ、とその表情を笑顔に変えた。
「しゆのさん、迎えに来たよ」
もちろん俺も、そんなしゆのさんを見て頬を緩めながら、いつものようにそう告げた。
こうやってしゆのさんを迎えに来るのは、俺だけが許された特権なのだ。
「うん、それじゃしゆのちゃんはもう上がっていいよ」
「はい! 塔也、この食器洗って支度するから、ちょっと待っててね!」
「ああ」
マスターは終わっていいとそう告げるが、ちゃんとキッチリ仕事を終わらせないと気が済まない頑張り屋でしっかり者のしゆのさんは、大急ぎで食器を洗う。
ま、だったら。
「あ……塔也」
「これは俺に任せて、しゆのさんは帰る支度をしておいで」
「あは……うん」
そう言うと、しゆのさんは口元を緩めながらバックヤードへと入って行った。
さて……それじゃ食器を……って。
「ええと……瑞希さん、どうしたの?」
俺は、こちらをジト目で睨む瑞希さんに声を掛けると。
「あーあー、萩月さんはいいなあ……こんな素敵な彼氏がいるしー……」
はい、完全にいじけモードでした。
というか、毎回毎回こうやって絡むのは止めて欲しい。
「はは、だったら瑞希も彼氏を作ればいいじゃないか」
「それができたら苦労しないの!」
マスターにごもっともな指摘をされるが、瑞希さんは逆ギレして返した。
というか瑞希さん、切ないな。
「あは、おまたせ!」
「うん、こっちもちょうど洗い終わったところだよ」
うん、ナイスタイミングでしゆのさんが支度を終えて出てきた。
こういうところも、その……相性なのかな。
「ねえねえ! パパと池田くんが私をイジメ「いや、知らんし」」
しゆのさんに泣きつこうとした瑞希さん。
だけど、そう返されるの分かってるのに、なんでまた……ホント、残念だ。
「「マスター、失礼します!」」
「うん、お疲れ様」
俺達はマスターに挨拶すると、店を出てしゆのさんの家へと向かい、そして、家の前へと着いた。
「うう……緊張するなあ……」
「あは! そんな必要ないし! ……だって、塔也はその……う、うちの家族みたいなもの、だし……(ボソッ)」
「? しゆのさん?」
「あ、ああああ!? いや、なんでもないし!」
? 最後、なんて言ったんだろう……?
ああいいや。それより、粗相がないようにしないと……!
俺は緊張する胸を押さえながら、スーハー、と呼吸を整え……って!?
「あは! ただいまー!」
俺の心の準備を待たずに、しゆのさんが玄関を開けてしまったぞ!?
すると。
「お帰りしゆの! 塔也くんもいらっしゃい!」
「やあ、よく来たね!」
多分、俺達が来るであろうタイミングを見計らって、玄関で待っていてくれたんだろう。
しゆのさんのお母さんとお父さんが、満面の笑みで俺達を出迎えてくれた。
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次回は明日の朝更新!
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