世界一の幸せ
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「あは! 池っち、おはよ!」
そこには、いつもと同じ笑顔を見せる、萩月さんが立っていた。
「ど、どうして……」
俺は嬉しさのあまり涙を流しながらも、彼女がこの部屋にいる理由が分からず、思わず呟く。
だって、萩月さんは自分の家に居場所を取り戻して、もうこの部屋に思い残すことは何もない筈なのに……。
「あー! 池っち、ひょっとしてアタシを追い出す気でしょ!」
そう言うと、萩月さんは頬を膨らませて抗議する。
そんな彼女の仕草が可愛くて、俺は泣き笑いをしてしまう。
「フン! 池っちがアタシを追い出そうとしたって、絶対に出てってやらないし! も、もう、一生つきまとってやるんだし!」
鼻を鳴らしてプイ、とそっぽを向く萩月さん。
俺は……俺は……!
「萩月さん!」
「ちょ、ちょっ……池っち……」
気がつけば、俺は萩月さんに駈け寄り、その小さな身体を抱き締めていた。
強く……もう離すまいと強く。
「萩月さん……萩月さん……!」
「あ、あは……池っち……」
俺の胸の中で苦笑する萩月さん。
だけど……俺はその抱き締める腕を離さない。離したくない。
「俺……俺、萩月さんはもうこの部屋には戻ってこないと思ってた……」
「あは、まさか……だって、アタシの居場所は……アタシがいたい場所は、ここだけだし……」
萩月さんはそう言うと、俺の背中をポンポン、と叩いた。
「アタシこそ……池っちはもう、アタシなんていらないと思ってた。うちの家族のことだって、ただの恩返しでしてくれただけだろうし、そもそもアタシ、池っちに酷いこと……言ったし……」
「まさか!」
俺は萩月さんの言葉を、大声で否定した。
もちろん、俺は萩月さんに返し切れない程のたくさんのものを貰った。だけど、萩月さんとご両親とのことについては、俺が大好きな萩月さんに幸せになって欲しいから、そうしただけだ!
それに……いつ萩月さんが俺に酷いことを言ったんだよ!
萩月さんは、いつも俺に優しい言葉を、嬉しい言葉だけをくれたじゃないか……!
「俺は……俺は、萩月さんからたくさんの言葉を貰ったよ? 萩月さんの言葉で、俺は本当に幸せになれたんだ……俺は……!」
俺は抱き締めている腕を緩め、萩月さんの両肩に手を添えた。
「池っち……?」
「萩月さん……俺……俺……!」
何かを期待するような、何かに怯えるような、そんな瞳で俺を見つめる萩月さん。
さあ……今度は俺が想いを伝える番だ。
昨日、萩月さんがご両親にしたように……!
俺はすう、と息を吸うと。
「萩月さん……俺は、君が好きだ」
「っ!」
俺の告白に、萩月さんが息を飲む。
そして。
「あ……あは……い、けっち……嘘、じゃ……ない、よね……?」
ジッと俺を見つめ、震える声で尋ねる萩月さんに、俺は力強く頷いた。
すると。
「ア、アタシも……アタシも! 池っちが好き! 大好き! 優しい池っちが好き! 頑張る池っちが好き! アタシのご飯を美味しそうに食べる池っちが好き! いつだってアタシを見てくれる池っちが好き! いつもアタシに寄り添ってくれる池っちが好き! 池っちが……池っちが、世界一大好きい……!」
そう叫びながら、萩月さんが俺の胸に飛び込んでくると、力一杯俺を抱き締めてくれた。
「萩月さん……! 俺も、優しい君が好きだ! いつも明るい君が好きだ! 君の笑顔が、温もりが……君の全部が、俺を幸せにしてくれるんだ……!」
俺も萩月さんを強く抱き締める。
絶対に離したくないと、絶対に離れないと、ありったけの想いを込めて。
俺は……世界一、幸せだ……。
◇
「あは……いっぱいギュ、ってしたね……」
「うん……でも、もっとこのまま……」
「うん……」
どれくらい時間が経っただろうか。
俺と萩月さんは、今も抱き合ったままだ。
もっと、このままでいたい。
もっと、萩月さんと抱き締め合っていたい。
「ね……バイト、休んじゃう……?」
「あ……」
萩月さんのささやきに、俺は我に返ってしまう。
さすがにバイト休んで、支店長に迷惑をかける訳にはいかない……だけど……。
すると。
「あは……またバイトが終わったら、池っちに一杯抱きつくし……」
そう言うと、少し残念そうな表情をしながら、萩月さんが離れた。
そして、俺はそんな彼女の温もりが名残惜しくて、つい手を伸ばしてしまう。
「ん……ありがと……」
萩月さんはそんな俺の手を取り、幸せそうな表情で頬ずりをした。
「さ! サッサと朝ご飯作るから、池っちは布団をたたんで支度する! もう時間もあんまりないし!」
「え、あ、ああ……」
様子が打って変わり、ムン! と気合を入れた萩月さんに、俺は一瞬ポカン、としてしまったが、苦笑していそいそと布団をたたむ。
ああ……幸せだ……。
支度も終わり、急ピッチで朝ご飯の準備をしている萩月さんの傍によってその様子を覗き込むと。
「あは……もうすぐできるから、もうちょっと待ってて」
「うん」
頬を赤く染めながらはにかむ萩月さんに、俺は短く返事をする。
とはいえ、俺はここから一歩だって動きたくない。
「もう……そうやってアタシの邪魔してー……」
「う……」
萩月さんに苦笑され、俺は思わず口ごもってしまう。
「そんな悪い池っちには……エイ!」
「え……!?」
「ん……ちゅ……」
突然……萩月さんにキス、されてしまった……。
「あ、あは……それ、三回目のキス、だし……」
「へ……!?」
キスと、萩月さんから放たれた言葉に、俺は思わず呆然とする。
「チョ、チョット待って!? 三回目ってどういうこと!?」
「んふふー、気になる?」
顔だけじゃなく耳も首も真っ赤にしながら、上目遣いで悪戯っぽく言う萩月さんに、俺は何度も頷く。
だけど。
「あは! 教えてあげない!」
「ええー!?」
そして、昨日の夜はあれ程広く感じた四畳半の部屋を、ペロ、と舌を出しながら俺から逃げ回る萩月さんで埋め尽くされていく。
これからも、俺は優しくて、明るくて、可愛くて、悪戯好きな萩月さんに振り回されながら、毎日を過ごすんだろう。
だけど。
「は、萩月さん!」
「あは! もうアタシを捕まえるのは諦め「大好きだ!」」
そう叫んだ瞬間、萩月さんが一瞬止まる。
その隙に、萩月さんの腕をつかむと。
「はう!? い、池っち反則だ……し……」
彼女を引き寄せ、俺の胸に抱き締める。
——こんな萩月さんとの毎日なんて、最高に幸せだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
これで第二章、萩月家関係修復編は終わりになります!
次回から閑話として、萩月家の話し合いの中身や、二人の春休みについて投稿予定です!
そして、それが終わればいよいよ第三章!
第三章では池っちと萩月さんも三年に進級します……が、とうとうあの池っちの実家が絡んできます!
それを、二人はどう断罪するのか……お楽しみに!
次回は明日の朝更新!
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