表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボッチな俺の理解者は、神待ちギャルのアイツだけ  作者: サンボン
第二章 救われたアイツがギャルを救う
52/96

ギャルのいない部屋

ご覧いただき、ありがとうございます!

「ふう……」


 店を出た俺は軽く息を吐き、重い足取りで帰路につく。


 あの誰もいない、四畳半の小さな部屋に向かって。


 安アパートの前に着いた俺は、錆びた階段をカン、カン、と音を立てながら上がり、鍵を開けて部屋の中に入る。


 当然だけど、部屋の中は綺麗に整頓され、清潔感に溢れていた。


 はは……一か月前は足の踏み場もないくらい汚かったのにな。


 そんなことを考えながら、俺はテーブルの前に静かに腰を下ろした。

 ああ……そういえば、まだ晩ご飯、食べてなかったな……。


 俺は四つん這いになりながらシンクの前に行き、下の戸棚を開ける。

 カップ麺は、と……お、あったあった。


 戸棚の一番奥に追いやられていたカップ麺を一つ取り出すと、(ふた)を開けてかやく(・・・)と粉末スープを入れる。

 で、ケトルに水を入れ、火にかけて、と。


 俺はお湯が沸くまで、スマホを取り出してSNSサイトを……と思ったが、かぶりを振ってまたポケットにしまった。


 結局はケトルをジッと見つめたまま、待ち構えていると。


 ——ピーッ!


 ケトルからけたたましく音が鳴り、俺はガスコンロの火を止める。


 で、カップ麺にお湯を注ぎ、テーブルへと移動した。


 三分経ち、蓋をめくると湯気が沸き立った。


「さて……いただきます」


 食事前に手を合わせるのも、すっかり習慣になったな……。

 そんなことを考え、俺は思わずクスリ、と笑う。


 で、箸で麺をつかみ、俺は口に運んでズルズルと一気にすする。


「はは……カップ麺って、こんなに不味かったっけ……?」


 この一か月、三食全て萩月さんの手料理だったもんだから、完全に舌が肥えてしまっていた。

 もったいないので、俺は無理やりカップ麺を口の中に放り込み、そのまま胃の中にスープで流し込んだ。


 で、残ったスープをシンクに流し、そのままゴミ箱に放り込んだ。

 以前はむき出しのゴミ袋に入れるだけだったが、萩月さんとホームセンターで布団と一緒にゴミ箱を買ったんだよな……。


 さて……ご飯も食べたし、シャワーを浴びて、歯みがきしてサッサと寝よう。


 俺は服を脱ぎ散らかして風呂場に入り、シャワーの蛇口をひねる。


 熱い湯を頭から浴びながら、ボディシャンプーを……………………あ。


 ボディシャンプーの横に並べられている、萩月さん用のシャンプーとトリートメントを見て、思わず唇を噛む。


 そして、あえて目を逸らしながらボディシャンプーをスポンジにつけ、身体を洗った。


 で、その後はシャンプーをしないといけないから、結局同じ場所にある萩月さんのシャンプーが嫌でも目に付く訳で……。


 俺は、また見ないフリをして、ボトルをプッシュしてシャンプーを掌に乗せると、勢いよく頭を洗う。

 色々なものを、振り払うように。


 風呂から上がり、俺はジャージに着替えて歯ブラシを手に取る。

 一緒に立てかけられている、もう一本の歯ブラシにあえて気づかないフリをしたまま。


 歯みがきを終えた俺は、布団を敷く。

 もちろん、俺の分だけ。


「……寝るか」


 布団の上に座りながらそう呟くと、俺はぐるり、と部屋の中を見回した。

 はは……おかしいな、俺の部屋、四畳半しかない筈なのに……すごく広いや……。


 そして、部屋の隅に置いてある、キャスター付きのスーツケース。

 これも……明日、萩月さんに渡さないとな。


 そんなことを考え、俺は布団をかぶる。


 この部屋に萩月さんがいない事実から、目を背けるために。


 何だよ俺……一か月前に戻っただけだろうが……。

 なのに……なのに何で、こんなにむなしいんだよ、苦しいんだよ、寂しいんだよ……!


 俺は布団の中で、自分の胸倉をつかむ。

 このポッカリ開いてしまった胸の穴を、無理やり塞ぐかのように。


 だって、俺はこれを受け入れなくちゃいけないから。

 もう“代わり”が必要なくなった萩月さんが、この部屋に戻ることはないって事実を。


 もう……萩月さんには“居場所”があるんだから。


「はは……分かっていたことだけど、こんなにつらいんだな……」


 もちろん、月曜日になれば萩月さんには学校で逢える。

 関係だって、今までと何も変わらないだろうって分かってる。


 でも……萩月さんがこの部屋にいないって事実が、俺をどうしようもなく不安にさせるんだ。

 だって、萩月さんが俺と一緒にいてくれたのだって、この部屋しか彼女の居場所がなかったから、俺が“代わり”でいたから、たったそれだけの理由でしかないから……。


 だから……どんな形だっていい。

 俺は、萩月さんとの“繋がり”が欲しいんだ。


 世界一優しくて、明るくて、笑顔が素敵で、そして、誰よりも大好きな萩月さんとの繋がりが……。


 でも……。


「これで……良かったんだ……」


 俺はポツリ、と呟き、無理やり自分自身に言い聞かせる。


 萩月さんが居場所を……幸せを取り戻せて、良かったじゃないか……って。


 だから。


 そんな自分自身の弱い心に蓋をするように、布団にくるまって膝を抱える。


 一晩寝れば、俺も受け入れられる。

 明日になれば、以前の俺に戻れる。


 必死で自分自身にそう言い聞かせながら耳を塞いでいたら、俺は、いつの間にか深い眠りに落ちていた。


 ◇


 ——ピピピ。


「ん……んう……」


 俺は目を瞑ったまま、耳障りなアラームを鳴らすスマホを手探りで探す。

 そしてスマホを見つけると、停止ボタンをタップして近くに放り投げた。


 起きないと……だな……。


 ——トントントン。


 ん? この音……。


 それは、昨日まで、毎朝聞いていた音。


 俺の心を満たしてくれる……そんな音。


 っ! まさか!?


 俺は慌てて飛び起きる。


 ——そして。


「あ……ああ……」


 俺の瞳から涙が零れる。


 だって……だって……!


「あは! 池っち、おはよ!」


 だって、萩月さんが変わらない笑顔で、そこにいたんだから……!

お読みいただき、ありがとうございました!


次回は今日の夜更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 天国を知ったから、かつての環境が地獄だったことが判ってしまう。もし、このまま離れてしまっていたら、本当に地獄だっただろうなあ。 もどってきてもらえてよかったねえ。まあ、この後どうやって行くの…
[一言] どうして萩月さんが、池田くんのおうちに戻ってきてるのか、私、気になります!
[良い点] 池っち……もうカップ麺生活には戻れないよね(泣) 美味しいご飯を好きな人と食べられる幸せってかけがえのないモノですもん…… そしておかえり萩月さん!!笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ