ギャルのいない部屋
ご覧いただき、ありがとうございます!
「ふう……」
店を出た俺は軽く息を吐き、重い足取りで帰路につく。
あの誰もいない、四畳半の小さな部屋に向かって。
安アパートの前に着いた俺は、錆びた階段をカン、カン、と音を立てながら上がり、鍵を開けて部屋の中に入る。
当然だけど、部屋の中は綺麗に整頓され、清潔感に溢れていた。
はは……一か月前は足の踏み場もないくらい汚かったのにな。
そんなことを考えながら、俺はテーブルの前に静かに腰を下ろした。
ああ……そういえば、まだ晩ご飯、食べてなかったな……。
俺は四つん這いになりながらシンクの前に行き、下の戸棚を開ける。
カップ麺は、と……お、あったあった。
戸棚の一番奥に追いやられていたカップ麺を一つ取り出すと、蓋を開けてかやくと粉末スープを入れる。
で、ケトルに水を入れ、火にかけて、と。
俺はお湯が沸くまで、スマホを取り出してSNSサイトを……と思ったが、かぶりを振ってまたポケットにしまった。
結局はケトルをジッと見つめたまま、待ち構えていると。
——ピーッ!
ケトルからけたたましく音が鳴り、俺はガスコンロの火を止める。
で、カップ麺にお湯を注ぎ、テーブルへと移動した。
三分経ち、蓋をめくると湯気が沸き立った。
「さて……いただきます」
食事前に手を合わせるのも、すっかり習慣になったな……。
そんなことを考え、俺は思わずクスリ、と笑う。
で、箸で麺をつかみ、俺は口に運んでズルズルと一気にすする。
「はは……カップ麺って、こんなに不味かったっけ……?」
この一か月、三食全て萩月さんの手料理だったもんだから、完全に舌が肥えてしまっていた。
もったいないので、俺は無理やりカップ麺を口の中に放り込み、そのまま胃の中にスープで流し込んだ。
で、残ったスープをシンクに流し、そのままゴミ箱に放り込んだ。
以前はむき出しのゴミ袋に入れるだけだったが、萩月さんとホームセンターで布団と一緒にゴミ箱を買ったんだよな……。
さて……ご飯も食べたし、シャワーを浴びて、歯みがきしてサッサと寝よう。
俺は服を脱ぎ散らかして風呂場に入り、シャワーの蛇口をひねる。
熱い湯を頭から浴びながら、ボディシャンプーを……………………あ。
ボディシャンプーの横に並べられている、萩月さん用のシャンプーとトリートメントを見て、思わず唇を噛む。
そして、あえて目を逸らしながらボディシャンプーをスポンジにつけ、身体を洗った。
で、その後はシャンプーをしないといけないから、結局同じ場所にある萩月さんのシャンプーが嫌でも目に付く訳で……。
俺は、また見ないフリをして、ボトルをプッシュしてシャンプーを掌に乗せると、勢いよく頭を洗う。
色々なものを、振り払うように。
風呂から上がり、俺はジャージに着替えて歯ブラシを手に取る。
一緒に立てかけられている、もう一本の歯ブラシにあえて気づかないフリをしたまま。
歯みがきを終えた俺は、布団を敷く。
もちろん、俺の分だけ。
「……寝るか」
布団の上に座りながらそう呟くと、俺はぐるり、と部屋の中を見回した。
はは……おかしいな、俺の部屋、四畳半しかない筈なのに……すごく広いや……。
そして、部屋の隅に置いてある、キャスター付きのスーツケース。
これも……明日、萩月さんに渡さないとな。
そんなことを考え、俺は布団をかぶる。
この部屋に萩月さんがいない事実から、目を背けるために。
何だよ俺……一か月前に戻っただけだろうが……。
なのに……なのに何で、こんなにむなしいんだよ、苦しいんだよ、寂しいんだよ……!
俺は布団の中で、自分の胸倉をつかむ。
このポッカリ開いてしまった胸の穴を、無理やり塞ぐかのように。
だって、俺はこれを受け入れなくちゃいけないから。
もう“代わり”が必要なくなった萩月さんが、この部屋に戻ることはないって事実を。
もう……萩月さんには“居場所”があるんだから。
「はは……分かっていたことだけど、こんなにつらいんだな……」
もちろん、月曜日になれば萩月さんには学校で逢える。
関係だって、今までと何も変わらないだろうって分かってる。
でも……萩月さんがこの部屋にいないって事実が、俺をどうしようもなく不安にさせるんだ。
だって、萩月さんが俺と一緒にいてくれたのだって、この部屋しか彼女の居場所がなかったから、俺が“代わり”でいたから、たったそれだけの理由でしかないから……。
だから……どんな形だっていい。
俺は、萩月さんとの“繋がり”が欲しいんだ。
世界一優しくて、明るくて、笑顔が素敵で、そして、誰よりも大好きな萩月さんとの繋がりが……。
でも……。
「これで……良かったんだ……」
俺はポツリ、と呟き、無理やり自分自身に言い聞かせる。
萩月さんが居場所を……幸せを取り戻せて、良かったじゃないか……って。
だから。
そんな自分自身の弱い心に蓋をするように、布団にくるまって膝を抱える。
一晩寝れば、俺も受け入れられる。
明日になれば、以前の俺に戻れる。
必死で自分自身にそう言い聞かせながら耳を塞いでいたら、俺は、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
◇
——ピピピ。
「ん……んう……」
俺は目を瞑ったまま、耳障りなアラームを鳴らすスマホを手探りで探す。
そしてスマホを見つけると、停止ボタンをタップして近くに放り投げた。
起きないと……だな……。
——トントントン。
ん? この音……。
それは、昨日まで、毎朝聞いていた音。
俺の心を満たしてくれる……そんな音。
っ! まさか!?
俺は慌てて飛び起きる。
——そして。
「あ……ああ……」
俺の瞳から涙が零れる。
だって……だって……!
「あは! 池っち、おはよ!」
だって、萩月さんが変わらない笑顔で、そこにいたんだから……!
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は今日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




