紡がれた絆
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「あ……」
カフェの扉をくぐった俺達は、窓際奥の席に座るご両親を見つける。
すると、萩月さんが声を漏らし、俺の手をギュ、と強く握った。
「萩月さん……行こう」
俺は萩月さんの手を握り返し、彼女に微笑みかけた。
「あは……うん……」
萩月さんは少しはにかんだ後、まっすぐにご両親を見つめ、俺と一緒に席へと向かった。
「お待たせしました」
「あ、う、ううん……私達も今来たところだから……」
お母さんはそう言うが、テーブルにあるコーヒーの量を見れば、それなりに早く来ていたことは窺えるけど。
「そ、そうだ、二人は何を注文する?」
お父さんが緊張しながらメニューを俺達に薦めるんだが……俺達、まだ席に着いてないです。
「萩月さん、座ろうか」
「あ、そ、そうだね……」
萩月さんも緊張しているせいか、声が震え、動きもぎこちない。
とにかく、俺と萩月さんは席に着き、お父さんからメニューを受け取る。
「萩月さんはどれにする?」
「え……? ア、アタシは、池っちと同じレモンティーで……」
「そう? ……って、どうして分かったの?」
「あ、あは……池っちは喫茶店でもいつもレモンティー注文してるし……」
まあ、確かにいつもレモンティーだけど……。
「ふふ……二人とも、本当に仲が良いのね……」
「「…………………………」」
お母さんに指摘され、俺と萩月さんはお互いの顔を見合わせた。
もちろん、恥ずかしいやら照れくさいやらで、俺達の顔は真っ赤になっているが。
だけど、そのお陰で場の緊張が少し解けたから良かった。
「ご注文はお決まりですか?」
「すいません……レモンティーを二つ」
「かしこまりました」
店員さんにオーダーし、俺達は改めて二人に向き直った。
「しゆの……まずは、ごめんなさい……」
最初に切り出したのはお母さんだった。
「お母さん、しゆのの気持ち、何も分かってなかった。ただ、しゆのはお母さんが働いているせいで、家のことに縛られて、自由も何もない……そう思ってた」
「…………………………」
「……だけど、本当は違ったのよね。なのにお母さんときたら、そんなしゆのの気持ちも分からずに、しゆのの誇りを傷つけて、しゆのの居場所を奪おうとして……」
「あ……」
震える声で話すお母さんに、萩月さんは声を漏らした後、俺のほうを見る。
そして俺は、ただ静かに首を縦に振った。
「……僕も、しゆのちゃんの父親になるってことを、もっとちゃんと考えるべきだった。僕は、しゆのちゃんの父親になるって決意しておきながら、本当の意味で覚悟が足らなかったんだ」
お母さんの言葉を引き継ぐように、今度はお父さんが静かに話し始める。
「もっと……もっと、ちゃんとしゆのちゃんと話をするべきだったんだ。もっと、しゆのちゃんの話を聞いて、僕の気持ちを……君のお父さんになりたいって想いを伝えないといけなかったんだ。そのためにどうすればいいか、三人でしっかりと考えていくべき、だったんだ……」
そう言うと、お父さんは萩月さんを真剣な表情で見つめる。
それは、萩月さんの想いを全部受け止めよう、自分の想いを全部伝えようとする、お父さんの覚悟の表れだった。
そして、萩月さんはそんな二人の言葉を受けてしばらく俯いた後、顔を上げて二人を見つめる。
「ア、アタシは……アタシは、そ、その……佐久間さんがお母さんと結婚するってなった時、嬉しかった……だって、今までアタシを育てるために一生懸命頑張ってくれたお母さんが、これからはお母さん自身の幸せのために過ごして欲しいって思ったから……」
「「…………………………」」
「でも……そしたら、アタシは家のこと一切やらないで、自由にしていいって言われて……お母さんの面倒も、佐久間さんが全部するって言われて……訳、分かんなくなって……」
そう言うと、萩月さんはキュ、と唇を噛む。
「でね? アタシ……今までしてきたことは、無かったことにされたと思って、アタシのしてきたこと、全部無駄だって言われたと思って、そして、アタシはいらないって言われたように思って……そ、それで……!」
萩月さんは涙をぽろぽろと零しながら、声を震わせながら、二人に訴える。
今まで我慢していた思いを、腹の底から全部吐き出すように。
「しゆの……! ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「しゆのちゃん……本当に、ごめん……!」
そんな萩月さんの心の叫びを、お母さんも、お父さんも、涙を流しながら受け止める。
そして。
「私は、あなたをいらないなんて思ったことはないわ……! だって、しゆのは私のたった一人の娘で、私の誇りだもの……!」
「僕も! ……僕も、美月さんが嬉しそうに話すしゆのちゃんのことを聞いて、実際に逢って、ああ……こんな素晴らしいしゆのちゃんの、本当の父さんになりたいって、心からそう思ったんだ……!」
「あ……あ……!」
三人がテーブルを挟みながら、手を伸ばし合う。
「おかあ、さん……お、おとう……さん……!」
「っ! しゆのっ!」
「しゆのちゃん!」
そして三人は、お互いの手を握り合い、肩を震わせてむせび泣いた。
まるで、家族としての絆を固く結ぶかのように。
……もう、大丈夫……だよね?
俺は静かに席を立つ。
「あ、い、池っち……」
萩月さんは涙でくしゃくしゃになりながら、俺を見つめる。
だから……。
俺はニコリ、と微笑んで頷くと、そのまま店を出た。
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次回は明日の朝更新!
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