父親の悩み
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萩月さんのお母さんが襲撃? してから一週間が経った。
それまでの間、お母さんも再婚相手の佐久間さんも、俺や萩月さんに接触してきたりすることはなかった。
それに、今までは毎晩あった萩月さんのスマホへの着信やRINEも……って、いや、これはマズイんじゃ……。
「ウーン……よく考えろとは忠告したけど、さすがにこれはどうなんだ?」
俺は倉庫で荷物の仕分けをしながら頭を捻っていると。
「オーイ、池田くんにお客さんだよ」
「へ? 俺に、ですか?」
お客さんって……誰だ?
俺は呼びに来てくれた事務員さんと一緒に事務所のほうへと戻ってみると。
「や、やあ……」
「佐久間さん……」
俺あての来客者は、佐久間さんだった。
わざわざ俺の所に会いに来たってことは、どうするのか答えが見つかったってことなのかな。
「ええと……塔也くん、少し話をしたい……というか、相談に乗ってもらいたいんだけど、いいだろうか……」
おずおずとそう尋ねる佐久間さん。
俺としては、こうやって相談に来たということは、この人が萩月さんとの関係を何とかしたいという気持ちの表れでもあるので、相談に乗ろうとは思うが……。
俺、仕事中なんだけど。
「ハハハ! 塔也、行ってきていいぞ!」
「支店長!」
どうやら話を聞いていたらしく、事務室のデスクで書類とにらめっこしていた支店長が許可を出してくれた。
「ということですので、俺で良ければ」
「! ありがとう!」
佐久間さんは嬉しそうにお礼を言うが、俺としては萩月さんのため、という思いだけなので、別に礼はいらないんだが。
「そ、それじゃ、場所を移そうか」
「あ、はい」
俺と佐久間さんは事務所を出ると、佐久間さんの車……名前は知らないけど高そうな外車に乗り、大通りにあるカフェに来た。
この間、俺は車に圧倒され緊張のあまり一言も話せなかった……。
で、店に入ると、俺達は窓際奥の席に座った。
「何でも好きな物頼んでね」
「は、はあ……」
ニコニコしながらメニューを勧める佐久間さんだが、何というか……多分、人が良いんだろうなあ。
だから、萩月さんにクレカ渡したりしたのも、百パーセント善意っぽい。
……やり方が正しいかどうかは別として。
とりあえず、俺はレモンティーを、佐久間さんはコーヒーを注文した。
「それで、相談……というのは、萩月さんのことだと思いますが、どのような……?」
「あ、ああ、うん……その、君に指摘されてから、美月さんとも一緒に色々考えてみたんだけど……」
そう言うと、佐久間さんは俯き加減でせわしなく指を動かしている。
「そ、その! ……正直、本当にどう接したらいいか分からないんだ……」
「え、ええと……」
思い悩んだ表情で、佐久間さんが訴えかけるように俺を見る。
だが、それについて俺が言えることなんて。
「まずは接してみるしかないのでは?」
「そ、それはそうなんだけど……僕は今までずっと独身でいて、美月さんと結婚していきなり高校生の娘ができて、その、仲良くしたいんだけどどう話せばいいか、本当に分からないんだ……」
「ああ……」
成程……どうやら佐久間さんは。女子とどう話せばいいか分からない、拗らせた中二男子みたいになってしまっている、と。
「……別に女子高生だからって、普通に接すればいいと思うんですが……」
「そ、それはそうだよ!? そうなんだけど……は、恥ずかしながら、僕は女性そのものが苦手で……」
ええー……そんなこと言われても……。
「で、ですが、萩月さんのお母さん……美月さんとはご結婚されたんですよね? でしたら……」
「だ、だから美月さんとも緊張ばかりで、何とか彼女が色々と世話を焼いてくれたというか、尽くしてくれたというか……」
あ、それ分かる。
そうかー、萩月さんのあの包容力は、お母さん譲りなんだな。
「佐久間さん、それ、すごく分かります。分かりますが、萩月さんは美月さんではないので……」
「ああ、うん……それは分かってるんだけど……」
うん、佐久間さん自身は萩月さんのお父さんになりたい意志はひしひしと感じるので、後は接し方次第、だな。
「とにかく、かなり拗らせている状態なので、萩月さん自身から佐久間さんに歩み寄ってくることはないと思います。こうなったら、佐久間さんが萩月さんに近づくしかありません」
「う、うん……」
「なので、萩月さんと話をする時には、佐久間さんが誠意をもって、萩月さんのお父さんになりたいって気持ちを伝えてください。もちろん、萩月さんは辛辣な言葉をぶつけてくるでしょう。それでも、佐久間さんはそれに負けることなく、想いを訴えてください」
俺がそう伝えると、佐久間さんはテーブルをジッと見つめ、唇を結んだ。
そして。
「うん……僕が、しゆのちゃんを怖がっていては駄目なんだよね……分かった、君の言う通り、しゆのちゃんに僕の気持ちを誠心誠意伝えるよ。『君のお父さんになりたい』って」
「はい、ぜひそうしてあげてください。萩月さんだって、佐久間さんがお父さんになることを反対している訳ではないんですから」
「ほ、本当かい!?」
俺の言葉に、佐久間さんがテーブルに身を乗り出す。
というか、ここまで真剣にお父さんになりたいと考えている佐久間さんなら、変にすれ違わないように萩月さんの気持ちを知っておくべきだと思うし。
「はい。むしろ萩月さんは、今まで育ててくれたお母さんの幸せを考えて、お二人を祝福しているんです。ただ、想いがすれ違っているだけなんです」
「そ、そうか……うん……」
ウーン、イケオジが嬉しそうにする姿、女性からしたらたまらないだろうなあ。
いや、もちろん男子高校生の俺には何一つ刺さらないが。
「なので、以前みたいな萩月さんへの対応は絶対ダメですからね? 特に、クレカだけ渡していいお父さんだと勘違いするようなことは」
「う……そ、そうだね……」
俺がそう告げると、佐久間さんは恐縮して身を縮ませた。
「そして……これは、俺からのお願いです。どうか、萩月さんの気持ち、分かってあげてください。萩月さんは、今までお母さんのことや家のこと、全部支えてきて、そんな自分の居場所をいきなり失くしてしまったんです。だから……」
そう言って、俺はテーブルに額をつける程、佐久間さんに深々と頭を下げた。
「うん……僕はしゆのちゃんの父親になるためにも、彼女と話すよ……もっと、お互いを知るために……」
「よろしく、お願いします」
ふう……佐久間さんについては、これで大丈夫……かな。
話を終えた俺達はカフェを出て、佐久間さんに事務所まで送ってもらった。
だけど。
「あ、塔也くん」
「? はい?」
「これからは僕のこと、“お父さん”と呼んでくれていいからね?」
な、なんてことを……。
去り際に放った佐久間さんの言葉に、俺は思わず額を押さえた。
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次回は今日の夜更新!
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