お互いの準備
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「……ただし、お母さんに萩月さんは逢わせられません」
「はあ!? どうしてっ!」
「美月さん!」
俺の言葉に、お母さんはついさっきまでのことを忘れ、また俺に食って掛かってくるが、イケオジに窘められる。
「お母さん……ならお聞きします。お母さんは、GPSで萩月さんの居場所も把握されてるんですよね?」
「……ええ」
「だったら、どうして直接逢いに行かず、わざわざ俺に逢わせようとさせる……いえ、俺に間を取り持たせようとするんですか?」
「…………………………」
俺の問い掛けに、お母さんは無言で俯いた。
「……ちゃんと萩月さんと向き合う覚悟もなく、そんな卑怯なやり口で萩月さんと逢おうとしているうちは、少なくとも俺から萩月さんとの間を取り持つつもりはありません。お引き取り下さい」
「……美月さん、彼の言う通りだ……今日は出直そう……」
「…………………………」
イケオジに促され、お母さんは無言のまま車の中に乗り込んだ。
「塔也くん……今回は本当に申し訳ない。今後このようなことがないように、彼女には僕から話をしておくから……」
イケオジは本当に申し訳なさそうに僕にそう言うが……。
「……一つ、聞いてもいいですか?」
「……なんだい?」
「あなたは、萩月……しゆのさんの、新しいお父さん……ですよね?」
すると。
「……ああ。僕は、彼女……萩月美月さんの上司で、夫で……そして、しゆのちゃんの父親、“佐久間信二”だ」
やっぱり……。
この人が、萩月さんのお母さんの再婚相手で、新しい父親……。
「……といっても、僕はしゆのちゃんに父親って、認めてもらえてないみたいだけど、ね……」
少し自虐的にそんなことを言うと、佐久間さんは静かにかぶりを振った。
だけど……そうか、萩月さんは佐久間さんを父親だと認めてないから出て行ったと、そう勘違いしてるのか。
「……俺の口からこんなことを言うのは筋違いですし、萩月さんの家庭のこと、俺が口を挟む資格もありません」
俺は、気がつけば佐久間さんに口を開いていた。
この勘違いしている佐久間さんが、ちゃんと向き合えないで姑息な手段にでようとしたお母さんが、どうしても許せなくて。
だから。
「ですがあなたもお母さんも、萩月さんのこと……何も見ようとも、何も知ろうともしないんですね」
「っ! ……じゃあ、僕は……僕達は、どうすればいいんだ……」
「もう一度、お二人でよく考えてください。失礼します」
そう言うと、俺は支店長に一声かけてから倉庫に戻り、作業を再開した。
◇
「あは! 池っち!」
今日の仕事が終わって喫茶店に行くと、萩月さんが笑顔で出迎えてくれた。
「やあ、池田くん、今日もご苦労様。それじゃしゆのちゃん、今日はもう上がっていいよ」
「あ、はい! ありがとうございます! それじゃ、すぐ支度してくるし!」
マスターの許可をもらった萩月さんは、笑顔でバックヤードに向かった。
しかし……今日の両親の件、萩月さんに話すべきか……。
俺は頭を悩ませつつ、萩月さんが出てくるのを待っていると。
「池っち、お待たせ!」
「あ、ああうん、それじゃ行こうか」
「うん!」
「「マスター、失礼します!」」
「はい、お疲れ様」
ということで、俺と萩月さんは喫茶店を出ると、近所のスーパーへと向かう。
「んふふー、池っちは今日何が食べたい?」
「俺? うーん、そうだなあ……」
俺は顎に手を当てながら思案する。
昨日は肉じゃがだったし、今日は……って。
「そういや、萩月さんの得意料理は何?」
「へ? アタシ? アタシはねえ……煮物系も得意だけど、意外と中華も得意だし」
「中華かあ……だったら、麻婆豆腐は?」
「もちろん、できるし!」
「じゃあそれで!」
「あは! オッケー!」
うんうん、麻婆豆腐は良いぞ? 特に、ごはんの上にかけて、一緒に口の中に書き込んだ時の美味さときたら……。
「池っち、よだれよだれ」
「え? あ、ああ、本当だ」
というか、よだれ姿を萩月さんに見られてたのか……恥ずかしい……。
「あは、もう……しょうがないなあ……」
「はは、面目ない」
苦笑する萩月さんに、俺は思わず頭を掻いた。
◇
「ごちそうさまでした!」
「あは、お粗末さまでした」
うん、麻婆豆腐は最高でした。
お蔭でごはんを二回もおかわりしました。
さて……。
「萩月さん、ちょっといいかな?」
「ん? どうしたの?」
ご飯を食べ終えて足を崩していた萩月さんが、一瞬だけキョトンとしたが、大事な話だと俺の様子から気づいたみたいで、居住まいを正した。
「うん……今日、俺……萩月さんのご両親に会った」
「はあ!?」
まあ、萩月さんも驚くよな。
「というか、萩月さんのお父さん……ええと、佐久間さんの会社が、うちの運送会社の取引先で……」
「う、うん……」
「それで、今日は君のお母さんがやってきた訳で……」
「だ、だけど、お母さんもあの人も、池っちのこと知らない筈だし、向こうは気づいてなかったんじゃ……」
「それが……」
俺は萩月さんのスマホにGPSアプリが入っていて、それで俺の部屋の場所なんかから俺の素性を調べたらしい旨伝えた。
「最悪……」
「……まあ、ご両親も萩月さんのことが心配だったんだろう……やり方は別として」
頭を抱える萩月さんに、俺はなんとか宥める。
「……だったらうちのお母さん、池っちに変に絡んだりしてない……?」
「え!?」
萩月さんの指摘に、俺は思わず仰け反った。
な、なんでそれを……。
「い、いや、そんなことはなかったが……」
俺はあえて今日のことは言わず、言葉を濁した。
「た、ただ、ご両親と話をする件については、もうしばらく様子を見たほうがよさそうだったよ」
「あ、あは! そう……そうだよね!」
俺のその言葉に、萩月さんはホッとした表情を見せた。
昨日はああ言ったものの、多分萩月さん自身もまだ心の準備ができていないんだろう。
ふう……これは、俺がそれぞれの様子を把握しながら、タイミングを見計らうしかない……。
俺はなかなかハードルの高いミッションに思わず眉根を寄せる、が……。
「やるしかない、な……」
萩月さんに聞こえないようにポツリ、と呟くと、俺は決意を込めてそっと拳を握った。
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次回は明日の朝更新!
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