理不尽な脅迫
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「まあいいわ! それはあの子に聞いたら分かるし! それよりも、早くあの子に逢わせなさい!」
萩月さんのお母さんは、俺に詰め寄り、娘に逢わせろの一点張りだ。
というか、絶対に逢わせられないぞ、これ。
「え、ええと……申し訳あり「あなたの意志は求めてないの! あなたはサッサとしゆののいるところに案内すればいいのよ!」」
うん、全く聞く耳を持たない。
それよりも。
「は、話は変わりますが、どうして俺が萩月さんと一緒にいるって知ってるんですか?」
「フン! 決まってるわ! しゆののスマホのGPSから、あなたの家を割り出したのよ!」
あー……萩月さん、スマホにGPSアプリ入れられてたのかー……。
だから、俺の部屋の住所も把握して、そこから俺のバイト先も……ってことか。
だったら。
「すいませんが、お引き取り下さい」
「はあ!? あなたにそんなことを言う資格ないでしょ!」
「ですが、俺はあなたを彼女に逢わせることはできません」
「いい加減にしなさい! どうしてもしゆのに逢わせないって言うなら、こことの取引、全部引き上げてもいいのよ!」
このお母さん、とんでもないこと言い出したぞ!?
大体、それとこれとは別の話だろ!
「さあ! どうするの! たかがバイトでしかないあなたの一存で、この会社が大損害を受けることになるのよ!」
チクショウ! 汚い!
それが……それが、大人のやることかよ……!
俺はチラリ、と支店長を見る。
支店長は腕組みをしながら、静かに目を閉じていた。
支店長……すいません……。
「俺は「悪いが、そういうことなら契約は破棄だ。帰ってくれ」……って、支店長!?」
なんと支店長が、お母さんに対して突き放すように言った。
「し、支店長……」
「ハッ! 当たり前だろう! たかが高校生の……しかも、うちの大事なバイトにこんなくだらねえ脅しかけやがって! そんなふざけたこと言われるくらいなら、こんな取引願い下げだ!」
支店長はお母さんに向かって大声で叫ぶ。
というか、俺のせいで取引パーになったら申し訳なさ過ぎて仕方ないんだが!?
「はあ!? 本当にいいの!? 私が言うのもなんだけど、これだけの取引をたかだかバイト一人のために棒に振るワケ!?」
「アンタ……たかだかバイト一人って言ったな。じゃあアンタ、そのバイトと同じこと、たった今やってみろ」
「はあ!?」
そう言うと、支店長は事務所を出て倉庫へ向かう。
お母さんもよく分からないといった表情で、仕方なく支店長の後をついて行った。
「この倉庫の仕分けは、塔也がほぼ一人でやったもんだ。さあ、契約も破棄になったんだ、今すぐ引き取ってくれないと邪魔なんだよ」
「はあ!? こんなの、私一人で運べる訳……」
支店長の剣幕と放たれた言葉に、お母さんがたじろぐ。
というか、悪いがお母さん一人でこれを撤収するのは不可能だろう。
「どうした? アンタが馬鹿にした塔也は一人でやったぞ?」
「ウ、ウルサイ! そんなの、何で私が……ちょっと待ってなさいよ!」
そう言うと、お母さんはスマホを取り出し、どこかに電話を掛ける。
「……ああ、私……ちょっと取引先とトラブルで……ええ……男の子、二、三人とトラック一台手配してもらえる? ええ……ええ!? あ、あの人には言う必要はないわ! ……ええ、よろしくね」
お母さんの電話の相手は分からないが、多分、同じ会社の人だろう。
話の内容から察するに、荷物を運ぶための助っ人と運搬用のトラックを手配したようだ。
「も、もう少ししたらうちの従業員が引き取りに来るから……」
「コッチはそんなの待てねえんだが?」
「……そ、その……もう少しだけ……」
あー……完全に立場逆転してる……。
しかも、支店長がこんな怒ってるの、初めて見たぞ……。
だけど。
「支店長……すいません、俺のせいでせっかくの取引が……って、わっ!?」
俺は申し訳なさのあまり、支店長に深々と頭を下げると、支店長に頭をわしゃわしゃとされてしまった。
「全く……お前は気にしなくていいんだよ!」
そう言うと、支店長はニカッと笑った。
ああもう……絶対に支店長に頭が上がらないな……。
お母さんは居たたまれない様子で、スマホの画面を何度も見たり入口付近を窺っていると、一台の車がやってきた。
「す、すいません! なにかトラブルが!?」
やって来たのは、この前のイケオジだった。
「ああ。オタクの社員が、うちのバイトにケチつけた挙句、言うこと聞かないと契約破棄するって言われたんで、コッチからお断わりさせてもらったんですよ」
支店長は低い声でイケオジにそう説明すると、イケオジはお母さんへと向き直った。
「美月さん……これは、どういうことだい?」
「あ、あなた違うの! この子がしゆのと逢わせようとしないから!」
いや、いくら会社の人とはいえ、そんなプライベートなことを理由に説明していいものなのか?
「……美月さん、これはあくまで会社の取引としてここにお願いしているものだよ? それを、君は……」
「あう……」
イケオジに詰められ、お母さんが視線を泳がせる。
「この度はうちの者がご迷惑をお掛けし、申し訳ありませんでした……できましたら、引き続き取引させていただきたいのですが……」
「あ……あなた……」
そう言うと、イケオジは支店長に深々と頭を下げた。
「んー……謝る相手が違うだろ。アンタんとこの社員が下手な脅しをかけたのは、ここにいる塔也だ」
「そうか……すまない、塔也くん。どうか、許してはもらえないだろうか……」
「え、い、いや、俺は……もう、気にしてませんから……」
うん、脅されたことに関しては、支店長があそこまで言ってくれたし、イケオジにも誠意ある謝罪をしてもらったので、これ以上どうこういうつもりはない。
だが。
「……ただし、お母さんに萩月さんは逢わせられません」
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