ギャルだけが、俺を認めてくれた
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新連載四話目!
「ふう……上がったよー」
バスタオルでゴシゴシと髪を拭きながら上がってきた萩月さん。
う、そ、その……やはり風呂上がりの女の子というのは刺激が強すぎる……!
「お、俺も入って来る」
俺は恥ずかしくなってしまい、俯いたまま大急ぎで風呂場へ向かう。
「あはは! ギャップがすごい!」
そんな俺の様子を見て、萩月さんはケラケラ笑っている。
く、くそう……俺だって健全な男子高校生なんだよ……。
風呂場に入ってシャワーを浴びながら、何とかして平常心を取り戻そうとするが……その、萩月さんが使ったであろうシャンプーやボディソープの香りを嗅いでしまうと……ク、クラクラしてきた……。
は、早く出よう……。
風呂から出てジャージに着替え、部屋に戻ると、萩月さんはドライヤーで髪を乾かしていた。
「あ、池っち、ドライヤー借りてるよ」
「あ、ああ、好きに使ってくれて構わない」
それよりも、この部屋に引っ越して以来、ドライヤーなんて一度も使ったことがないから、無事動いて何よりだ……。
「だけど、池っちの部屋って殺風景だねー。必要最低限って感じ」
「ああ……」
それはそうだろう。
すぐにでも一人になりたかったから、必要最低限のものだけで引っ越してきたんだから……。
「ところで、池っちはどうやって一人暮らし認めてもらったの?」
髪を乾かし終わったのか、萩月さんはドライヤーの電源を切るとそんなことを尋ねてきた。
「どうしてそんなことを聞く……?」
「ん? いや、ちょっと参考に、ね……」
理由を尋ねると、彼女は寂しそうな表情を浮かべながら俯いた。
家出の件と、関係があるんだろうな……。
「……聞いても、つまらないと思うぞ」
「それでもいいから、聞きたい……」
彼女は真剣な表情で俺を見つめる。
あの“噂”を知っていても、ちょっとは俺と言う人間を認めてくれた彼女だから……その、話しても、いいかな……。
「俺の実家は、親父とおふくろと、一つ年の離れた弟がいて……」
俺は訥々と、萩月さんに語り始めた。
◇
うちの両親は教育熱心で、俺も小さい頃から塾だの何だのと、色々習い事をさせられていたんだ。
で、俺はどうにも要領が悪くてな。算数の式を解くのでも、人一倍時間が掛かったりしていた。
運動神経も平凡そのもの、ハッキリ言ってしまえば、何の取り柄もなかったよ。
だけど、弟は俺とは違った。
弟は勉強も運動もそつなくこなし、常に優秀な成績を収めていた。
だから、俺はよく弟と比べられていたよ。
弟はあんなにできるのに、兄であるお前は何でできないんだ、ってな。
もちろん俺だって悔しいから、必死で勉強したさ。
だけど弟と比べれば全然駄目で……そのうち、両親からは何も期待されなくなった。
俺が家で何をしていようが、外で何をしていようが、両親は全く興味がないんだ。
両親が愛しているのは、才能のある弟だけ。
多分、俺が野垂れ死んでいても、うちの両親なら気づかないんじゃないか?
それでも、俺は両親に振り向いて欲しくて、寝る間も惜しんで必死で勉強した。
その成果もあって、俺は中学二年の一学期の期末テストで、初めて学年で三番になったんだ。
俺は嬉しかったよ。
これで、両親は俺のことを見てくれる。
そう思って、急いで家に帰った。
すると両親は、リビングで泣いている弟を心配そうな表情で慰めていた。
様子を窺っていると、どうやら弟は期末テストの結果が芳しくなかったようで、珍しく学年で五位以内に入らなかったとのことだ。
「と、父さん、母さん、その、これ……」
俺は褒めて欲しくて、二人にテスト結果を見せたんだ。
だけど。
「お前は成績が悪くて弟が落ち込んでいる時に、傷口に塩を塗るような真似をするのか!」
「あなたには血も涙もないのね……」
散々に言われたよ。
今まで俺が弟より成績が悪かった時は、いつも比較されて、貶されて、まともに俺の顔も見てくれなかったくせに……。
その時に俺は気づいたんだ。
ああ、俺はこの家の家族じゃなかったんだ、って。
それからの俺は、早くこの家を出ることだけを考えた。
だから、家からでは絶対に通えない、今の高校を受験した。
それなら、俺は家を出て一人で暮らせるから。
すると、両親は俺の一人暮らしをかなり渋った。
まあ、その理由は単に俺みたいな奴に金なんて使いたくなかっただけなんだろうがな。
それでも、この安アパートを自力で見つけ、月の仕送りもぎりぎりまで交渉したお陰で、最後は何とか一人暮らしを認めてもらえた。
「……後は、俺は高校を卒業した後に一人で生きていけるように、今は生活を切り詰めてバイトしながら、その金を蓄えている最中、って訳だ」
俺はそこで一息吐き、チラリ、と萩月さんを見ると、彼女はただジッと俺を見つめていた。
そんな彼女の視線に耐え切れなくなった俺は、顔を明後日の方向に背けると。
「な? つまらない理由、だろう?」
俺は薄ら笑いを浮かべながら、あえて自虐的にそう言っ……!?
「池っち……えらいね」
突然、俺は頭を萩月さんに抱き締められ、頭の中がパニックになる。
「ホント……人なんてちゃんと話して、触れてみないと分からないね。アタシなんて、池っちと会って話してからまだ数時間しか経っていないのに、すっかり印象が変わっちゃったよ……」
そう言うと、彼女は抱き締める力を少し強くした。
「あの“噂”だって、ホントは違うんでしょ?」
「……………………………」
萩月さんの問い掛けに、俺は無言を貫く。
彼女だったら、たとえ俺の言葉であっても少しは信じてくれる、そう思ってる。
だけど今、もし彼女が信じてくれなかったら、また両親や学校の連中のように蔑んだ視線を向けられたら、俺は……!
「あは……池っちが答えなくても、アタシには分かるよ。池っちはそんなことする奴なんかじゃない。困ってる女の子を見たら、嫌な思いするかもしれないのに放っとけなくて、お節介を焼く……そんな、素敵な男の子、だよ……」
「あ……ああ……!」
信じられなかった。
夢だと思った。
だって……だって、今まで誰も俺の言葉なんて信じなくて、誰も俺の存在を認めてくれなくて……そんな俺が、こんな言葉をかけてもらえるだなんて……!
もう、無理だった!
もう、抑えきれなかった!
「あ、ああ、あああああああ!」
俺は萩月さんの胸に顔をうずめ、声にならない声で泣いた! 泣き続けた!
俺は……たった十七年間しか生きてないけど……それでも、生まれて初めて生きていてよかったと、頑張ってきてよかったと、心からそう思うことができたんだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
本日は四話投稿しておりますので、一~三話目が未だの方は、ぜひぜひそちらからお読みください!
次回は明日の朝投稿予定!
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