あなたの温もりを、求めてもいいですか?
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■萩月しゆの視点
「それじゃ、電気消すよ」
「あは……うん」
池っちが紐を引っ張って電気を消すと、部屋が真っ暗になる。
そして、池っちはもぞもぞと布団の中に潜った。
池っち……アタシの大切な人。
喫茶店でアタシは池っちに、身勝手で、ワガママで、そして最低なことを言った。
お母さんの、“代わり”だって。
なのに、池っちときたら。
『萩月さんは俺のこと“代わり”って言ったけど、それっていけないことなのかな……』
『萩月さん、俺はね? 萩月さんが救ってくれたお陰で、支えてくれたお陰で、今こうやって幸せな俺がいるんだ。それって、萩月さんにとっての“代わり”になれたから、じゃないかな』
アタシみたいな最低な女に、池っちは最高の優しさで応えてくれたんだ。
こんな、アタシなんかに……。
今も、あの時に見せてくれた池っちの笑顔が、アタシの心の中で一杯溢れていて……。
そして、アタシは気づいた。気づいてしまった。
アタシは……池っちが、好きなんだ。
それからのアタシは恥ずかしさのあまり、池っちをまともに見ることができなくなっていた。
こんなこと、生まれて初めて。
喫茶店からこの部屋に帰って来るまでの道程も、池っちの隣にいることが嬉しくて、でも、恥ずかしくて、だけど、池っちから目が離せなくて。
アタシは池っちに気づかれないように、彼の横顔をチラチラと盗み見てばかりいた。
部屋に戻ってからもそう。
池っちはアタシに気を遣って、今日はウ〇バーでも、って言ってくれたけど、アタシは断った。
だって、あんなものなんかに、池っちの美味しそうに食べる笑顔を奪われたくなかったから。
その笑顔は、アタシだけのものだ。
誰にも譲るもんか。
アタシは冷蔵庫にあったあり合わせの食材でポトフを作ったんだけど、池っちはすごく喜んでくれた。
ただ、ちょっと池っちには悪かったな。
ホントだったら、もっと美味しいご飯を作ってあげられたのに。
うん、明日からは絶対にもっと美味しいご飯を作るんだから。
食事後の池っちと並んでする食器の後片づけも、幸せでたまらなかった。
ただ、池っちに触れただけで恥ずかしくなって、顔がものすごく熱くなって、何も言えなくなっちゃったな……。
今までだったら、それをネタに池っちをからかったりしたのに、とてもそんなことできなかった。
そして、あの後に来たお母さんからのメッセージ。
今までだったら絶対に受け入れられなかったあのメッセージも、アタシは素直に受け入れることができた。
だって……アタシには池っちこそが全てだって、気づいたから。
あは、お母さんが聞いたら怒っちゃうかも。
でも、お母さんにはもうあの人がいるんだから、アタシはいなくてもいいよね?
アタシはもう、池っちが……池っちだけがいいんだから。
寝返りを打つフリをして、アタシは池っちのほうを向いた。
カーテンの隙間から零れる月の光で、池っちの顔がうっすらと照らされている。
池っちは、すう、すう、と、静かに寝息をたてていた。
そんな息遣いを聞いているだけで、アタシの胸がドキドキする。
だって、よく考えたらアタシ、生まれて初めて好きになった、世界一大好きな男の子と一つ屋根の下で一緒に暮らしていて、布団を隣同士仲良く並べて寝てるんだもん。
「池っち……」
アタシは池っちの横顔を眺めながら、思わずその名前を呟く。
そして気がつけば、アタシはその顔に手を伸ばしていた。
池っちを見つめていたい。
池っちに触れたい。
池っちと、ずっと一緒にいたい。
そんな想いが溢れすぎて、我慢できずに池っちのその顔に手を触れ……。
——ブブブ。
「(あああああ!?)」
声を出しそうになるのを必死で押さえ、アタシは伸ばした手を勢いよく引っ込めた。
っていうか、こんな時間に誰だし!
アタシは超不機嫌になりながら、スマホを手に取ると。
『元気そうで何よりです。できればもう一度、しゆのとやり直しをするチャンスをください』
そんな、お母さんからのメッセージだった。
やり直しって、そんなの……。
アタシは池っちを起こさないように、布団にもぐりながらメッセージを打つ。
『お母さんはお母さんの大好きなあの人と幸せになってください。アタシも、世界一大好きな人と一緒に幸せになるから』
送信、と。
だけど、さすがにこのメッセージは池っちに見せられない、なあ……。
だって、池っちのこと、『世界一大好き』って書いちゃったし……。
でも。
アタシはまた、池っちの横顔を見る。
多分……池っちはもう、アタシのことなんて好きになることはないと思う。
アタシはそれだけのことを、池っちにしたんだ。
あんなに池っちが傷ついていたこと、分かってたのに。
あんなに池っちがアタシだけを信頼してくれたこと、分かってたのに。
だから、これからのアタシはただ池っちのためだけに生きよう。
たとえ、池っちがアタシを見てくれなくても。
たとえ、池っちが他の人を好きになっても。
だけどせめて……せめて、寝ている今だけは、あなたに触れてもいいですか?
あなたの温もりを、求めてもいいですか?
アタシは寝ている池っちの顔に自分の顔を近づけ、そして……その唇に、生まれて二回目のキスをした。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は今明日の朝更新!
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