大人も色々
ご覧いただき、ありがとうございます!
喫茶店エピソード、前編です!
「ふう……」
土曜日。
俺はバイト先の運送会社で今日も精を出している。
せっかくの休日なんだから、萩月さんと一緒にいたいのはやまやまだが、それでも二人分の生活費を稼がないといけないしなあ……。
といっても、このバイトは本当に時給がいいし、それに、支店長はじめ社員の皆さんに本当によくしてもらっているから、何一つ不満はないんだけど。
あ、そういえば萩月さん、部屋を出る前もスマホの求人サイトとにらめっこしてたな。
……やっぱり家出した状態だと、雇ってくれるようなところ、ないもんなあ。
まあ、俺がその分働いて稼げばいいだけだ。
このバイトだけで足りなかったら、もう一つバイトしても……。
「おーい、塔也! そろそろ昼にしようや!」
支店長が倉庫にやってきて声を掛けてくれた。
もうそんな時間か。
「はい!」
俺は作業着の袖で汗を拭うと、支店長の元に駆け寄った。
「それで、今日の昼メシはちょっと付き合え!」
「へ?」
え? 昼を付き合うって……俺、萩月さんの作ってくれた弁当が……。
「まあまあ、持ってきた弁当は今日の晩メシにでもすればいいだろ! 今日は奢るから、な!」
「は、はあ……」
ここまで言われると、俺も断りづらいなあ……。
ということで、俺は支店長に誘われてお昼をご一緒することになった。
「それで、今日はどのお店に?」
「ん? ああ、俺の知り合いがやってる店があってな。そこにしよう」
うーん、俺は奢ってもらう立場でもあるし、支店長に大人しくついて行こう。
事務所を出てから歩いて十五分。
俺と支店長は住宅街の中を歩いている。
結構歩いたな……って、何だか見覚えがあるな……。
「おう、ここだ!」
「え……? ここって……」
支店長に連れてきてもらったお店……それは、俺が逃げ出した、あの喫茶店だった。
「ハハハ! ここのメシ、結構美味いんだぜ!」
「は、はあ……」
どうしよう……今すぐ回れ右したい。
あの時は勝手に飛び出して、多分、この喫茶店にも迷惑掛かってるし……。
「ほれ、何してんだ。早く入るぞ」
店の扉に手を掛けた支店長がこちらへと振り返り、声を掛ける。
……覚悟、決めるか。
——カラン。
俺は支店長の後に続き、店の中へと入った。
「やあ、いらっしゃい」
「おう! 連れてきたぞ!」
「へ? ……って、わわ!?」
お店に入るなり、支店長に背中を押され、少しよろめきながらマスターの前へと出された。
「あ、マ、マスター……」
「やあ、よく来たね」
俺が戸惑いながら声を出すと、マスターはニコリ、と微笑んだ。
「あ……あの時はすいませんでした!」
俺はお店の中であるにもかかわらず、深々と頭を下げ、大声で謝った。
「お、おいおい……そんなのいいから、顔を上げてくれよ」
「だ、だけど、俺……」
「はは、いいからホラ」
俺はマスターに促され、ようやく頭を上げる。
「ハハハ! いやあ、あん時はビックリしたよ! 突然マスターから電話が掛かってきて、一人紹介したい、いい子がいるから雇ってみないかって言って来るし!」
「え……?」
俺は支店長の言葉に、思わず目を白黒させる。
「はは、だけど言った通りだろう?」
「ああ! 塔也は真面目でよく働くし、礼儀正しいしで本当に助かってるよ! ……というか、今さら返せと言われても無理だからな」
そんな冗談めいたことを言いながら、支店長とマスターは嬉しそうに話している。
「あ、あの……」
「ああ。池田くんには状況がよく分からないよね。実はあの後、支店長に電話したんだ。内容は支店長が言った通りだけど」
「おう! あの時はビックリしたよ! だから俺はマスターからもらった塔也の情報を元に、うちに来ている募集の中から塔也を見つけて、それで連絡したって訳だ」
そんな……まさか、逃げ出した俺なんかのために、そんなことまでしてくれてたなんて……。
「ほ、本当にありがとうございました!」
「いやいや、だから頭は下げなくていいから。それよりも」
すると、マスターが居住まいを正し、真剣な表情でこちらを見て。
「うちの娘が君に失礼なことを言って、本当にすまなかった。父親として、謝らせてほしい」
そう言うと、マスターは深々と頭を下げた。
「マ、マスター! そんな、頭を上げてください!」
「ハハハ! まあ、塔也からしたらマスターに頭を下げられても困るだけだわな!」
支店長がそう言ってくれたお蔭で、マスターが苦笑しながら顔を上げた。
「それより俺、かなり腹が減ってんだけど?」
「はは、すまない。いつものピラフでいいかい?」
「ああ! 塔也、お前はどうする?」
「あ……じゃ、じゃあ同じものを」
「了解」
そう言って、マスターは厨房に入り、俺と支店長は窓際の席に着いた。
「支店長……ありがとうございます。俺……俺……」
「ハハハ! まあ、うちとしても即戦力の塔也が入ってくれたし、損したのはマスターだけだからな! もう気にするな!」
「は、はい……」
俺は、マスターと支店長の優しさで、ポトリ、と一滴の涙を零した。
◇
「はいよ。ピラフ二つ持ってって」
俺と支店長が雑談している中、厨房の中からマスターの声が聞こえた。
それより、運ぶような従業員は誰もいないんだけど……?
すると。
「お、お待たせしました……」
「あ……」
運んできたのは……マスターの娘さんだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は今日の夜投稿予定!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




