ギャルと噂の真相①
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■萩月しゆの視点
「それじゃ、行ってくるよ」
「あは! 頑張れ!」
池っちのバイトが決まって、もう一週間。
今日も池っちは、元気にバイトに向かって行った。
アタシもバイトを探してはいるんだけど、家出してる関係でなかなかいいバイト先が見つからず、頭を抱えていたりする。
池っちは、気にしなくていいって言ってくれてるけど……アタシはもっともっと、池っちを支えたいんだ。
はあ……どこかにいいバイトは……って。
「しーちゃあああああん!」
ああもう! ゆっくり悩む時間もないし!
……と言っても、葵達とは会う予定ではあったけど。
「まったく! 少し落ち着けし!」
「えー……でも……」
アタシが叱ると、葵は子犬みたいにシュン、となった。
ホントに……アタシが庇護欲をそそられるのは、池っちだけだっての。
「ハハ、それより場所移動しねー? ワックとか?」
「ワック! 行く行く!」
後藤の提案に、葵が嬉しそうに飛びつく。
だけど。
「何言ってんの? アンタ、部活あるじゃん。しかも、春高バレー近いし」
「うぐ!?」
ホントに……「うぐ!?」じゃないっての。
それに、アタシも無駄遣いできる立場じゃないし。そんな余裕あったら、池っちにいつもより豪華なご飯作ってあげるっての。
「つーわけで、いつもみたいに踊り場か体育館の裏の二択で」
「……はーい」
アタシがそう言うと、葵は渋々といった様子で返事した。
「んじゃ、体育館裏にでも早速行こーぜ」
後藤に促される感じになったのは癪だけど、アタシと葵は後藤の後について……っ!
「……(ペコリ)」
あの、“須藤花凛”とすれ違う。
しかもアイツ、どういう訳かアタシ達に会釈してきやがった。
「……しーちゃん、行こ」
足を止めてアイツを睨んでいたアタシの腕を、葵が引っ張る。
アタシは視線だけアイツを睨みつけたまま、引きずられるように体育館裏に向かった。
◇
「それで、どうだった?」
体育館からボールが床で弾む音が聞こえる中、アタシは壁にもたれながら二人に尋ねる。
「じゃあまず、私からあの“須藤花凛”のことについて話すね」
そう言うと、珍しく葵が真剣な表情で話し始めた。
まず、例の噂の真偽について。
池っちやアイツと同じクラスだった奴に聞いた話だと、あの日の朝、クラス全員のスマホに『うちのクラスの池田塔也が、クラスの女子を襲って警察に逮捕された』というメッセージが一斉に届いたらしい。
その時は、メッセージを見たクラス全員がデマだろうと思い、さして気にもしなかったとのことだ。
だけど、いざ池田塔也が登校してくると、あのメッセージのことが頭をよぎり、クラスメイト達は一斉に池田塔也に注目した。
すると。
「池田。今すぐ職員室に来い」
池田塔也が先生に呼び出しを受け、そのまま教室を出て行く。
もちろん、それを見ていたクラスメイト達は、あのメッセージの件じゃないか? と勘繰り始めた。
そして、教室に戻ってきた池田塔也は、出て行くまでの様子とは打って変わり、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
だから、あのメッセージは本当なんじゃないかと考えるようになった。
さらにその日以降、あの須藤花凛が学校を休んだのだ。
みんなはこう考えた。
須藤花凛は、池田塔也に襲われたんだと。
だけど、別に証拠がある訳ではないし、池田塔也も普通に登校しているし、確証はない。
とにかく、そんな微妙な空気がクラスに流れたまま、一週間が過ぎた。
そして……須藤花凛が登校してきた。
そんな彼女をクラスメイト達は遠巻きに眺めていると、池田塔也が彼女に近づいていった。
その時。
「イヤッ!」
彼女が池田塔也を拒絶し、頭を抱えて震え出したのだ。
これで、あのメッセージの内容が全部つながった。
クラスメイト達の反応は様々で、彼女を慰める者や池田塔也を罵倒する者、侮蔑の視線を向ける者……とにかく、クラスの中で池田塔也は最低な奴、ということになった。
当然、この話はクラスの外にもあっという間に広がり、全校生徒が池田塔也という悪人の存在を知ることになった。
「……後は、私達も知っているあの噂、って訳ね」
「…………………………」
葵の説明を聞き終え、アタシは唇を噛んだ。
そもそも、池っちのクラスメイトだった連中、バカなの?
なんでそんな怪しいメッセージ信じて、オマケに本当かどうかも確認しないで、池っちを犯人だって決めつけて……!
「し、しーちゃん、そんな睨まないで……」
「え……? あ、ゴ、ゴメン」
少し泣きそうになった葵に言われ、アタシは我に返った。
だけど……こんなの、絶対に池っちを嵌めるためにやったとしか思えない。
「……それで、そのメッセージを送った奴は分かるの?」
「あ、うん。池田塔也や須藤花凛とは別のクラスの、彼女の友達……“橋田瑞希”って子が送ったみたい。だからソイツにも、なんでそんなメッセージを送ったのか、なんでそんなこと知ってるのか、バレー部全員で囲んで問い詰めてみたんだけど」
うん、こういうところはさすがアタシの幼馴染だ。やるとなったら容赦ない。
とはいえ、そんなことするんだったらアタシも呼んで欲しかった。
そしたら、アタシもソイツに一発くらいお見舞いしてやったのに。
「そしたらソイツ、須藤花凛の彼氏に頼まれたって言ったの」
「はあ!? 彼氏に頼まれたあ!?」
アタシは葵の言っている意味が分からず、思わず詰め寄った。
だって、あの女は池っちと付き合ってたんじゃないの!?
「ちょ、ちょっと落ち着いて! 説明するから!」
「あ、ゴ、ゴメン……」
葵が軽く溜息を吐くと、また説明してくれた。
池っちが公園で後ろから殴られた日の夜、その彼氏からソイツに連絡があったらしい。
『俺の彼女が、未遂だったものの、あの池田塔也っていう勘違いヤローに襲われた。花凛が傷ついているから、事を公にしたくないけど、どうしてもあの男が許せない。だから、花凛の名前は伏せて、この事実を花凛のクラスのみんなに伝えて欲しい』
って。
しかも、ご丁寧にクラス全員の連絡先まで送ってきて。
それを聞いたソイツは、須藤花凛に電話してみるけど、全然出てくれない。
これは本当だと感じたソイツは、須藤花凛のクラス全員に一斉にメッセージを送った。
そして、やっと須藤花凛が登校してきて、ソイツも須藤花凛本人から事情を聞いて……。
「……で、変な正義感拗らせて、学校中にその噂広めて、池田塔也を学校から追い出そうと考えたらしいよ」
「分かった。ソイツ、今からシメてくる」
「ちょ!? ダメだって!」
「何で? ソイツのせいで池っちが苦しんでるんだ。アタシに何されたって、文句言わせないし」
アタシに抱きついて必死で止め葵を引きずりながら、アタシは校舎の中に入って行こうとする。
「マアマア、そもそもソイツがどのクラスかとか、萩月ちゃん知らねーじゃん?」
「そうだね。葵、ソイツってどこのクラス?」
「コラ! 蓮! しーちゃんを煽るな! それに、一番悪いのはソイツにそんなこと吹き込んだ、彼氏って奴でしょ!」
そうだった。
そもそも、池っちを嵌めようとしたその男をシメないと。
「で、その彼氏って奴、誰?」
「……今すぐ殴りに行ったりしない?」
ジト目で尋ねる葵に、アタシはそっぽを向いた。
「マアマア、ここまで調べた葵の顔も立ててやってよ。それに、そんなことして萩月ちゃんに何かあったら、その池っちも悲しむんじゃないかなー」
「っ! 池っちのこと、“池っち”って呼んでいいのはアタシだけだし!」
クソ、嫌な言い方して……。
そんな風に言われると、何にもできなくなっちゃうじゃん……。
「……殴りに行ったりしないから、早く教えろし」
「はあ……じゃあ言うよ。彼氏の名前は“黒川秀人”。うちの学校の三年で、須藤花凛の幼馴染らしいよ」
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今日も三話更新!
次回は今日の昼投稿予定!
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