ギャルのはじめて
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「池っちー! 一緒に帰ろ!」
放課後になり、萩月さんが教室まで俺を迎えに来てくれた。
本当は俺が迎えに行きたいけど、そのせいで萩月さんがクラスメイト達に変な目で見られるのも嫌だしなあ……。
でも、萩月さんのことだから、そんなことになっても「は?」って言って、みんな黙らせてしまいそうだけど。
そんなことを考えていると、俺は思わずクスリ、と笑ってしまった。
「池っちー! 早くー!」
おっと、早く行かないと。
俺はカバンを持つと、急いで彼女の元に向かった。
「んふふー、池っちは今日の晩ご飯は何がいい?」
「そうだなー……」
俺と萩月さんはそんな会話をしながら下駄箱に向かうと。
「あ……」
昨日の喫茶店で会った、マスターの娘さん……。
俺は気づかれないように、目を伏せながら歩くスピードを速める。
「? 池っち?」
不思議に思いながらもついて来てくれる萩月さん。
だけど。
「アンタ!」
……見つかってしまった。
しかも、よりによって彼女は、怒りの形相で俺へと詰め寄ってきた。
「二度とうちの店に近づくな! アンタみたいなクズが存在すること自体……」
「アンタの……アンタのせいかあっ!」
「ヒッ!?」
萩月さんが突然、彼女の胸倉につかみかかった。
そんな萩月さんのあまりの剣幕に、彼女が顔を引きつらせる。
「どうせ、池っちのあることないこと吹き込んだんだろ! アンタのせいで……アンタのせいで池っちがあ……!」
「イ、イヤッ!?」
彼女の胸倉をグイ、と引き寄せると、萩月さんが彼女の顔を叩こうとして腕を振り上げる。
「っ! 池っち!」
「萩月さん……俺は大丈夫、だから」
俺は精一杯の笑顔を作って、萩月さんのその腕を止めた。
だって、こんな下らないことのために萩月さんの手を汚したくないから。
「池っち、だけど……」
「本当だよ……俺には萩月さんがいてくれる。だからこんなの、本当に些細なことだから」
そう言うと、萩月さんは彼女から手を離し、俺の腕を引いた。
「萩月さん……」
「池っち、行こ」
萩月さんは、怯える彼女の横を通り過ぎようとして。
「消えれば? クズ」
そう呟いた。
彼女はというと、萩月さんから逃れるように、つまづきそうになりながらも一目散に走って逃げて行った。
「さ、行こ?」
クルリ、と振り返って俺を見る萩月さんの表情は、もういつものように戻っていた。
「あ、ああ」
俺はそれを見て安堵し、また彼女の横に並んだ。
「萩月さん……本当に、ありがとう……」
俺は萩月さんに気づかれないように聞こえない程の声でそっと呟くと。
「あは……」
どうやら聞こえてしまったようだ。
萩月さんは、顔を赤く染めて照れくさそうにしていた。
◇
「あ」
「? どしたの?」
ちょうど晩ご飯を食べ終えた直後に、スマホにメッセージが届いた。
内容は、申し込んだバイトの面接案内だった。
しかも、今度は飲食店じゃなくて、運送業者の荷物整理と積み込みの仕事だ。
「あ、うん、明日バイトの面接してもらえることになった」
「ホント! やったじゃん! ……あ、でも……」
嬉しそうな表情で俺の肩を叩こうとした萩月さんが、不安そうな表情でその手をピタリ、と止めた。
多分、また飲食店だったらと、そんな気を遣ってくれたんだろう。
「はは、今度は運送会社の荷物運びの仕事だから大丈夫! しかも、時給もすごくいいんだ。ホラ」
そう言って、スマホの画面を萩月さんに見せると。
「ホントだ! これいいじゃん!」
「だろ? 早速明日、学校が終わったら面接受けに行ってくるよ!」
「あは! 池っちにも運が向いてきたんじゃない?」
萩月さんは笑顔で俺の肩をつついてきた。
「ああ……本当に、萩月さんと知り合ってから、だよ」
「はああああ!? そ、そんなこと急に言うなし……」
萩月さんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。
あはは、珍しく萩月さんに返せたぞ。
「む! 池っちのくせにナマイキ! くらえ!」
「わ、ちょ!? 萩月さん!?」
「うりうり~♪」
萩月さんに脇腹を擽られ、思わず身体をよじる。
すると。
——どさ。
「「あ……」」
俺と萩月さんは床に倒れ込んでしまい、彼女が俺の身体に覆い被さる恰好になってしまった。
そして……彼女のその可愛い顔が、超至近距離に……。
——チョン。
「「っ!?」」
く、唇の先がかすってしまった!?
「あ、ああああああ! ゴ、ゴメン!」
「お、おおおおおお! 俺のほうこそ!」
すぐに彼女は俺の身体から離れると、俺達は恥ずかしさのあまりクルリ、と半回転して背中合わせに座った。
だ、だけど……俺、萩月さんとキ……い、いやいやいや! かすっただけだからノーカンだろ!
だ、大体、俺なんかとのキスなんて……。
すると。
「い、池っち……」
「はは、はい……」
「その! ……ア、アタシ……初めて、だから……」
「っ!?」
そ、それって……!?
「あ、あは! も、もう片づけるし!」
萩月さんはテーブルの食器を急いで重ねると、慌ててシンクへと走っていった。
俺は、そんな萩月さんの背中を、けたたましく鳴り響く心臓の音を聴きながら見つめていた。
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次回は今日の夜投稿予定!
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