ギャルの決意
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■萩月しゆの視点
「大丈夫か……って!?」
「ありがと……って、ゲッ!?」
男子高校生の正体が池っちと知って、あの時のアタシは最悪だとばかりに頭を抱える。
だって池っちは、一年の時に同級生の女の子を襲った最低ヤローだって、全校生徒が知ってるくらいもっぱらの噂だったから。
当然、アタシは池っちも追い払った。
どうせ助けてくれたのも、アタシの身体目的だろうって思ってたから。
だけど……そんな印象もあっという間に覆されちゃったんだけど。
なにせ、あの後また絡んできたオッサンから殴られながらも身を挺して助けてくれて、あんなに酷いこと言ったのに、怖くて震えてるアタシを気遣ってくれて、お腹を空かせたアタシにハンバーガー奢ってくれて……。
とはいっても、それくらいで池っちにホイホイついて行くアタシもどうかと思うっていうか、警戒心が薄いっていうか……。
この辺り、追い詰められてるせいもあったんだろうけど、ね。
だけど、池っちにそんな心配はないってハッキリ分かったのは、ワックで池っちの涙を見た時。
アタシが池っちの家で泊まるって言っただけで、彼は涙を流したんだ。
多分、まさかアタシがそんなこと言うとは思ってなかったんだろう。
アタシが池っちをほんの少しでも信用した、たったそれだけのことが嬉しくて、
それから、アタシは池っちを噂みたいな奴だと……最低だとも、怖いともこれっぽっちも感じなかった。
むしろ、アタシが少し近づくだけで、触れるだけで、恥ずかしそうにする池っちが可愛く思えてしまったくらいだ。
ホントに、あの噂はなんなんだろ。
で、池っちに案内されたのが、この安アパート。
なんと、ここで池っちは一人暮らしをしていたのだ。
それを知った時、またほんのちょっとだけ不安がよぎったけど、すぐに思い直した。
だって、ねえ……。
アタシがシャワー浴びている時は正座で俯いてるし、近づいたらそれだけで顔を真っ赤にして慌ててお風呂場に逃げるし。ホント、可愛い。
そして、アタシは両親から離れるため、自分の居場所を作るためにも、池っちのやり方を参考にしたいから、どうして一人暮らしをしているのか池っちに尋ねてみた。
すると、池っちの口から出てきた内容は、とても信じられないものばかりだった。
厳しい両親に育てられ、不器用な池っちはその両親から失望されていたこと。
いつも出来のいい弟と比較され続け、人格否定に近い言葉をぶつけられていたこと。
それでも頑張った池っちを、ただ罵倒するだけでその努力を見ようともしないこと。
腹が立った。
今すぐ、池っちの両親をひっぱたいてやりたかった。
全てを話し終えた池っちは、全てを諦めたような視線でアタシを見た。
それは、これまで見てもらえなかった、信じてもらえなかった、そんな悲しい男の子の精一杯の強がりだった。
もう、我慢できなかった。
アタシはそんな池っちの頭を抱き締めた。
少しでも、池っちの心が癒されますように。
少しでも、池っちの心が救われますように。
そう願いながら。
池っちは泣いた、泣き続けた。
今まで我慢していた思いを吐き出すように、今まで伝えたかった思いを叫ぶように。
アタシは、そんな池っちをただ受け止めていた。
三十分程泣き続けて、ようやく落ち着きを取り戻した池っちの瞳は、溜まっていた涙も相まって、すごく輝いていた。
アタシはそんな綺麗な瞳に、思わず吸い込まれそうになっていたのは池っちにはナイショだ。
次の日、池っちはよく微笑むようになった。
それどころか、まるでアタシに構って欲しくて、アタシを喜ばせようと思って色々と世話を焼こうとする池っちは、まるで人懐っこい子犬みたいだった。
ホント、可愛いんだから。
だけど、そんな池っちを知っているのはアタシだけで、他の生徒達は池っちを蔑む視線を向けていた。
だから、アタシはこれ見よがしに池っちと腕を組んだり、お昼休みも池っちに積極的に絡みにいった。
少しでも、池っちという男の子を理解して欲しかったから。
でも、池っちのクラスの連中……特に男子は、むしろアタシが池っちと馴れ馴れしかったことが気に入らないらしい。
頭にきたアタシは、後ろからそっと近寄って会話をスマホに録音して、思いっ切り怒鳴ってやった。
池っちのこと、なんにも知らないくせに。
なのに池っちときたら、朝もそうだけどアタシにまでとばっちりが来るんじゃないかって心配して……ホント、可愛すぎるんだけど。
その後も、キーホルダーがお揃いだってはしゃいだり、アタシの作ったご飯を幸せそうな表情で食べたり……もう! もう!
「……池っちの傍だったら、アタシの居場所、あるのかな……」
野菜を切る手を止め、アタシはそんなことを呟いた。
池っちは、アタシを必要としてくれる。
池っちは、アタシが一緒だと喜んでくれる。
「アタシ……ずっと池っちと一緒にいたい、な……」
呟いてから気づく。
池っちにはアタシが必要なように、アタシには池っちが必要なんだと。
だったら。
「あは……池っち、覚悟してよね。絶対にアタシなしじゃ生きられないようにしてやるんだから」
今日のすき焼きも、池っちは嬉しそうに食べてくれるかな。美味しいって言ってくれるかな。
そんなことを考えながら、アタシは大張り切りで晩ご飯の支度の続きをした。
◇
「あは! おかえり!」
「うん、ただいま」
しばらくして、池っちはバイト先の喫茶店から帰ってきた。
でも、少し疲れたような表情を浮かべていた。
「あ、そうそう! 今日はお肉が安かったから、なんとすき焼きだよ! だから池っち、早く食べよ!」
「あはは、そうだな」
良かった……池っち、笑ってくれた。
アタシはそれだけで嬉しくなって、池っちを座らせてゆっくりさせると、テキパキと晩ご飯の用意をした。
そして。
「「いただきます」」
さあ……池っちの反応はどうかな……?
「! すごく美味い!」
「んふふー、でしょ?」
「ああ! というか、すき焼きなんて何年振りだろう……美味いなあ……」
池っちが少し涙ぐみながら、これでもかって程口の中に詰め込む。
「っ!? ゲホゲホッ!」
「ああもう! 慌てて食べるからだよ!」
アタシは池っちに水の入ったコップを差し出すと、池っちが一気に飲み干した。
「ふう……あ、ありがとう……」
「あは、もう……ホントに池っちはアタシがいないとダメだし」
「はは、面目ない」
そう言って苦笑しながら頭を掻く池っち。
本当に、もう……。
「あ、そうだ、バイトはどうだった?」
アタシは何の気なしに池っちに尋ねる。
すると。
「あ、ああ……バイト、面接で落ちちゃったよ……」
「ええ!? そうなの!?」
「う、うん……」
そう言うと、池っちはつらそうな表情で肩を落とした。
だけど、すぐに池っちは笑顔に戻ると。
「ま、まあ飲食店は元々相性悪かったし、こうなるだろうな、とは予想してたからそれ程落ち込んでないけどな!」
そう言って、ごはんを頬張る池っち。
「あ、あは、大丈夫だよ池っち! バイト先なんて山ほどあるんだし、次は池っちにピッタリのバイトが見つかるって! それに、アタシもバイト始めようと思ってるし!」
アタシは池っちを少しでも励まそうと思ってそんなことを言うと、池っちは驚いた顔を見せた。
「え、ええ!? 萩月さんがバイトするの!?」
「何? 文句あるの?」
アタシはジト目で池っちを睨む。
そりゃ、アタシだって少しでもこの家の助けになりたいから、バイトくらいするっての。
「い、いや……ここまでしてもらってるのに、そんなの悪「池っち、遠慮も度が過ぎると嫌味に聞こえるし」……ゴ、ゴメン……」
全く……ホントにお人好しなんだから。
まあ、そこが池っちのいいとこなんだけど、ね。
「という訳で、アタシも働く! ていうか、これから一緒に頑張ろうよ!」
「あ、う、うん……ありがとう、萩月さん」
ていうか、お礼が言いたいのはアタシだし。
「さあさあ! それよりも、今日はすき焼き食べて元気つけて、また明日から頑張ろ!」
「お、おう!」
それからアタシ達は仲良く晩ご飯を食べた。
◇
「それじゃ、電気消すよ。おやすみ」
「んふふー、おやすみ」
後片づけとお風呂も終わって、アタシ達は布団に入る。
だけど……アタシが気づかないとでも思ってるのかな。
ホントは池っち、バイトがダメになって、すごく悲しんでるくせに。
ホラ、今だってアタシに背中を向けながら、肩が震えてるし。
……池っちが飲食店のバイトを避ける理由だって、薄々分かってる。
多分、お店にうちの学校の生徒が客として来て、それで、お店にいられなくなっちゃうから、でしょ?
池っち。
アタシは、いつだって、池っちの味方だよ?
だから……絶対にアタシが、池っちを救うんだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の朝投稿予定!
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