ギャルの邂逅
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■萩月しゆの視点
「ふんふーん♪」
アタシは今、池っちのアパートで今日の晩ご飯の準備をしている。
ちなみに、今日の晩ご飯はスーパーでお肉が安売りされていたこともあって、奮発してすき焼きにするつもり。
ま、池っちのバイト決定祝いも兼ねてってことで、ね。
「あは、池っち喜ぶかな」
昨日の晩ご飯や今日の朝と昼の池っちの食べっぷりを思い出すと、思わずアタシの頬が緩んでしまう。
アタシの作ったご飯、あんなに美味しそうに食べてくれる人、池っちくらいだよ。
といっても、今じゃお母さんに食べてもらうこともないし。
◇
アタシのお父さんは、アタシが小学三年生の時に、突然病気で亡くなった。
お母さんの話では、仕事が忙しかったせいで、その過労がたたったとのことだった。
もちろんアタシも大好きなお父さんが死んじゃって悲しかったけど、これからはお母さんと二人で生きてかなきゃいけないから、そうも言ってられない。
幸いうちの家は共働きだったこともあり、お母さんが引き続き仕事をしているから生活に困ることはなかった……ううん、そもそもお母さんも仕事人間だから、普通の家庭より裕福かもしれない。
ただ、お母さんが家にいてくれることはほとんどないけど。
でも、お母さんはアタシを育てるために一生懸命に働いてくれてることも知ってたし、そのことに対して不満なんてなかった。
それどころか、お母さんが働いてくれてる分、家のことはアタシが頑張んなきゃって、率先して家事をしていた。
そのお陰で、炊事、洗濯、掃除など、家事全般何でもこなせるようになった。
もちろん、お母さんのご飯を作るのもアタシの役目。
といっても、お母さんは帰りも遅いから、美味しいかどうかの感想はなかなか聞けなかったけど。
そうやって毎日を過ごし、何年間かの月日が過ぎてしまうと、お父さんが死んだことの悲しさも大分薄れていった。
中学三年の終わりの頃。
お母さんが突然知らない男の人を連れてきた。
聞けば、男の人はお母さんの職場の上司とのことだった。
そして、その男の人と結婚したい、そう告げられた。
本当はもう数年前から付き合っていて、一緒になるつもりだったらしいけど、アタシの高校受験が終わるまで待とうって話になっていたらしい。
もちろんアタシは反対しなかった。
ていうか、お母さんは美人だし、見た目だって全然若いし、もっと女性としての幸せをつかんでもらえばいいと思ってたから。
すると、お母さんも男の人もすごく喜んでくれた。
そんな二人を見て、アタシも微笑んだ。
だけど。
「これからは、しゆのは私や家のことは一切気にしないで、好きにしていいんだからね?」
「うん、これからはお母さんもこの家もこの僕が見るから、しゆのちゃんは高校からは自由に……」
お母さんとその男の人の言葉で、アタシは居場所を失くした。
今まで……今まで、この家を守ってきたのはアタシなのに。
お母さんを支えてきたのは、アタシなのに。
それからのアタシは、何をするにしても無気力で、毎日ダラダラと惰性で過ごしてきた。
服装やメイクだって、いつの間にかこんなギャルファッションをキメるようになったし、言葉遣いや態度も変わっていった。
で、お母さんと男の人はそんなアタシを見ても、何も言わずにただ笑うだけ。
それどころか、男の人からは「自由に使っていい」と、アタシにクレカなんて渡す始末。
こんな……こんな、お金さえ与えておけば父親になれるとでも、父親としての責任を果たしてるとでも思ってるんだろうか。
ふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
この一年半、自分の居場所を見つけようと必死で耐えて、自分の居場所を作ろうと必死で考えてきたけど、もう、無理だった。
あの家に、アタシの居場所はもうない
アタシは、着替えとか色々をスーツケースに詰め込んで、家を飛び出した。
ただ、私のお小遣いはあの男のくれたクレカみたいになってしまっていたせいで、現金としての持ち合わせは、中学の時からのアタシの貯金、たったの五千円ぽっちしかなかった。
アタシはネカフェで寝泊まりするけど、朝昼晩のご飯も食べたらそんなお金、二晩泊まった程度で無くなってしまった。
でも、アイツから渡されたクレカはどうしても使いたくない。
使ったら、今度こそアタシの存在価値はなくなると思ったから。
だけど、この冬の寒さの中で野宿なんてしたら凍え死んじゃうかもしれない。
それだけじゃない。ヘンな男に襲われたら目も当てられない。
まだ素敵な恋だってしたことないのに、そんなのは絶対にイヤ。
八方塞がりでもうどうしていいか分からず、アタシは震える手で、縋るような思いでSNSにメッセージを打ち込んだ。
『マジ優しい神様募集! 今、神谷駅にいるよ☆彡』
こんなの呟いても、ロクな連中が来るわけない。
そんなの、分かってるのに……。
でも、ひょっとしたら、こんなアタシを助けてくれるかもしれない。
メッセージを送信した後、駅前の銅像の前でしゃがみながら、アタシはスマホを両手でギュ、と握り締めていた。
……そして、SNSで呟いてから一時間。
結局、ロクでもない奴しかいなかった。
銅像の前でしゃがんでるアタシを遠巻きにチラチラと見てる奴が大半で、二、三人のオッサンとチャラい奴が声を掛けてきたっけ。
当然、下心丸出しのそんな男共を相手にする訳もなく、アタシはテキトーに追い払っていた。
「はあ……ホントにどうしよ……」
余裕のないアタシは、奇異な視線を気にすることもなく、寒くてかじかんだ手にハア、と息を吐きながら、今晩寝る場所について考えていた。
その時。
「ねえねえキミ。ひょっとして、SNSに書き込んだ子だよね?」
一人のスーツ着たオッサンが、恥ずかしげもなくいやらしい視線を向けながら声を掛けてきた。
さっきの連中と同じように、アタシはオッサンをあしらっていたけど、どうにもオッサンは諦める気配がない。
ホントに困ったな……そう考えていると。
「あー……スマン、待たせたな。ところで、このオッサンは誰だ?」
アタシと待ち合わせしているかのように、一人の男子高校生がアタシに声を掛けてきた。
見ると……アタシと同じ学校の制服だった。
「チッ! 人違いかよ、紛らわしい……」
オッサンは舌打ちしながら、どうやらアタシじゃないと勘違いしたらしく、また駅前で女子高生の物色を始めた。
「大丈夫か……って!?」
「ありがと……って、ゲッ!?」
これが……アタシと池っちのファーストコンタクトだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は今日の夜投稿予定!
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