バイト先で噂を暴露
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「くう……! 俺はもう死んでもいいかもしれん……!」
「もう! 池っち大袈裟すぎだし!」
踊り場に座りながら弁当の蓋を開けた俺は、感動のあまりそんなことをのたまった訳だが、顔を真っ赤にした萩月さんに、何故か肩をポカポカと叩かれている。可愛い。
なお、弁当の中身は、今日の朝ご飯にもあっただし巻き卵とウインナーに加え、昨夜のポテサラ、そして。
「ミートボール!」
「いちいち叫ぶなし!」
いや、それは叫ぶだろう。
何故なら、いわゆる冷凍食品やパックのミートボールではなくて、萩月さんの完全手作りなんだぞ? どれだけ料理スキルが高いんだって話だ。
だから、その味も当然疑う余地もなく。
「美味い! 美味い!」
「あうう……もう……」
照れてモジモジする萩月さんを眺めながら食べる彼女の手作り弁当……最高か? 最高だな!
「ふう……ごちそうさまでした」
あっという間に食べ終わった俺は、満面の笑みを浮かべながらそっと蓋を閉じた。
「あは、お粗末様でした、ってか、食べるの早すぎじゃない? ちゃんと噛んでる?」
苦笑しながら萩月さんにツッコミを入れられるが。
「こんな美味い弁当を作る萩月さんが悪い」
「もー! 何だよソレ!」
萩月さんは怒りながら肩をポカポカするが、事実だから仕方ない。
とはいえ、そんな彼女の可愛いパンチを俺は甘んじて受けよう。
「そ、そうだ、それより」
「ん?」
「今日のバイトの面接、頑張んなよ!」
最後に少し強めにパンチして、彼女はニッ、と笑った。
「もちろん!」
応援してくれる彼女に、俺は力強く頷いた。
◇
「ええと……あ、ここか」
放課後、学校からスマホ片手にやってきた俺は、応募したバイト先の喫茶店に到着したけど……ふうん、落ち着いた感じのする昔ながらの喫茶店って感じだなあ。
ここなら、ひょっとしたら大丈夫かもしれない、な。
——カラン。
俺は早速喫茶店の扉を開けると、心地よいベルの音が耳に響いた。
「いらっしゃ……って、ああ、ひょっとして」
「はい、面接を受けに来ました“池田塔也”です」
俺は名乗った後、この店のマスターであろう中年男性にお辞儀をする。
「うんうん、礼儀正しくていいね。それじゃ、早速面接しようか」
「よろしくお願いします」
俺はマスターに案内されて店の控室に通されると、名前、年齢、通っている学校名など、いくつか質問を受けた。
そして。
「うん。それじゃ、君を採用させてもらうよ」
「! ありがとうございます!」
俺はマスターに深々とお辞儀をした。
よし! 頑張ってたくさん働かないと!
「それでだけど……君さえ良ければ、今日から働いてもらえるかい?」
「いいんですか?」
マスターは申し訳なさそうに言うが、俺としては願ったりだ。
一日でも多いほうが、その分金になるし、少しでも余裕ができれば、その……萩月さんに何かしてあげられるし……。
「じゃあそのエプロンをつけて、ウエイターをしてもらいたいんだけど、大丈夫?」
「はい、飲食店で働いた経験もありますから、大丈夫です」
「そうかそうか、そいつは助かるね」
そう言うと、マスターはニコリ、と微笑んだ。
うん、マスターも優しそうな人だし、上手くやっていけそうだ。
俺は早速エプロンを付けると、フロアに出た。
今はお客さんも少ないようだから、俺はテーブルを拭いて綺麗にすると、後は裏方に回ってシンクに置かれたままの食器を洗う。
「うんうん、ちゃんと自分で仕事を見つけてしてくれるなんて、本当に助かるよ」
マスターが俺を見て、微笑みながら頷く。
俺は少しだけ恥ずかしくなり、俯きながら食器を洗い続けていると。
——カラン。
「いらっしゃい」
どうやらお客さんが来たようだ。
俺は手を拭いてトレイにお水とおしぼりを乗せ、伝票を取ると、お客さんの座る席へと向かう。
「いらっしゃいませ」
「えーと、ホットコーヒーで……って、あれ? 見ない顔だな……」
テーブルにお水とおしぼりを置く俺に、お客さんが少し怪訝な表情を浮かべた。
「あ、はい。今日からこのお店で働くことになりました」
「そうかい、頑張ってね」
「はい! ありがとうございます!」
俺はお客さんにお辞儀をすると、マスターに注文を伝えに行った。
◇
「ふう……」
意外とお客さんの入りが多く、夕方の六時を過ぎてやっと落ち着いた。
「はは、慣れないから疲れたろ?」
「はい……あ、でも、お客さんがすごく優しい人達ばかりでしたので、お陰で楽しく仕事ができました」
「そうかいそうかい」
さて……それじゃ、溜まった食器を洗ってしまわないと……。
——カラン。
ん? お客さんかな?
そう思って店の入口に目を向けると……あの制服は。
「ただいまー」
「おう、お帰り“瑞希”」
「あーもう、今日も疲れたよパパ……」
どうやら、マスターの娘さんのようだ。
部活帰りだからだろうか、彼女はぐったりした表情を浮かべていた。
だけど……このバイトも駄目、か。
俺はそっと溜息を吐く。
「あ、そうそう、紹介しておくよ。今日から新しくバイトに入ってもらった“池田塔也”くん。瑞希と同じ高校みたいだから、知ってるんじゃないか?」
「……………………(ペコリ)」
俺は祈るような思いで、無言で頭を下げた。
だけど、その祈りは通じなかったようで。
「はあ!? 池田塔也って、あの!?」
驚いて叫んだ娘さん。
その後は、いつものお決まりの視線を俺に向けてきた。
「? 知ってるのかい?」
「知ってるも何も! コイツは同級生の女の子を襲ったって噂の、学校でも有名「あ……マ、マスター! お世話になりました!」」
「あ、オ、オイ!?」
俺は娘さんが全部言い切る前にマスターへそう叫ぶと、慌てて脱いだエプロンをその場に置いて、カバンを持って店を飛び出した。
「ハア……ハア……!」
そして……俺はできる限り店から遠ざかるため、全力で走って逃げた。
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今日は今回を含め、三話投稿します!
次回は今日の昼投稿予定!
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