ギャルの手作り弁当
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——トントン。
「ん……」
朝になり、軽快な音とかぐわしい匂いで目が覚めた俺は、目をこすりながら身体を起こしてみると。
萩月さんが、台所に立って料理を作っていた。
「あ、池っち。おはよ!」
俺が起きたことに気づいた萩月さんがこちらに振り返り、ニコリ、と微笑んだ。
うん、最高の目覚めってこういうことを言うのだろうな。
「ああ、萩月さん、おはよう」
「もう少ししたら朝ご飯できるから、池っちはサッサと顔洗って来なよ~」
「ああ」
また食事作りに集中した萩月さんの背中を見ながら、俺は洗面所で顔を洗う。
そのまま支度を済ませると、布団をたたんで……………………ん?
——ブーッ、ブーッ。
見ると、萩月さんのスマホのバイブが鳴っていた。
ディスプレイには、“お母さん”と表示されていた。
……心配して、掛けてきたのかな。
俺はチラリ、と萩月さんを見ると、彼女は楽しそうに食事を作っている。
俺はかぶりを振ると、布団をたたむことに集中することにした。
◇
「ごちそうさまでした!」
「うん、お粗末様でした!」
はあ……朝ご飯も最高だった。
豆腐とネギの味噌汁に、だし巻き卵、ウインナーと納豆。
箸が止まらなくなって、思わずごはんをおかわりしてしまった。
「さあさ、サッサと片づけて学校行くし!」
「ああ、じゃあ一緒に片づけよう」
「うん!」
萩月さんとシンクの前に二人並んで、昨晩と同じ分担でテキパキと片づける。
——チョン。
あ……萩月さんと肩が触れてしまった。
チラリ、と萩月さんの様子を窺うと。
「ん? んふふー、相変わらず池っちはウブだねー♪」
ニシシ、と笑いながら、萩月さんが俺をからかう。
でも、萩月さんの指摘通りで、俺はさっきから顔が熱くて仕方がない。
ああもう……彼女にはかなわないなあ。
「よし! 終わりっと!」
食器も洗い終わり、萩月さんがエプロンを外して充電したままのスマホを手に取ると。
「…………………………」
恐らく、画面に表示されている着信履歴を見ているんだろう。
萩月さんは唇を噛みながら、振り払うようにかぶりを振った後、無造作にスマホをカバンに放り込んだ。
「あ、そ、そうだ! はいコレ!」
話題を変えるかのように、萩月さんは何かが入った袋を手渡してきた。
「え、ええと、これ……」
「ん? お弁当だけど?」
「ええ!?」
俺は思わず弁当の入った袋を凝視する。
ま、まさか弁当まで用意されているとは……。
俺は中を見ようと袋を開けようとして。
「ダメだし! お弁当の中身は昼休みまで取っとくの!」
萩月さんにメッ、と注意され、俺は仕方なく袋を開けるのを止め、カバンの中に丁寧に入れた。
だけど、萩月さんのメッ、が見れたから、それはそれで眼福ではあるんだが。
「さ! 池っち、行こっか!」
「あ、ちょっと待ってくれ」
満面な笑みを浮かべて俺の腕を引っ張る彼女を俺は制止する。
「? どうしたし?」
「ああいや……ホラ、俺は今日バイトの面接があるから、部屋に帰る時間もバラバラだったりするし、その……」
うう、いざ言おうとすると恥ずかしい。
だ、だが、さすがに連絡先を交換しておかないと、萩月さんに何か困ったことがあった時にすぐ対応できなくなるし……って、それはただの口実ではあるんだけど……。
「んー……………………あ、ひょっとして、アタシとRINE交換したいの?」
「あ、い、いや! 何かあったらアレだし、その!」
図星を言われ、俺はしどろもどろになってしまった。
「んふふー、だったらそう言えばいいじゃん。いいよー、ちょっと待ってね」
萩月さんはカバンからスマホを取り出し、画面を操作すると。
「ホイ」
萩月さんが、QRコードが表示された画面をこちらに見せる。
「あ、ああ……」
俺もスマホを取り出してRINEを起動させると、QRコードを読み取る。
へえ……萩月さんのアイコンはツギハギだらけのクマ、かあ……って、おっと、俺も送らないと。
俺は取り急ぎ『よろしくお願いします』とメッセージを打ち込み、送信する。
——ピコン。
「あは、来た来た……って、池っち、何だか地味なんだけど……」
「え!? そ、そうかな……」
「そうだよー、普通はスタンプで返すじゃん?」
「スタンプ……」
といっても俺、実家の緊急連絡用くらいしか登録してないし……。
「あ、ま、まあまあ、池っちもこれからスタンプも使ってみたらいいし?」
色々察したらしい萩月さんが、苦笑しながら誤魔化した。
そ、それはそれで心にくるものがある……。
◇
「池っちー! 昼ご飯食べよー!」
昼休み、今日も萩月さんがクラスまで俺を誘いに来てくれた。
「あ、ああ」
俺はカバンから弁当の袋を取り出し、萩月さんの元へ向かう……が、今日は足を掛けられたりすることはなかった。
というか、朝もそうだったが、昨日までとは打って変わり、クラスの連中は俺に一切絡んでこなかった。
多分、昨日の昼休みや放課後の一件が効いたんだろう。
だから、今までの陰湿なイジメから、俺を空気として取り扱う方向にシフトしたみたいだ。
……まあ、そのほうが俺としても楽ではあるが。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
「あは、うん!」
そして、俺達は昨日と同じように屋上につながる踊り場へと向かった。
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次回は明日の朝投稿予定!
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