居場所のない男子
すいません、つい出来心で新作始めました!
どうぞよろしくお願いします!
——キーンコーン
今日も一日の授業が終わると、クラスメイト達はガヤガヤと帰り支度を始めたり、部活へと向かったりしている。
俺はといえば、そんなクラスメイト達の隙間を縫って、気づかれないようにそそくさと教室を後にしようとする……が。
「っ!?」
突然つまづき、俺は盛大にこけてしまう。
……まあ、いつものことだ。
「はは、ダッセ」
「ねー」
「またアイツかよ……」
そんな俺にクラスメイト達から向けられる視線は、侮蔑しかない。
要は、俺はクラスメイト全員から嫌われているってことだ。
だから今みたいに足を掛けられるし、嘲笑されたりもしている訳だ。
「…………………………」
俺は無言のまま立ち上がると、制服についた埃を軽く払って、そのまま教室を出た。
クラスメイト達の爆笑を背に受けながら。
とはいえ、これはクラスメイトに限った話じゃない。
「あ、アイツって例のアレじゃない?」
「そーそー! 気をつけないと、アンタだって……」
「ヤダー!」
「つーか、クズのくせに学校に来るなよな」
そんな非難を向けるのは、ほぼ全校生徒なのだから。
俺は俯いたまま足早に下駄箱に向かうと。
「あ……」
はあ……最悪の奴に出くわした。
隣のクラスの、“須藤花凛”。
うちの学校でも一、二を争うほどの美少女で、実際にその容姿は全校生徒が認める。
艶やかな黒髪ロングに、少し垂れ目ながらも大きくパッチリした瞳、整った鼻筋にぷっくりとした唇、モデル体型のスタイルで非の打ちどころがない……が。
俺はかぶりを振ってから、そんな須藤を無視するようにその場を立ち去ろうとすると。
「……フン」
須藤は、俺が学校にいることがまるで気に入らないとばかりに鼻を鳴らした。
まあ、コイツが一番俺にこの学校から去って欲しいだろうからな。
俺は拳を握り締め、まるで逃げるように校門をくぐる。
この学校にも、俺の居場所はない。
◇
スーパーで買い物——といっても、カップラーメンばかりだが——を済ませ、アパートの階段を駆け上がる。
このアパートの二階の一番奥の部屋。
ここだけが、世界中で唯一許された、俺の居場所だ。
鍵を開けて部屋に入ると、大量のカップラーメンが入ったレジ袋を放り投げる。
「相変わらず、汚い部屋だな……」
脱いだものは脱ぎっぱなし、出したものは出しっぱなし、かろうじてゴミだけはゴミ袋に放り込んではいる。といっても、一人暮らしなのに一番大きいゴミ袋が三つも放置されてはいるが。
「さて……と」
俺は部屋の中で唯一空いている布団の上に座ると、スマホを取り出してアルバイトの求人サイトを物色する。
今まで働いていたバイトは、先週クビになったばかりだからな。ちゃんと稼がないと。
スマホ画面をフリックしながら、目ぼしいバイトにチェックを入れていく。
といっても、高校生可のバイトだから、それなりに数は限られているし、できれば接客系のバイトは避けたい。
接客系は、すぐにクビになってしまうから。
「ふう……ま、こんなものかな」
いくつかのバイト候補をピックアップした俺は、その中で最も時給が高いバイト先を選んで申し込みする。
あとは、連絡を待つだけだ。
「おっと、残高もチェックしておかないと」
ネットバンキングのウェブページを立ち上げ、中身を確認する。
「フン……一応、今月も振り込まれてはいる、か……」
毎月二十日、実家から俺の口座に生活費が振り込まれる。
その額、月三万円。
家賃は実家持ちではあるが、この三万円で食費や水道、光熱費、生活必需品の全てを賄わないといけない。
高校生の一人暮らしとはいえ、正直、生活費は足らない。
それでも、俺はできる限り切り詰めて、何とか月五千円程度の余裕を作れるようにしている。
そうやって切り詰めて作ったお金と、高校に入学した時からこれまでのバイト代とを合わせ、俺の全財産は百万円。
よくぞここまで貯めたと、自分を褒めてやりたいが、それでもまだ足りない。
「もっと、頑張らないとな……」
ポツリ、とそう呟くと、俺はケトルに水を入れて火にかけ、お湯を沸かす。
まあ、夕食タイムというやつだ。
お湯が沸くまでの間、暇つぶしにSNSサイトを見る。
人との繋がりがない俺が、ほぼ唯一と言っていいほど誰かと関われる場所。
といっても、何か呟いたりする訳ではなく、ただ眺めているだけではあるが。
だが、それが面白い。
今日の出来事をつぶさにアップする奴。
下らないネタで誹謗中傷の応酬を繰り広げる奴。
ただ政治批判を繰り返している奴
“推し”について熱く語る奴。
そんな人間模様を見て、色々な奴がいるもんだと何故かホッとしている自分がいる。
まあ、結局はただの慰め、だな。
そうやって画面をフリックしながらタイムラインを追いかけていく中、一つの呟きが目に留まった
『マジ優しい神様募集! 今、神谷駅前のポチ像の前にいるよ☆彡』
投稿してまだ十分も経っていないのに、その呟きには既に百件以上のリプライがあり、“いいね”に至っては軽く千件を超えていた。
「……いくら捨てアカとはいえ、こんなところで場所まで晒して呟くなんて……バカじゃないのか?」
俺は思わず呆れにも似た溜息を吐く。
だけど、俺は何故かその呟きが気になってしまい、リプライに来ているメッセージを読んでみる。
『カワイソウ! 俺の家に来なよ! 泊めてあげるよ!』
『食事、ベッド付き、お小遣い付き!』
『私も寂しいの……一緒に慰め合お?』
……碌なメッセージがない。
まあ、それはそうか。
結局は、そういう目的の連中くらいしか食いつかないよな。
——ピーッ!
お、お湯が沸いたみたいだな。
俺はスマホを布団の上に放り投げ、ガスコンロの火を止める。
で、レジ袋からカップラーメンを一つ取り出し、ビニールを破って蓋を開ける。
かやくと粉末スープの素を入れて、お湯を入れ……ようとして、何故かここで手が止まる。
「そういえば……あの神待ちしている奴は、ご飯は食べているんだろうか……」
俺は、そんなくだらないことを考えてしまう。
だけど。
『マジ優しい神様募集! 今、神谷駅前のポチ像の前にいるよ☆彡』
俺には、あのメッセージが『助けて』と悲痛な叫び声を上げているような気がして。
まるで……以前の俺みたいに……。
「はあ……」
俺は手に持っていたケトルをガスコンロの上に戻すと、部屋の隅に投げ捨てられていたマウンテンパーカーを着込み、スマホを持って部屋を出た。
……本当に、何をやっているんだ俺は……。
◇
最寄り駅である関町駅から一つ乗り換えて神谷駅に来た俺は、駅前の銅像の前へと向かう。
すると。
「ねえねえキミ。ひょっとして、SNSに書き込んだ子だよね?」
「ハア? つーか、知らないし。アッチ行ってよ」
スーツ姿のオッサンがニヤニヤしながら高校生に絡んで……って、あの制服……。
「うちの学校の生徒じゃないか!?」
俺は思わず二人に近づく。
「まあまあ、オジサンがキミを養ってあげるからさ……」
「来んなし! アッチ行け!」
なおも詰め寄るオッサン。
「あー……スマン、待たせたな。ところで、このオッサンは誰だ?」
……よせばいいのに、気がつけば俺は女子生徒とオッサンの間に割って入り、白々しく声を掛けた。
「チッ! 人違いかよ、紛らわしい……」
そう言ってオッサンは舌打ちすると、それらしき人物を探すかのように駅前をウロウロし始めた。
「大丈夫か……って!?」
「ありがと……って、ゲッ!?」
その女子生徒は、俺とは別の意味でうちの学校の有名人——“萩月しゆの”だった。
お読みいただき、ありがとうございました!
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