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想い続けた異国の少女と二人の約束  作者: 久野真一
第2章 学園生活の始まり
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第7話 初めての放課後デート

「結局、寝不足になっちまったな……」


 昨日は、デートの事をあれこれ調べてしまった。

 その結果、わかったことがある。


 ヨーロッパでは日本よりずっとレディファースト文化が強いらしい。

 ヨーロッパというと男女平等のイメージが強いので意外だった。


「で、絵里(えり)はどうすればいいと思う?」


 今はお昼休み。

 用事があると嘘をついて、絵里を連れ出して来た。


「そういうとこ見栄張らないわよね、咲太(さくた)


 仕方ないんだからとばかりにため息をつく絵里。


「ミアさんとは友達じゃなかったの?」


 白けた目線で見つめられる。


「友達だけど、それ以上になりたいと思ってる」

「そういうところ、ほんと一途なんだから」


 と続けて、


「幼馴染の咲太の方がミアさんのことよく知ってるんじゃないの?」

「結局、ミアと一緒だったのって、中学入る前までだしな」

「交流は続けて来たんでしょ?」

「それはそうなんだが……中高の話とか、ほんと一部だけだし」


 何も知らないわけじゃない。

 でも、向こうでの生活風景を見たわけじゃないのだ。


「正直、ヨーロッパの女の子の恋愛とか、私も全然なんだけどね」

「普通の女子のエスコートの仕方とかはわかるだろ?」

「よく言われるけど、男が車道側を歩くとかね」

「その辺は昨日、記事で見た覚えがあるな」

「一つ一つ言ってると、キリがないんだけどね……」


 でも、と続けて。


「結局は、相手の立場に立つことが全てよ」

「だから、女子のお前に聞いてるんだけど」

「女の子だって一人一人違うのよ?清潔感とか、誰にでも通用することはあるけど、結局は、ミアさんの気持ちを考えてあげる事だと思う」

「あいつの気持ち、か……」


 考えてみれば、スイスで過ごしてたから、とか。

 レディーファーストだから、とか。

 テンプレに当てはめて考えていたかもしれない。


「恩に着るよ。少し、よく考えてみる」

「これくらいでいいなら。うまく行くといいわね」

 

 その後、色々考えている内に放課後。


「じゃ、行きましょ?」

「ああ」


 それだけを言って、俺達は教室を後にする。


「なあ、ミアはどこに行きたい?」


 結局、単刀直入に俺は聞くことにした。

 考えてみれば、ミアは男性に引っ張って欲しいという奴だっただろうか?

 答えはNOだ。面白そうな事に積極的に俺を引っ張るくらいのがミアなのだ。

 

「んー。どうしようかしら。ここに住んでたのってだいぶ昔の事だし」

「お前がスイス行ってから、色々変わったとこも多いしなあ」


 校舎を出て、街並みを見ながら、ぼんやりと昔を思い出す。


「そうだ!咲太と一度行ってみたいところがあったの!」

「ほうほう。どこなんだ?」

「ゲームセンター。小学校の頃は、ほとんど行けなかったもの」

「ゲーセンか。お前らしいな」


 やっぱり、ミアはミアなんだなと実感する。

 やたら張り合ったり勝負するのが好きで、悪戯好き。

 その本質は何も変わっていない。

 なら、俺も同じように楽しもう。


 そして、俺達は、格ゲー、クイズゲーム、リズムゲームなどなど。

 色々遊び倒したのだった。中でもクイズゲームは特に気に入ったらしい。

 スマホアプリもあると教えると「家でやりましょ?」とはしゃいでいた。

 

「あ、UFOキャッチャー」


 店を出ようかという時間になって、入り口近くの筐体にミアが目を留めた。


「ちょっと懐かしいな」


 小学校の頃の思い出が瞬間的に蘇る。

 うちの家族と一緒にミアとゲーセンに遊びに来たことがあったのだ。


「これ、今でもちゃんと使ってるのよ?」


 ポケットから何かを取り出したか思えば、キーホルダーだった。

 東京タワーを象った、可愛くもなんともない代物だ。

 でも、ぶんぶん回して楽しそうにしている。


「物持ちがいいな。そんな可愛くもないものを」


 それは、UFOキャッチャーの景品。

 ゲットしたものの使い道が無くてプレゼントした代物。


「でも、日本って言ったら東京タワーでしょ?」


「既にスカイツリーだけどな」

「そんなことはどうでもいいの。私の宝物だもの」

「そっか」


 そう思ってくれているのが、少し嬉しい。


「帰る前にちょっとやって行くか?」

「いいの?」

「そりゃな。デート、だろ?」

「……うん!じゃあ、1回だけ、ね」


 100円玉を投入するなり、真剣な目つきになる。

 視線の先を見ると……アナログの腕時計が一つ。

 

(ちょっと難しくないか?)


 そう思ったけど、口を出さないでおく。

 ミアにとって、時計は少し特別な意味がある。

 両親の仕事という意味でもだし、彼女本人にとっても。


 ミアの目を追っていると、ひたすらクレーンの動きを見つめている。


「やっ!」


 気合いの入った言葉とともに、ボタンが押される。

 クレーンは、なんと見事に腕時計をキャッチして、ガランと音がする。


「どう?ちょっとしたものでしょ?」


 ミアは得意顔だけど、これを取れるのだ。自慢したっていいだろう。


「じゃあ、これ。プレゼント」


 はい、と取ったばかりの腕時計を手渡される。


「いいのか?ミアが取ったものだろ」

「腕試ししたかっただけだもの。それに、キーホルダーのお返し」

「全然見合わないけどな……ありがとな」


 早速、箱を開けて腕時計を左腕に巻いてみる。


「なんか、ダブっちゃったな」


 元々、腕時計は持っているのだ。

 だから、左右両腕に腕時計という妙な格好になってしまう。


「私のは、取っておいてくれればいいから。咲太のが性能いいでしょ?」

「いや、せっかくだから、こっちを使うよ」


 別に、性能的にはどっちでも大差ないのだ。

 それなら好きな女の子からプレゼントされたのを身に着けていたい。


「今日の事も、咲太は覚えていてくれる?」


 ちらりとこちらを覗いながら、ぽつりと一言。

 ミアも俺の特殊な能力、いや、体質か、の事は知っている。


「ああ、きっと忘れられない」


 こんないい思い出、ずっと覚えているに違いない。


「とっても楽しいデートだったわ」


 万感の思いを込めたような声。


「デート、か」


 結局、彼女にとってのデートの意味は聞けず仕舞いだ。


「なあ。ミアにとって、今日のデートはどういう意味だったんだ?」


 ずっと気になっていた事だった。

 今なら、聞いてもいい気がした。


「内緒」


 何故だか、頬を赤らめながら、それだけが返ってきた。


「いや、内緒って。誘ったのはミアだろ」


「じゃあ、クイズ。当ててみて?」


 今度は、少し期待するような視線。

 自惚れてしまっていいのだろうか。


「じゃあ。ミアが俺の事を男として好き、とか?」

「少しだけ正解」


 少し?


「少しってどういう意味だよ」


 言っていることがよくわからない。


「ねえ。咲太にとって、私はどういう存在?」


 虚を突く問いだった。


「質問に質問で返すなよ」

「いいから」


 真っ直ぐに俺をミアは見据えてきた。

 言い逃れは許さないとばかりに。

 もちろん、ミアの事は好きだ。友人としても女性としても。

 でも、今、ここで「告白」してもいいのだろうか? 


「友達としては好きだよ。女の子としても、少し」


 結局、考えた末、そんな玉虫色の返答を返した。

 だって、ミアの「少し」の意味がわからないのだ。

 大好きだ、とまで言える勇気はない。


「少しは、なんだ……」


 そう言ったきり、ミアは黙り込んでしまった。

 なんだか、ミアがとてもがっかりした気がした。


「じゃあ、私も咲太の事が少し、好き。男の子として」

「それが、答えか?」

「うん」


 少し好き、というのは一体どういうことなんだろうか。

 そう言った俺が言えた義理じゃないんだけど。


 俺たちは、言葉少なに帰ったのだった。

 少し好き、の意味を考えながら。

というわけで、なんだか色々チキンな主人公です。

次の話で、話の主題部分が動く予定なので、もうしばらくお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[一言] レディファーストが主なのは当たり前の気がするけれど、レディファーストって女性を立てるものではなく、女性を道具として扱うもの、と聞いた(例えば、女性を先に部屋に入れるのは、それにより室内に潜む…
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