第6話 歓迎会
さて、昼休みを終えて午後の授業中のこと。
クラスのライングループでひっそりと進んでいる計画があった。
それは-
「放課後、ミアちゃんの歓迎会しようぜ!」
という話だった。急遽設置されたグループをミアは知らない。
【で、ミアちゃんはどういう所が好きなんだ?咲太】
クラスメートの一人のメッセージ。
【いや、なんで俺に聞くんだ】
【ミアちゃんの幼馴染だろ。色々知ってるんじゃないのか?】
その言葉に少しの間考える。
基本、賑やかな奴だが、雰囲気のいい静かなところが好きな面もある。
しかし、人数の都合もあるだろう。喫茶店はつらいか。
【カラオケとかどうだ?】
ふと、思いつきを打ち込んでみる。
【ミアちゃんって、日本の曲歌えるのか?】
【いや、そっちはさっぱり。アニソンなら】
【ミアちゃんって、オタクだったのか……】
【最近はそうでもないらしいぞ?】
動画配信サービスが進出した影響もあるらしい。
コアなファンでなくとも、日本アニメを知ってる奴が増えてるとか。
【じゃあ、カラオケで良さそうだな】
クラスのリーダー格の一人のメッセージ。
【よし、じゃあ、その方向で話まとめちゃおうぜ】
ということで、歓迎会がすごい速度でセッティングされた。
特に男子連中を中心に。なんとも現金なことで。
というわけで、放課後。
「なあ、ミア。今日さ……」
話を切り出そうとしたところ。
「咲太。これから、デート行かない?デート」
ミアから予想外の返事。
「デ、デート?」
「うん。デート。おかしい?」
ミアは何やら首を傾げているが、デート……。
調べた限り、ヨーロッパでも、友人同士で遊ぶのにデートと言わないらしい。
だから、異性間でという意味合いを込めているはずなのだけど。
なんで、ミアはあっけらかんと誘えるのだろうか?
「いや、おかしくないけど。でも……そうだ」
先程の歓迎会の話を思い出した。
せっかく設定された歓迎会を断っておいて、二人でデート。
奴らが勝手にしたならともかく、俺もアドバイスしたわけだしな。
さすがにバツが悪い。
「さっきさ、クラスの連中で、ミアのサプライズ歓迎会やろうって言ってたんだ」
「そうなんだ」
「だから、デートは一旦おいといて、今日はそっちに行かないか?」
正直、ミアとのデートをしたいと思う。とても。
でも、とりあえずは歓迎会を優先するのが無難だろう。
「わかったわ。デートはまた明日ね?」
「明日?」
「うん。ひょっとして、予定ある?」
「いや、予定はないけど……」
なんでミアはこんな積極的なんだ。
「あ、もちろん、咲太が気乗りしないのなら……」
悲しそうな顔になるミア。
「いや、そうじゃないんだ。じゃあ、明日、デートな」
こいつのデートは、一体どういう意味なのだろうか。
「うん、じゃあ、明日、楽しみにしてるね」
というわけで、明日は改めてデートに決定。
今日は、ミアの歓迎会でカラオケと洒落込むことになった。
「~~~~」
ダークなアニソンを綺麗なソプラノボイスで歌うミア。
その綺麗さに、皆が聞き惚れていた。
俺だって、ミアの歌声を聞くのは数年ぶりなので、同じだ。
「ミアちゃん、歌も上手いのな」
「勉強も出来るし、可愛いし、完璧だよなー」
「なんか、咲太が妬ましく思えてくるな」
ミアが歌ってるのをいいことに、好き勝手なことを言ってやがる。
あいつの頑張りの結果であって、最初から出来たわけじゃないのに。
「別にミアはフリーだから。アプローチしたいなら、止めないぞ」
と言いつつ、腹の底ではそんな割り切れているわけもない。
「じゃあ、立候補してみようかな」
数学の授業で打ちひしがれていた斉藤の目に光が灯る。
「斉藤には高嶺の花だって」
と、クラスの陽キャ……この言葉嫌なんだけど、グループの一人が言う。
「僕だって、やる時はやるさ」
何やら、斉藤は闘志を燃やしてしまったらしい。
何がこいつをそこまで駆り立てるのか。
「おーおー。どうせ、振られるのが関の山だろうぜ」
そして、また挑発しやがる。
「今日はミアの歓迎会だろ。その席で妙な争いはやめようぜ」
「そうだな。いや、悪かった」
「僕も、熱くなって悪い」
お互いが謝りあって、一段落。
歓迎会の席で殺伐とした空気は止めて欲しい。
◇◇◇◇
「それじゃ、また明日」
「今日は楽しかったよ。また誘ってねー」
そんな言葉で歓迎会はお開き。
俺とミアは二人で家路につく。
「カラオケって滅多に行かないけど、いいよね」
「ああ。元々、日本発の文化だしな」
そもそも、カラオケ店の数が日本は段違いらしい。
「でも、歓迎会は嬉しかったけど……」
「けど?」
「明日のデートの方が楽しみ」
その言葉に、心臓がドキリとする。
「俺も楽しみだ。で、どこに行く?」
動揺をさとられないように冷静に言う。
「それは、帰ってからゆっくり決めたい♪」
言いながら、手を自然と絡めてくる。
「あ、ああ」
俺はといえば、彼女のなすがまま。
スイスでは、友達でもこんなさりげなく手を繋いでくるんだろうか。
でも、仲のいい友達同士でそうしていいのなら、俺だって。
勇気を出して、俺からも手を絡める。
「ん……♪」
ミアはといえば、目を細めて、笑顔になった。
どうやら、ご機嫌の様子。
これは友達だからなのか、異性だからなのか。
(こいつの心が知りたい)
本当にそう思う。
恋愛文化の壁は予想以上に大きいらしい。
というわけで、ミアの歓迎会と咲太の複雑な内心のお話でした。
次のお話は「初デート」。本来なら、嬉し恥ずかし、
でも、咲太にとっては複雑な、ミアとの初デート。そんなお話になる予定です。
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