第4話 登校そして転校
「はー、あづい……」
「日本は、やっぱり蒸し暑いわね……」
俺たちはへばっていた。先週の再会の喜びはどこへやらという感じだ。
これも、暑いのが悪い。9月だから言っても仕方ないんだが。
それにしても、ミアのセーラー服姿は実に可愛い。
スラッとした長身と童顔気味な顔にもよく似合っていて、
大人の色香と子どもっぽさが同居したような不思議な魅力がある。
でも、やっぱり暑い9月14日の月曜日。
「でも、これから、私も日本の女子高生なのよね♪」
「張り切りすぎないようにな。色々」
「むしろ、せっかくの転校初日だから、張り切るわよ?」
ああ、ミアの目が爛々と輝いている。変なことになりませんように。
登校した俺は、ミアとは職員室前で別れて、教室に入る。
「おう、おはよう、咲太」
声の主は、悪友の佐々木隼人。
面構えはまあまあ。でも、裏表の無い、いい奴だ。
「ああ、おはよ。隼人」
ひらひらと適当に手を振って、挨拶を返す。
「それで、親戚の女の子だけど……」
その言葉を聞いた途端、何かスイッチが入った。
「あぁん?」
気がついたら、殺気を込めて隼人を見据えていた。
「ちょ、ちょっと。俺が何かしたかよ」
しまった。隼人がビビってる。
「予告しておく。今日、銀髪碧眼の美少女が転校してくる」
言っておいてなんだが、友人キャラが言いそうな台詞だよな。
「なんだよ、その設定。暑さで頭おかしくなったか?」
失礼なことを言う奴だ。
「まあいいや。朝のホームルームを待て」
「おい。まさかマジなのか?」
「マジだよ。それと、変な目で見るなよ?」
「おい、それってどういうことだよ。おーい」
これ以上言うと墓穴掘りそうだな。退散しよう。
「咲太。その、銀髪碧眼の美少女って何?」
と思ったら、今度は、もう一人の悪友が聞いてきた。
名は春崎絵里。中学からの付き合いだ。
サバサバしてて、異性を意識せずに付き合えるタイプ。
髪もショートで、全体的にサバサバ系を意識した格好だ。
「そのまんま。そういう奴が今日、転校してくる」
「ひょっとして、先週の親戚の女の子って」
相変わらず鋭い。絵里はすぐ勘付いたようだ。
「ま、そういうこと。日本は久しぶりだから、助けてやってくれ」
「なにそれ。外国の女の子?」
「色々ややこしいけど、スイス出身の女の子」
「スイスねえ……牧場がいっぱいのイメージだけど」
「とにかく、歓迎してやってくれ」
「う、うん。わかったわよ」
絵里なら、女子同士大丈夫だろう。うん。
そうこうしてる間に、予鈴が鳴った。
いよいよか。頼むから、普通の自己紹介してくれよ。
「皆、おはよー」
相変わらず、秋ちゃんが元気な声で朝のホームルームを始める。
秋ちゃんこと秋菜先生はまだ20台半ばの女性だ。
童顔気味なこともあって特に男子に人気……らしい。
後ろからついてくるのは、ミア。
「おい、あの女の子誰だ?」
「外国の子だよな。銀髪って初めて見たぞ」
「モデルさんみたいで、綺麗よね」
「ああ、咲太が言ってたのは、この子か」
「咲太の奴、なかなかやるじゃないの」
色々な声が聞こえてくる。
絵里の奴の、なかなかやるというのはどういう意味か。
「ホームルームの前に、皆さんに転校生を紹介します!」
秋ちゃんの宣言に、皆が、おおーと沸き立つ。
2年生の秋と言えば、人間関係も固定化されている時期だ。
そこで外国人の美少女が転校して来たとなれば気になるか。
「ミアさんは、スイスから日本にやって来ました。日本には慣れていないことも多いので、仲良くしてあげてくださいね?」
秋ちゃんはそういうが、イメージにずれがある気がする。
小学校の高学年まで日本に居たのだから。
『ミア・カーティス』
黒板にそう書いた、ミアは自己紹介を始める。
「皆さん、はじめまして。スイスから引っ越してきた、ミア・カーティスといいます。日本は久しぶりで色々不安だけど、これから、楽しみです。ファーストネームでミアって呼んでくれると嬉しいな」
そんな親しみの湧く最初の挨拶に、特に男どもが色めき立つ。
「ミアちゃんに質問!彼氏は居る?」
野郎の一人が挙手して、質問をする。
よりによって、何て危険球を投げやがるんだ。
「ボーイフレンドは居ないかな。でも……」
その瞬間、確かに、俺の方を見たのがわかった。
にんやりと笑っている。
「一番の親友なら、居るよ」
言いながら、俺を指差して来た。
「え?矢崎?」
俺の方を見ながら、その野郎は狼狽していた。
やっぱり、ミアの奴、言いやがった。
「そう。咲太は私の幼馴染。小学校の頃、日本で仲良くしてたの!」
相変わらず悪戯めいた笑みを浮かべて、そう堂々と宣言したのだった。
「おいおい、矢崎。それ、本当か?」
半信半疑と言った様子の奴。
「ほんとだよ。ミアは俺の幼馴染。スイスに行ってからも連絡取ってたんだ」
仕方なく、白状する。
「こんな可愛い子が幼馴染なんて、おまえ、羨ましすぎるだろ」
こういう反応が予想出来たから、嫌だったんだ。
「とにかく、咲太ともども、これから、よろしく♪」
そうウィンクを送る彼女を見て、歓声が再び湧き上がった。
「で、席は隣、と」
少し憂鬱な気分だ。
「そう嫌そうな顔しないでよ。咲太と一緒が安心出来るんだから」
ぶーぶーと不満そうな顔だ。
「いや、そっちじゃなくてな。お前と付き合いがあったこと、バレただろ」
「バレちゃ駄目だった?」
「駄目じゃないが……色々勘ぐられる」
「?」
「いや、わからないなら、それでいい」
こういうところ、相変わらずミアは無邪気だ。
しかし、これで、ミアを狙う野郎どもは出てくるだろう。
いかにして、野郎どもの魔の手からミアを守るか。
と、思考がストーカーチックになっている事に気がつく。
(ああ、もう)
しばらくは、質問攻めにされるのが決定だ。
しかし、悪気があったわけじゃないのだ。
ミアを責められる事じゃない。
だから、俺はため息をつくしかなかった。
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