第14話 いちゃいちゃはどこまでOK?
(キス、か……)
朝の教室で、俺は今朝の記憶を反芻していた。
思い出すのはキスのこと。今度は俺から、と約束してしまったけど。
どういうタイミングですればいいんだろう。
「?」
授業の予習をしていた隣のミアと、ふと目が合う。
「……♪」
にっこりと笑い返される。
くそ、かわいいなあ、もう。
そんな事を思いながら、見つめ返す。
今度はふにゃっと幸せそうな顔になる。
ああ、かわいいなあ、もう。
ふと、机の上に置いた手の甲に、温もりを感じる。
見ると、ミアが手を重ねていた。
つられて、もう片方の手をさらに重ねる。
俺たち、恥ずかしいことしてるなあ、と思う。
(もうちょっと、してもいいか?)
勇気をだして、ミアを俺の方に少し抱き寄せる。
すると、こつんと頭を倒してくる。
「こうしてるの、とっても幸せね」
「ああ、幸せだな」
どこか、呆けた台詞を交わしている俺達。
なんだか、いい雰囲気だ。いっそのことーそう思った時だった。
「咲太。これ以上は、教室では止めて欲しいんだけど」
冷たい声が降り注ぐ。声の方向を見ると、絵里が視線を送っていた。
って、
「わ、悪い……つい」
慌てて、ミアと距離を取る。危ない、危ない。雰囲気に流されるところだった。
周りを見ると、興味深そうに観察してる勢に、目をそらしている勢。
そして、白けた視線を送っている勢に分かれていた。
「それに、ミアちゃんも。嬉しいのはわかるけど、教室ではもうちょっと、ね?」
不満そうなミアに対して、絵里は諭すように言う。
「……ごめんなさい。気分が盛り上がっちゃって、つい」
ミアも分が悪いと思ったのか素直に謝罪。
「分かってくれればいいんだけどね。でも、スイスだと教室でさっきみたいにいちゃつくのも普通なの?」
そういえば、どうなんだろうか。
「ううん。スイスでも、ここまでしたらちょっとやり過ぎかな」
いくらか冷静になった声色でミアが言う。
「やっぱり、そうよね。いくら何でも変だと思ったもの」
うんうん、と納得顔の絵里。
「まあ、俺も悪かった。色々」
嬉しさの余り冷静じゃなかった事を少し恥じる。
「ほんとにね。普段、シャイな癖にどうしたんだか」
「いや、ほんとに言葉もない」
雰囲気に流されたと言ってしまえばそれまでだ。
でも、教室ではもう少しくらい慎みを持つべきだろう。
「俺はいいと思うけどな。昨日だって、愛妻弁当を「あーん」してたしよ」
割り込んで来た隼人はといえば、何やら面白がっている。
「あれも大概だと思うけどね。さっきは止めてなかったらどこまで行ってたか……」
絵里の言葉が胸にグサっと突き刺さる。
「いや、ほんと悪かった。これからは、教室ではもうちょい控えるから」
「うん。私も。もうちょっと控えるから」
二人揃って小さくなってペコペコする。
「教室ではもうちょっと控えてってだけだから。あんまり気にしすぎないで?」
絵里も言い過ぎたと思ったのか、そんな風にして場を締めくくったのだった。
「ねえ、咲太」
「どした、ミア」
絵里達が去った直後、ミアが話しかけてきた。
「今日のお昼は、その、二人きりになれるところに行かない?」
どこか気恥ずかしげな、お誘いの言葉。
俺はといえば胸がドキドキだ。
「あ、ああ、行こう。でも、どこがいいだろな……」
普段使われていない教室?
それとも、中庭の隅っこ?
あるいは、校舎裏?
「4階の端っこに、誰も使ってない部屋があるって聞いたのだけど……」
「あのさ、ミア。嬉しいんだけど、積極的過ぎないか?」
なんで、早くもそんな所リサーチしてるんだよ。
「咲太はイチャイチャしたくないの?」
「いや、もちろんしたいけど……」
ミアの大攻勢に、今朝の出来事を思い出す。
もちろん、俺だってイチャイチャしたい。
でも、ミアのそれは俺のを遥かに上回っているように見える。
「けど?何か引っかかってるの?」
何か悩みでもあるの?とばかりの言葉。
そうじゃなくて……、あれ?別に拒む理由もないな。
「悪い。なんか、恥ずかしい気持ちが抜けてないだけみたいだ」
結局はそれだけの事だと、改めて気がつく。
「そういうシャイなところも好きだけど……別に遠慮しないでいいのよ?」
遠慮、か。そんなつもりはなかったけど、そういう風にも見えるか。
「わかった。そこら辺は、出来るだけ考えないようにしてみる」
正直、ゆっくりペースでいいと思っていたけど。
ミアがそれを望むなら、俺だって。
「期待してるわね?」
と、悪戯っぽく笑うミア。
さしあたっては、今日のお昼か。
ほんと、振り回されっぱなしだ。
というわけで、教室で暴走し過ぎて諌められる二人でした。




