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想い続けた異国の少女と二人の約束  作者: 久野真一
第3章 恋人(仮)
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第12話 最初の夜

なんだか急展開な夜になります。

「そういえば、隼人(はやと)君のお母さんから聞いたのだけど……」


 俺たちが恋人になった初日の夕べ。

 恋人になったミアが隣にいる幸せを噛み締めながら食卓を囲んでいると、

 母さんが何やら不穏な事を言い出した。

 ママさんネットワークという奴で、どうせロクな事じゃない。


咲太(さくた)とミアちゃん、お付き合いを始めたって本当?」

「げふっ……!」


 想像の斜め上の角度から、いきなりなことを言われてむせる。

 

「はい、お水」


 慌てて、水をグラスに注いで差し出してくれるミア。

 昔は気づかなかったけど、こいつ、気遣いが細かいんだよな。


「いやその、本当というかなんというか……」


 一体どう言えばいいのだろうか。

 ミアの気持ちは本物だし、俺の気持ちも本物。

 でも、デーティング期間だという、この曖昧な関係。


「お母様。本当よ。昨日から咲太は私の恋人」


 答えに困っている間に、ミアが断言してしまった。

 いいでしょ?という感じで視線を送ってくる。


(まあいいか)


 視線でミアからの合図に対して、肯定する。

  

「そう。安心したわ。咲太も良かったわね?」


 母さんは母さんで無邪気に喜んでいる。

 まあ、母さんには色々協力してもらったしなあ。

 嬉しさも格別といったところなんだろう。


「ま、まあな。一応は」


 ともあれ、母親だからこそ知られたくない事もあるのだ。

 だから、自然とぶっきらぼうな返事になってしまう。


「ほんと、私も心配だったからねえ。何年片想いを続けてたのやら」

「ちょ、ちょっと母さん!」


 そこまでバラすのは勘弁だ。慌てて口止めしようとするけど、時既に遅し。

 頭を抱えていたところに、


「お母様」


 何故か、やたら真剣なミアの声が響いた。


「咲太が、私にずっと片想いを、って本当?」


 その声も表情も悪戯めいたものでなく、真剣な問いかけだった。


「ええ。最初に聞いたのは中学の時かしら。確か……」

「これ以上は勘弁してくれ、頼むから」

「仕方ないわね。後で、こっそり教えてあげるわ?」

「はい!」


 やたら嬉しそうなミアの声が響く。

 俺の立ち位置なんて弱いものだ、とうなだれる。


 実のところ、ミアとの交流は両親の援助のおかげが大きい。

 専用のノートPCもお年玉だけで買える額じゃなかった。

 それに、夜遅くまで長話してても咎められないのも。


 だから、甘んじて受け入れるしかなかった。


◇◇◇◇


 部屋に戻った俺は、色々な意味で悶えていた。

 トントン。扉をノックする音がした。


「ミアか?入っていいぞ」


 風呂上がりのミアは既に寝間着だった。

 白を基調とした可愛いネグリジェ。

 大人っぽい身体つきと少し童顔気味な顔によく似合っている。

 それに、まだ少し湿った銀髪も色気がある。


「お、お邪魔するわね」


 何やら妙に視線を逸らしながら、トコトコと近づいてくる。

 ぽふっと、彼女がベッドに座った音が鳴る。

 引っ越してきてからというもの、ミアは時々こうしたがる。


 初日こそドギマギしたものの、それ以降は緊張するのも馬鹿らしく、

 こんな状態が普通になっていた。いたのだが……。


 今日は妙に緊張する。

 それも、目の前のミアが妙に堅い表情をしているせいだろう。


「あのね。お母様に、私が引っ越してからの事、聞いたのだけど……」

「ああ。まあ、なんていうかこっ恥ずかしい話だろ?」


 母さんの事だ。

 俺がどれだけミアに執着してたのか、さぞかし色々言ったのだろう。

 だから、からかってくるんだろうな、と身構えたのだが。


「ありがとう、咲太」


 はにかみながら、とても幸せそうな顔でお礼を言われてしまった。

 予想外の返事だったので、俺は混乱してしまう。何故?


「別にお礼言うことじゃないだろ。勝手に執着してただけだし」


 友情はあるにせよ、結局は好きな女の子を手放したくなかった。

 ただ、それだけの話だ。


「咲太だけだと思ってるの?私だって同じだったんだから」


 潤んだ瞳で、そして、妙に赤い顔で言われてしまう。

 色っぽい体つきもあって、妙にドギマギする。


「そ、そうか。ありがとな」


 ぶっきらぼうに言いつつも、正直、俺は嬉しかった。

 5年間の間、こいつも同じくらい想っていてくれてたということだから。


「咲太。目、目を(つむ)ってくれる?」

「え?あ、ああ」


 言われて、つい、目を瞑ってしまう。

 まさか……と思いつつ、確認するのも無粋という気がする。

 キスもOKだという、あの言葉をふと思い出す。


 緊張しながら、目を瞑ること数秒。

 ちゅ。っと、唇に柔らかい感触がした。

 期待してたのと少し違う感触だったけど、嬉しい。


「咲太。デーティング期間、終わりにしない?」


 顔を上げたミアは、髪を押さえながら、甘い声で言う。

 一見、なんでもないように見えるが、頬が赤い。って、


「念のために聞くけど、本物の恋人同士に、って事で?」


 急な事だけど、そういう意味しか考えられない。


「……元々、仮も本物もないのだけど」

「安心させてとかどうなったんだよ」


 理由を当ててみせろとも言ってたけど。

 あれはどうなったんだろう。


「もう、安心出来たから。理由も、もう、どうでもいい」


 妙に甘ったるい声に、俺も理性が溶かされる気がしてくる。


「なあ、それって。母さんが言った事で……?」


 それしか考えられない。


「そ、それはどうでもいいでしょ?咲太の返事は?」


 理由を問い詰めようとしたのだが、はぐらかされてしまう。

 で、返事はと言われれば一つしかない。


「そりゃ、OKに決まってるって。元々、そうなりたかったんだし」


 結局、デーティング期間とはなんぞやとなってしまったけど。

 

「ありがと、咲太。じゃ、改めて恋人としてよろしくね♪」

「お、おう。よろしく」

「そ、それじゃ!」


 そう言って、慌てて俺の部屋をパタパタと出ていったミアだった。

 

 後に残された俺はしばらくの間呆けていた。


「こ、恋人同士。本当の、恋人同士……」


 今、顔を見られたらとてもニヤけているだろう。

 しかし、デーティング期間という胸のつかえが取れたのだ。

 それくらい喜んでもいいだろう。


「でも、あれ。俺たち、告白、してない、よな?」


 さっきのキスと、かけられた言葉の意味がわからないわけじゃない。

 両想いになったのだとわかってはいる。

 でも、「告白の儀式」がないのはとても不可思議に思えた。


(これが国を超えた恋愛って奴、なのか?)


 嬉しさを噛み締めつつ、そんな事を考えてしまった。

咲太のお母さんという撹乱要因(?)のせいで、何が何やらの内にくっついてしまったのでした。

次の章では、恋人(仮)の(仮)が取れた二人を描いて行きます。

咲太のお母さんが勝手にぶちまけたあれこれも、後々描写あるのでお楽しみに。


二人の恋の続きをみたい方や、お話を読んで思うところがある方は、

感想や評価いただけると、励みになって嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] しかし、「最初の夜」はタイトル詐欺だと言いたい!/w
[一言] まあ、めでたい。「ついにゆく道とはかねてききしかどきのうけふとはおもわざりしを」って違うかって/w 合意によって恋人になる。なんか契約文化的な感じ。まあ契約って、一方的提示を相手が受け入れ…
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