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想い続けた異国の少女と二人の約束  作者: 久野真一
第3章 恋人(仮)
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第10話 愛妻弁当(?)

恋人同士のお昼といえば……みたいなお話です。

 さて、俺とミアのお付き合い(仮)が始まったわけだけど、

 それはそれとして授業はいつも通り進行する。

 隣のミアをちらっと見ると、真剣に授業プリントに向き合っている。


(こういうとこ、やっぱり真面目なんだよなあ)


 俺に対しては悪戯をしたりクイズを仕掛けたりするのが好きなミア。

 しかし、切り替えるところは切り替えるのもこいつだ。


(それに比べて、俺は……)


 仮とは言え、ミアが恋人になってくれて、嬉しいやら落ち着かないやら。

 今も、ちらちらと横目で彼女の様子を眺めてしまっている。


(ちゃんと授業を聞こう)


 浮ついた気持ちを振り払って、授業に集中する。

 お互いの相性も含めて確かめ合うのがデーティング期間だと言う。

 言い換えれば、その間に愛想を尽かされてしまう可能性だってあるのだ。


(とはいえ、なあ)


 落ち着かない気持ちはやっぱりある。

 だって、ミアはミアで真剣に向き合っているのだ。

 軽い気持ちで「お試しでどう?」とは違うのだ。

 だから、恋人らしい事を色々したいと思ってしまうし、ミアも拒まないと言う。


 そんな事を考えて、ちっとも集中出来ない午前の時間を過ごしたのだった。


「なあ、ミア。今日はお昼どうする?学食か購買か」


 特に深い意味はなくそう聞いたのだけど。


「ひゅー。お熱いこって。恋人同士でイチャイチャお昼か」


 隼人(はやと)がそうからかってくる。


「隼人。お前には今の状態を伝えたはずだが?」


 ギロリと鋭く睨みつける。


「デーティングだっけ?聞いたことは聞いたけどさ。実質的に恋人だろ」

「……つっても、まだ仮だよ、仮」

「スイスの恋人がどうか知らんけどさ。昨日みたいなの見せつけて仮だったら、うちのカップルは全員仮じゃねえの」


 その言い分には、唸ってしまう。

 俺自身、今の関係をどう捉えればいいのかわからないのだ。

 だって、キスまで許すというのに、でも、正式な恋人じゃないというのだ。

 ぶっちゃけ、俺が想像していた普通の恋愛の外にあるものだ。


「ま、恋人同士のお昼を邪魔しちゃ悪いし。俺は退散するよ」


 そう言って、隼人は去って行ってしまった。

 しかも、周りを見ると、気を遣って去る奴か、興味津々に見守る奴ばかり。

 俺たちは動物園のパンダか?


「とにかく、ミア。昼飯行こうぜ」

「その。実は、お昼、作ってきたんだけど」


 意を決して、という風に切り出してきた。


「つまり、俺のためのお弁当を?」

「うん。せ、せっかく恋人になったんだし」


 俯いて、何やらもじもじしている。

 なにこれ、可愛い。しかも、俺のためにお弁当とか。

 男子高校生が夢見る黄金パターンじゃないか。


「でも、スイスでは、彼女が彼氏にお弁当作る風習とかあるのか?」


 初めて聞いた話だ。


「郷に入れば郷に従え、って言うでしょ。だから」


 その(ことわざ)にならうなら、俺は早く普通の恋人関係になりたい。

 と、そんな事を言っても仕方ないか。


「はい。ちょっと大きいから二人分になっちゃったけど」

 

 風呂敷包みから取り出しのはサランラップがかかった大皿。

 入っているのは……なるほど。


「ロスティか。ミアの家に行った時を思い出すな」


 ロスティはスイスの家庭料理の一つ。

 細切れにしたジャガイモを、ベーコンや玉ねぎなどを混ぜて焼き上げたものだ。

 こいつの家にホームステイした時は、よく食べたのを覚えている。


「でしょ?その内、日本のお料理も作ってあげたいけど……」

「いや、これで十分だって。作って来てくれただけでも嬉しいよ」


 ラップを外すと、俺の分のお箸を渡してくれる。

 フォークじゃなくて、お箸な辺り、気遣いが細かいな。

 気がつくと、ミアが期待するような視線を送っていた。


「早く、食べてみて?」

「あ、ああ」


 お箸で、サクッと切り分けて口に運ぶ。


「ああ、これ、これ。ミアの家で食べた時のまんまだ」


 塩味のついた細切りのジャガイモとベーコンに玉ねぎがよく合う。

 歯ごたえもカリカリという感じで、食が進む。


「どう、おいしい?」


 今度は、どこかしら緊張した表情になるミア。

 ひょっとして、味がどうか不安なのか?


「美味いよ。ひょっとして、お袋さんから習ったりしたのか?」

「うん。日本に来る前に、色々教えてもらったわ」


 それが誰のためなのか、言うまでもない。

 仮だろうが何だろうが、その気持ちは本当だ。

 それを理解して、色々くすぐったくなってくる。


「ま、まあ。なんだ。ミアも食えよ」


 微妙な空気を変えようと、ミアに勧めたのだが。


「じ、実はやってみたいことがあったのだけど!」


 このシチュエーションで、やってみたいこと。

 それに、アニメのお約束が好きなミアの事を考えると、まさか。


「アニメでよく見る、「はい、あーん」って言うの、やって、欲しい」


 またも羞恥に震えているミアだけど、俺は俺で恥ずかしい。

 やるのか?あれを。

 そりゃ、やってできないものじゃないけど。


「わかった。はい、あーん」


 箸でミアの少し小さい口に合わせて切り分けたものを、運ぶ。

 途中、緊張のあまり手が震えてしまったが。


「うん。あーん……」


 箸ごとパクリと咥えられる。

 しばらく、もぐもぐと咀嚼する音が聞こえた後。


「うん。よく出来てるわね」

「そりゃ、味見はしたんだろ?」

「そういうことじゃないの!」

「で、これで満足したか?」


 いや、ミアのことだ。次はきっと……


「はい、あーん」


 フォークで突き刺したロスティを俺に押し付けてくる。

 やっぱりか。仕方ない。


「……うん。美味い」


 お約束の台詞をあえて言う。


「良かった♪」


 そんなお約束を聞いて笑顔になるミア。


(ほんと、お約束が好きなんだから)


 少し微笑ましい気持ちになりながら、二人の昼食を楽しんだのだった。


 ちなみに、俺達の「あーん」の様子は、


「すっごく尊い感じだった!」

「だよね。ずっと見ていたい感じだったよー」


 と、特に女性陣に馬鹿受けだった。

 なんでだ。

ロスティを食べさせ合いっこする二人でした。

思いっきり相手に踏み込んでるので、恋人(仮)の(仮)がついてるのかどうか……。


こんな感じで、初々しくて、でも妙な雰囲気の二人を応援したい方は

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― 新着の感想 ―
[一言] あーん、って恋人でも相当進んでいないとやらない気がする。見せつけられる方の身にもなってよ、って/w 日本のサブカル文化にあこがれて日本に来る女の子の話とかあるけれど、やっぱりあーんとかに憧れ…
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