王太子殿下に恋人が出来たので大人しく身を引くことに…するふりをして籠絡返しします!ー私だって本当は真実の愛とやらに生きてみたいんですのよ!王太子殿下だけなんてそうはいきませんわ!ー
手の平の上でころころされるのはそれはそれで幸せ説
王太子殿下が籠絡された?ああ、大丈夫、私にお任せくださいませ。
はじめまして、ご機嫌よう。私、アリス・ヴェリテと申します。公爵令嬢ですわ。ドナシアン・ロワ殿下の婚約者ですの。
さて、さて。最近困ったことがありますの。聞いてくださいませね。実は、婚約者のシアン様が最近浮気をされていますの。しかも学園内で、堂々と。いえ、本人達は隠れて愛を育んでいるおつもりのようですけれどもね。
ええ、ええ。私は冷静ですわ。ただ、ちょっと怒っているだけで。
…私だって本当は真実の愛とやらに生きてみたいんですのよ!シアン様だけなんてそうはいきませんわ!
ということで、籠絡返しをさせていただきますわ。ええ、たしか…裕福な商人の娘のバルバラ・アンサンセさん、でしたかしら。覚悟していてくださいませね。
ー…
ということで、ここ数日バルバラさんの身辺調査をさせていただきました。おかげさまでシアン様を堕とす方法がわかりましたわ。…怖いくらい徹底してシアン様の好みに合わせて差し上げますわ。うふふ。
あと、バルバラさんは女の武器として涙を用いているようですが、虐められたという証言も全て自作自演ということもわかりましたわ。いざという時の切り札にしましょう。…これで複数の異性とふしだらな関係になっていたらもう完璧なのですけれども、どうやらバルバラさんは思いの外シアン様に一途なようですわ。残念。バルバラ様ほど可愛らしい方なら男も選り取り見取りでしょうに、あんな浮気者のどこがいいのかしら。
あら、シアン様のことを大して好きでもない私よりはマシ?でもね、王族や貴族にはそれなりの義務というものがありますのよ。政略結婚だってそうですわ。それなのに、結婚前から商人の娘と浮気をなさるなんて、そっちの方が常識はずれだと思いませんこと?せめて結婚して、私との間に世継ぎを作ってから寵妃として迎え入れて欲しかったものですわ。そうすれば私もこっそり愛人を囲えますし…。しかもこのままの勢いだと、私に婚約破棄まで突きつけてきそうなんですもの。国のパワーバランスが崩れますわ。国の為にも、私がシアン様を繋ぎとめねばならないのです。
では、作戦開始ですわ!
ー…
久しぶりに、シアン様を誘って二人きりの時間をいただく。お互い、王太子教育と王太子妃教育であまり一緒にはいられなかったから新鮮ですわね。学園では、いつも隠れて(ばればれでしたけれど)バルバラさんと一緒にいましたから、余計に。
「どうしたのかな?突然」
シアン様は貼り付けた笑みを崩さない。
「私…私…実は…とても、悩んだのですけれど…」
私はいつもの冷静沈着で淑女の鑑とされる態度を崩して、おどおどとしてみせます。その様子にシアン様は驚いたようですわ。
「アリス…?」
目に涙をいっぱいに溜め、だけれど決して溢さずに、頬を染め上目遣いで、シアン様を見上げます。その際胸の前で手を組むことで、胸をきゅっと寄せてバルバラさんには無い豊満な胸を強調します。…シアン様は途端に完璧な笑みを崩して顔を赤く染めます。畳み掛けますわよ!
「私…ずっと、ずっとシアン様をお慕いしておりましたの…」
「…!」
「だけれど…王太子妃教育で忙しくて、シアン様も王太子教育で忙しそうで…私、婚約者という立場に甘えてしまいました…」
シアン様の大好きな健気な女の子を必死で演じます。私は女優、私は女優。
「私、私っ…」
ここでしゃくり上げながら泣き出します。淑女の鑑とされる私のこのような姿。シアン様は婚約者として驚いたり、男として喜んだりとかなり動揺していらっしゃいます。
「あ、アリス…ほら、ハンカチを…大丈夫かい?」
「ありがとう、ございます…最近、アリーとは呼んでくださらないですわね…」
「…っ!アリー…」
「…私、何か至らない点がありましたか?…私に足りないところがあるのなら直しますわ。だから、捨てないで…!シアン様…っ!」
「アリー…?なんのことだい?」
「…バルバラ様との噂を、耳に致しましたの」
「…っ!」
途端にシアン様の顔色が青くなる。当然だ。シアン様は第一王子で王太子とはいえ、うちの後ろ盾が無くなれば優秀な第二王子殿下を王太子に押す声も上がるだろう。だから一応は隠れて(ばればれでしたけれど)愛を育んでいらしたわけで。
「それは。誤解なんだ…アリー」
青い顔で釈明しても意味はありませんわよ。まあ、誤魔化されて差し上げますけれども。
「いえ、違うのです…シアン様を責めたいのではないのです…私、私は、本当はシアン様の為に身を引こうと考えて、お呼び出ししましたの」
「!?」
「でも、でもやっぱり、私…っ!シアン様ぁっ!」
健気な良い子ぶってシアン様に縋る。するとシアン様はそろそろと私の背中に手を伸ばし、さすってくださいました。
「すまないアリー。君を不安にさせてしまって…本当に、バルバラとはただの友達なんだ。君が不安になるなら彼女とは距離を置く」
「えっ…でも、本当にいいのですか…?私に至らない点があったから、御心が離れてしまったのでは…?」
うるうる、ぽろぽろと涙目で問います。
「そんなことはない。こんなに可愛らしい婚約者に不満など持つものか」
「本当に?」
「ああ」
「では、シアン様と離れなくていいのですか?」
「もちろん」
「…よかったぁ。あ、でも、どうしましょう…私、王太子妃教育の一環であまり感情を表に出してはいけないのです。今日は、これで最後だと思っていたから、泣いてしまいました…これでは王太子妃に相応しくないと怒られてしまいます…」
「…そう、だったのか。…僕は、アリーの婚約者だというのに、アリーのことを何も知らなかったんだな。知ろうともせず、一方的に決めつけて…すまない、アリー」
「…?なにがですの?私、バルバラ様とのことが誤解だとわかってむしろ嬉しいんですのよ?」
「…そう、だな。アリー」
シアン様は私の頬にキスを落とします。
「これから、生涯君だけを愛すると誓うよ」
それはそれで愛人を囲えなくて迷惑なのですけれども。
「まあ!嬉しい!」
頬を染め、にこりと笑います。そしてシアン様に再び抱きついて。
「愛しております、シアン様」
「愛してるよ、アリー」
ー…
まあ、蛇足かもしれませんがその後のお話でも。結局のところ、バルバラさんはシアン様に振られましたわ。シアン様からあの日の次の朝、突然一方的に振られたそうですわ。そしてその日から私達が突然らぶらぶカップルになったのを見て、私に掴みかかろうとしたのをシアン様に捕らえられ、今は牢獄の中ですわ。ついでに虐めのでっち上げの証拠も提示して差し上げましたから、刑期は伸びるはずですわ。さらに商家からも勘当されたとか。うふふ。そしてシアン様は最近では私にぞっこんですの。私も、最初はやり過ぎたかしらとか、これじゃあ愛人を囲えなくて迷惑とかも思ったのですけれども、今はそんなに悪い気はしませんの。この方とゆっくりと愛を育んでいくのも悪くないかなと。
ということで、シアン様籠絡返し作戦大成功ですわ!めでたしめでたし!
浮気、だめ、絶対