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Fランク魔王の大躍進  作者: 涼宮クローバー
2/2

ゼロから始める異世界征服〜なんで俺が魔王に?〜

 なっ、なんだここはー!


 目を覚ますと見覚えのない殺風景な場所にいた。圧倒的更地。遠くにハゲた山が見えるくらいでマジで何もない。テキサスにこんな場所ないのだが。


 もしかして、さっきバナナの皮につまずいて転んでモヒカンたちに殺されちゃったのかな。


 するとここは天国、地獄?それともその狭間、せめて童貞卒業してから死にたかったぜ。今更どうしようもないけど。


 意識はしっかりしているし夢ではないのが確かだ。ちゃんと身体も動く。これが異世界転生だったら面白いんだけどな。


 警戒しながらあたりを見回したがやはりここはテキサスではないしTOKYOでもなさそうだ。バナナの皮やモヒカンの姿はどこにも見当たらない。しきりに人間っぽい声がどこからともなく聞こえるが幻聴だろう。たぶん疲れていて頭がおかしくなっているからに違いない。じっとしていて得られる情報も無さそうなので俺は山へ向かうことにした。


「ねぇちょっと待ちなさい!ねぇってば!コラ!」


「うわっ!」


 Tシャツを引っ張られ、石ころまみれの地面にしりもちをついた。痛い。俺のプリケツが傷ついたらどうする。


 それにしてもどうやら人間の声は幻聴ではなかったらしい。俺に気づいてもらえなかったことにかなり怒っているようだった。


 声の正体はやはり女だった。髪は赤く、目は青いし、肌はアイスばりに白い。幼い顔立ちをしているが、実際の年齢は多分20〜22くらいだろう。オタクが好きそうな顔かもしれない。というか俺が好きな顔だ。鎖帷子のようなものを着ていて明らかに武装している感じだが、妙に似合っている。ボディラインがわかる服だが、双丘は緩やかでのっぺりしていた。


「なにジロジロ見てんのよ、いやらしい!」


 俺のいやらしい視線に気づいたのか金切り声を上げる女。


「いや別にお前のまな板なんて見てな…わっ!」


 刀身が俺の首を掠めた。


「次は当てるわよ」


 全く見えなかった。しかし可愛らしいみかけによらずめちゃめちゃ怖い。ちっちゃくないもんとか言ってほしかったのだが。


「う、嘘です。すいませんでした…」


「全く、わたしはまだ成長期なんだから…って、そんなどうでもいいことを話しにあんたを“喚んだ”わけじゃないのよ!」


「よ、呼んだ…?」


 ということは俺がこのわけわからん場所にいるのはモヒカンに殺されたからでもバナナの皮に躓いて死んだからでもないというわけか。転移、いや召喚と言っていいのかな。見たところ俺に外見的な変化はないし。女が明らかに異国風な身なりなのも腑に落ちる。そして俺の事情がわかっているならば話が早い。


「なんのために俺を?もしあのままなら俺は殺されていただろうからそこは感謝するが…」


「…わたしのためよ」


 若干間があった後に情報のなさすぎる返答をされた俺はひっくり返った。


「いや、『わたしのため』に異世界から呼んだって意味わかんねーよ!はっきり言って俺はカッコいいし性格もいい。高学歴で将来も有望だ。だがお前の容姿でそんな男に困っているようには見えないんだが」


「はぁ?何言ってんの、つーかキモいんだけど」


「えっ違うのか…」


 キモいとか小学生の時ぶりに言われたな。少し傷つくぜ。


「あんた、自覚ないのね」


「自覚?お前のこ、恋人であるということ?」


「あんた、バカァ?わたしがそんな下らないことのために魔王を召喚するわけないでしょ!」


「いや、知らんわ。って、魔王を召喚!?魔王…?俺がか!?」


「そうよ、わたしはこの世界で封印された魔王の生まれ変わりを今までずっと探し続けてきたの。それがあんたよ、残念だったわね」


「なんだとー!」


 俺がマオウだと、そんなバカな…。浅◯真央とか井◯真央とか◯道真央とかならまだわかる。中国語では猫のことをマオという。しかし、どうやら俺はマオの生まれ変わりなどではなく魔王の生まれ変わりらしい。


「それで魔王様である俺にどうしろと?」


「わたしの目的はただ一つ。今の腐った政府を倒し、この世界を新しく作り上げること。それには魔王であるあんたの力が必要ってわけよ」


「なるほど、面白いな…だが、断る」


「なんですって?」


 微笑する女。しかし目は全く笑っていない。


 まずなんでこのタイミングで呼んだんだよ。いや、呼ばれなきゃ今頃はモヒカンズに殺されて墓場にいたとは思うが。一応今は就職活動という人生でも五本の指には入る大事なイベントの佳境を迎えているんだぜ。そもそも俺みたいなイケメンで品行方正で穏やかで正義感の強い素敵な人間が邪悪の極みである魔王なんて務まるわけないだろ。


 なんかえろいことをしてくれるなら考えてやらんでもないがね。むしろ俺が本当に魔王なら脅せばしてくれそう。まあでもまな板だしなぁ。


 しかしどうやったら元の世界に帰れるんだろうな。俺がいなくなったら誰が異世界を再興するんだよ。


 ん、待てよ。


 この女は新しい世界を作り上げるために魔王である俺を召喚したって言っていたんだよな。つまり、俺がアメリカのシンクタンクでやりたかったこと、異世界を再興することがここでも実現できるんじゃないか?だとしたらむしろ願ったりかなったりだな。


「いや…やっぱり引き受けようじゃないか」


「マジで?ありがとう!」


「早速今からお前は俺の側近第1号だ、敬意を払いたまえ。俺のことは魔王様呼びでいいぞ」


「…はぁ?あんた、何様?」


「魔王様だ、以後お見知り置きを。あと口の利き方に気をつけな」


 女が無礼な言葉遣いをやめないので紳士に注意する。これがラノベだったら女の命はないだろう。俺の器の広さを敬愛してもらいたいね。


 と俺が不満に思っていると、女の方は鬼の形相で震えていた。


「あんた、自分の立場がわかっていないようね。わたしの名はニナ・スティンクス。この国、クサイヘ国の第一王女であり、世界最強のSSランクの召喚魔術師であるわけ、召喚された者は魔王だからって召喚魔術師に絶対服従!それがルール、わたしが法なの!」


 さっきまでは萎縮してしまったが、それは俺が魔王だと知らなかったからだ。今まで体力テストや全国模試で魔王特有の卓越した頭脳、身体能力の片鱗を見せてきた。なぜ俺はこんなに完全無欠な超人なのだろうと自分が恐くなることもあった。しかし、今ならわかる。俺は魔王だからだ。強靭にして無双、最高。魔王からは逃げられない、逆らうことも許されないのだ。


「そんな俺様ルール知らん。それとニナ・スティンクスって変な名前だな」


「やかましい!もうあんたは許さないわ!


「いいだろう、魔王に反抗とはいい度胸だ。覚悟はできているんだろうな…」


 俺は落ち着いた余裕のある顔つきで怒りで赤面になっているニナと対峙した。勘違いしないでほしいが別に殺める気はさらさらない。少しおしおきをするだけさ。おしおきの内容は企業秘密だが。


「いくぞ!うおおおお!」






「す、すいません。参りました〜」


 俺はニナに触れることさえできず、打撃一発であっけなくノックアウトされた。


「フン、あたしに刃向かうなんて一万年と二千年早いわよ!ま、あたしは寛大だから許してあげるわ」


 どこが寛大だよ。貧乳をいじられただけで剣を向けてはくるし、基本的に怒りながら会話していた気はする。まあやられたのは俺が踏ん反り返っていたので自業自得だが。


 しかし本当に俺は魔王なのだろうか。この世界にくる前と身体能力が全く変わってないし、それっぽい魔法を詠唱しても何も起こらない。この世界の魔王はチンカス以下なのか。でもそしたらわざわざニナが俺を召喚する理由がない。魔王の潜在的な力を引き出せていない可能性がある。


 ニナはキレてはいたものの明らかに手加減していたのがわかった。こんなバケモンがわざわざ魔王召喚に頼ってまで新世界創造を構想しているなんて驚きだよ。俺はもしかしたらとんでもない異世界に来てしまったのかもしれない。


「それにしてもあんた、センスなかったわね、封印前の魔王はこんなものじゃなかったはずよ」


「う、うるせー!」


「まああんたの魔王としての力は必ず必要になるから、その機会までみっちりしごいてあげるわ」


「ヒィ!しごくのは股間だけにしてください!」


「はぁ?殺すわよ」


「やめろー!」


「そういえばあんたの名前聞いてなかったわね」


「そういえばそうだったな。遊太郎、小松遊太郎だ」


「コマツユータロー?アハハ、お粗末な名前ね」


 下品な女だ。失礼にも程がある。俺のパ…じゃなくてお父さんとお母さんにあやまれ!


 でも初めてニナが笑ったのを見て少し安心した。怒っている時よりよっぽど可愛いな。


「さて、こんなとこにずっといても仕方ないしダウンタウンへ向かうわよ!」


「よくわかんないけど楽しみだな。あてにしてるぜ、ニナ」


「任せなさい、ユータロー」


 こうして魔王、俺とクサイヘ王国第一王女ニナ・スティンクスの冒険が幕を開けたのだった。

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