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Fランク魔王の大躍進  作者: 涼宮クローバー
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就職活動に失敗した俺は異世界転移されることを知らされていなかった

三日に一回更新目安にがんばりマスタング

「異世界転生できるってマジ?俺もハーレム無双するぞー」


「このクエストが終わったら奴隷の子の下僕になるんだ」


「俺の潜在能力高すぎなのだが!また俺なんかやっちゃいました?」


 最初は冴えないオタクの妄想くらいに思っていた。今や猫も杓子も異世界転生である。


 不慮の交通事故が犠牲者の異世界転生を引き起こしてから異世界への移住は空前のブームとなり、急速に全世界に浸透していった。


 最初は死ぬことでしか実現できないと考えられていたが、アメリカのシンクタンクによる研究の結果、生きていても転移ができることが判明した。今ではコンビニに転移装置が搭載されていてポイントカード一つで簡単に異世界へ移ることができる。ただし異世界から再びこっちに戻れる方法は明らかになっていない。


 しかし、最近になってテレビのニュースでしばしば異世界の状況が報道されるようになった。インターネットの掲示板では転生者と思しき人間もアクセスでき、そこで情報共有できる。ただ、異世界事情は我々の認識とはかなり乖離していることが明らかになってきた。


 地球からの転移が急速に進み、異世界では人口爆発による様々な混乱を引き起こしていた。食料不足、カルチャーギャップ。思想や習慣の違いによる軋轢。一つの異世界に集中して転移しているわけではないが、地球から数十億人も転移すれば分散されてもかなりの数になる。


 そして不満を募らせた原住民は転移転生してきた移民たちへの弾圧を始めた。虐殺事件も珍しくない。せっかく転移したにも関わらず新しい環境に適応できず雑魚モンスター相手に犬死にする転移者も少なくないらしい。


 一方でこっちの世界ではユートピアを求めて優秀な人材がこの世界から流出してしまうといった問題が悪化の一途を辿っていた。もちろん実際はユートピアなんかではないという認識も広まっているはずだが、ギャンブル感覚でみな異世界へ移ってしまったのだ。かつては100億人いた世界の人口も20億人にまで減少している。しかも残された人々の大半がコンビニに縁の薄い発展途上国や紛争地域の住民で、先進国では大衆だけでなく官僚もみなスローライフを求めて異世界にワープしてしまい、国が崩壊していた。


 こうした事態に対処すべく、アメリカのシンクタンクは異世界で起きている諸問題の解決を図るとともに、異世界転移に対する楽観的な見方を改めさせるために転生がトラウマになるようなアニメーション制作を目論んだ。しかし、過酷な労働環境のせいで従業員もみな異世界へ転移してしまったため、構想は白紙に終わったのだった。


 それからさらに100年の月日が流れた。


 俺の名前は小松遊太郎、日本最高学府である日本頭狂大学法学部の四年生で現在就職活動をしている。以後お見知り置きを。余談だが日本の人口減少はとどまるところを知らず、今では全ての大学が定員割れしているため平仮名さえ書ければ主席合格できてしまうのだが。


 今俺はアメリカのシンクタンクに就職するためテキサスの郊外にある宿屋に泊まっていた。外では西部劇並みに頻繁に激しい銃声が明けても暮れても聞こえてくる。政府や治安部隊は既に異世界転移して消失しているし、産業や農業も内紛と異世界転移によって完全にオワコン。残された人はわずかな食料を巡ってストリートファイトに明け暮れているためこのありさまというわけだ。ぶっちゃけ外が出た瞬間運が悪ければ死ぬ。家の中にも下手したら流れ弾、ロケットランチャーなどが飛んで来るかもしれない。これならさすがに異世界の治安の方がマシかもな。


 それでも俺にはここで成し遂げなければならないことがある。


 それは異世界をシンクタンクでの研究を生かしてより住みやすい世界にすることだ。こっちの国の政策には期待できない、というか無政府なのでどうしようもないが、異世界の方は腐っていてもトップダウン。(俺が聞いたところによると)統制がしっかりしている。そこで俺はインターネット掲示板での書き込みを通して異世界をよりいい世界にする提案をしていきたい。それには独学やインターネットの書き込みだけでは問題解決が困難であるため、今までの異世界に対する研究過程や成果を血肉にしつつ、自分自身で異世界を改善するための研究を行うために世界で唯一残存しているアメリカのシンクタンクを志望したというわけだ。


 俺はインターネットでの書き込みを通して地球にいたやつらが今生活している異世界の文化体系や生活水準について調べた。中にはは純日本人である俺にとっては常軌を逸脱したものがあった。


 純粋な原住民を起点とした階級制度、意味奴隷の売買、名ばかりの勇者による恐怖政治、弱小国への侵略活動、ゴブリンの反乱、占術による不当な排斥、虐殺行為、核戦争後の世界並みに狂気の沙汰だった。


 そんなディストピアにお前らはなぜよく調べもせずに転移してしまったんだと思う一方で、転移した彼らが当初の思惑通りに異世界で快適なライフをおくること、原住民と彼らの橋渡しをしてやりたいという強い熱意があた。これにはちゃんとした理由があって俺は幼少期から異世界転生するラノベを多く嗜んできたからだ。俺だってゆくゆくは異世界転生とかして無双したり、可愛い女の子と旅したいんだよな。


 だが、その夢が実現できる世界を作らなければどうにもならない。まずはシンクタンクに就職する。そして、俺が異世界に「革命」を起こしてやるぜ。






「選考の結果についてご連絡申し上げます。慎重に検討した結果、誠に残念ながら、今回は貴意に添いかねる結果となりました。折角のご期待に添えず、大変申し訳ございません。末筆ながら小松様の今後の一層のご健闘をお祈り申し上げます」


 シンクタンクからの選考結果の連絡は志望書類を提出して五分足らずで送られてきた。それから半日あまり虚無になっていたが、ようやく実感が湧き、感情を取り戻した。悔しさと怒りで地団駄を踏みながら俺は喚いたりした。


「なぜだ。俺は最高学府日本頭狂大学の学生なんだぞ!お前らとは格が違う!俺が落ちるなら誰が受かるんだよ!見る目ないだろ!」


 ムシャクシャの限界に達してビールの空き缶をプロ野球選手の顔つきでベランダ目掛けて投げた。


「ドナッパ、よけろー!」


「くだらん…ぐわっ!」


 鈍い金属音と人が地面に倒れる音が聞こえたのでこれはやべえと思いおそるおそる窓から覗くとお腹がブヨブヨな上裸のモヒカン頭の男二人がいた。


「ワッツアップ!」


「あ、すいません…ってうわ!」


 モヒカンの二人組は怒号をあげるやいなや俺の部屋に侵入した。


 やってしまいましたなあ。それもよりによってこんな血の気の多い輩に当ててしまうとは。どう考えてもふざけた見た目からして話が通じる相手ではない。


 俺が缶を当てた方ではないモヒカンの男が発狂しながらナイフ片手に飛び込んできた。しかし、下半身の体幹が弱過ぎるのか前かがみに崩れる。「なんだコイツ…」と思った矢先もう一人のドナッパと呼ばれたモヒカンが素早く俺の奥襟を右手で握り、そのまま俺を抱え込んだ。


「ハナセ!」


 俺は彼女いたことない歴年齢の童貞だが、男に抱かれたいと思うほど腐ってはいない。


「嫌です、お金をくれたら離してやる、抵抗するなら命は保証できませんが」


「ノーマネーノーライフ」


「どっちも嫌だ!あとうるせえ!」


 俺を抑えながら流暢な日本語で警告するドナッパ。一方、相方は英語を話しているらしいが何が言いたいのかイマイチわからん。


 ドナッパの弛んだ腹からは糖のような匂いがした。偏った食事をしていることが目に取れる。あと口臭も臭い。おそらく歯磨きをしていないのだろう。あと汗も臭い。普段ろくに運動してないことが容易に想像できる。


「こちとら童貞卒業するまでに死ぬわけにいかねんだよ!」


 こんなバランスボールみたいな奴にハグされながら殺されてたまるか。


 ブッ!


「ぐわ!」


「タピオカパン!」


 特大の屁に怯む、モヒカンたち。俺は一瞬の隙をついてドナッパの汗まみれの身体から脱出し、屋外へ逃走した。


 いつもの俺ならこういう野蛮な人間に脅されたら萎縮して平謝りしていたに違いない。しかし俺は絶賛就職活動失敗中でイラついているから少しハイになっているんだぜ。命のためとはいえ素直にカツアゲされたんじゃ面白くないだろ。まあ元を辿れば悪いのは俺だけどな。


 俺は日本が誇る俊足シューズを履き、コーナーでモヒカンデブたちを置き去りにした。


 はあはあ、まいたようだな。


 モヒカンに見つからないように路地裏に潜伏する俺。振り切りはしたが、家にはもう帰れないし動くに動けない。


 耳をすますと半狂乱のモヒカンたちの声と銃声とささやき声が聞こえてくる、コワイ。


 ん?ささやき声…?


「目を覚ましなサイ」


「ななななんだ」


 若干訛りがあるものの凛とした気品の感じられる声がどこからともなく聞こえてくる。命令口調なのが解せない。そして俺は目を覚ませと言われても眠ってなんかいないのだ。


 御社にお祈りされたと思ったらモヒカンが湧いてきて、次は天使でも出てくるのか。なんだこれ。さすがに超展開だし説明不足すぎる。いまどきアニメでももう少し丁寧に解説してくれるぞ。悪夢なら目を覚まさせてほしいがな。


「解説している暇はありません、皆があなたを待っているのデス」


「って俺の心読めるのかよ!そこまで切実な要望ならまずは姿を現して自己紹介して順に説明してくれ!」


「それはできまセン」


「見つけたぞー!」


「ピーマン」


 わけがわからず絶叫した俺はついにモヒカンたちに見つかってしまったようだ。それにしてもドナッパじゃない方のモヒカン、マジで言葉喋ってくださいよ、殺すぞ、ムカつくんじゃ。


「あばよ…うわわっ!」


 逃げようとした俺は偶然落ちていた◯リオ◯ートに出てくるレベルの特大のバナナの皮に滑って転んでしまい、そのまま気を失った。

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