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5.大人の懸念は子どもには理解できない

 犬ガールは「あ」と小さな声を発すると、カードを大悟の手に戻した。そして、恥ずかしそうに「ピンキーキャロット、返してください」と言った。知らない人に話しかける事ではなく、何も言わずにカードを奪い取った事に恥ずかしさを感じているようだった。


「どうぞ」と、大悟はカードを彼女に渡し、椅子に座った。

「ピンキーキャロット……ベジスターズ、知ってるの?」犬ガールが訊いた。

「うん、ピンキーキャロットはおじさんが……俺が作ったんだ」

 彼女は目を見開いて驚いた。息を吸い込む音が大悟の耳にまで届いた。

「このカード、どうしたの?」今度は大悟が尋ねた。

「お母さんにもらった」

「なるほど」彼女の母親だと30歳前後だろう。10年前にベジスターズにはまっていたとしても不思議ではない。そして「お母さんは? どこ?」と続けた。大悟は犬ガールを早く母親のもとに返したかった。このご時世、女の子とおじさんは一番不穏な組み合わせだからだ。

「家」犬ガールは端的に答えた。「お母さんに会いたいの?」

「いや、そういうわけじゃないくて……」大悟は苦笑いを返した。

「一緒に乗ってあげるよ」犬ガールは観覧車を指差して言った。

 大悟はしばらくして、彼女の言っている意味が分かった。彼女は観覧車をずっと見ていた大悟を見ていた。そして大悟が観覧車に乗りたがっていると勘違いしたのだ。実際は勘違いではないのだが。大悟はフッと笑った後、ありがとう、と言おうとしたが、すぐに惨事を予見して「ダメ!」と大声で言った。


 仮に自分と犬ガールが一緒に観覧車に乗ったとして(勿論そこで自殺を図るわけではない)、その後彼女と別れ、彼女が家に帰るまでに万が一誰かに誘拐されて、万が一殺されることでもあったら。「屋上で小汚いおじさんと観覧車に乗っていた」という証言が得られて、自分が犯人にされてしまう。

 その上で自分の自殺が成功した場合、警察の捜査で「殺人犯が罪の意識に苛まれて、自ら命を絶った」などという勘違いをされてしまう事を想像した結果の「ダメ!」であった。


「大丈夫、怖くないよ」犬ガールは的外れな答えをした。

「絶対ダメ!」そう言って大悟が両手を振っていると、腹の虫が鳴った。今後の予定は死ぬことだけであった大悟には腹を満たす必要がなかったので、朝から何も口にしていなかったのだ。

「お腹空いてるの?」と犬ガールは言った。そして、「ウチ来る?」と続けた。妙案を思い付いた言い方だ。

「は?」

「ウチ、お店やってるからご飯あるよ。お母さんにも会えるよ」

「いやいやいや!」大悟は再び両手を振った。

 仮に自分と犬ガールが一緒に歩いているとして、そこで万が一彼女が誘拐されて、万が一殺される事にでもなったら。

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