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4.絵に詳しい者は犬種にも詳しい

 ベンチに座ってから10分以上、観覧車を見続けている大悟を不審に思ったのかもしれない。大悟はゆっくりと、声のする方に顔を向けた。

 怪しい者じゃないですよ、息子が観覧車から降りて来るのを待っているだけですよ、というような顔で。


 声の主は飲食コーナーのスタッフだった。服装から、それが判断できた。大悟より少し若く見える、丸顔の男だ。男は笑顔であったが、少し緊張しているようにも見えた。不審者に話しかける時はそういった感じになるのかもしれない。


「はい」大悟は何事もないように返事をした後、唾を飲み、丸顔男の返事を待った。

「こちらは3時から、ビアガーデンのお客様の席になりますので、あちらの席に移動していただいてよろしいですか」と、観覧車により近い、4人掛けのテーブル席を指した。

 周りを見ると、いつの間にか屋上はビアガーデンの準備が整っていた。

 腕時計を見た。後5分で3時だ。「分かりました」大悟は席を立ち、そのまま観覧車に向かった。このまま観覧車に乗って、目的を遂行する――


 大悟は歩きながら目の端で、服を着た犬を確認した。黒く長い毛を持つ、イングリッシュ・コッカー・スパニエルだ。資料で見たことがある。ただでさえ厚い毛皮を着ている上に、この陽気だ。更に服を着せられるなんて、犬にとっては迷惑でしかない。しかし、犬を連れてデパートの中を通り、屋上まで来る事などできるのか。大悟は犬の方に目を向けた。

 しかし、それは犬ではなかった。首を下に折り曲げて、四つん這いになっている、女の子だ。5歳くらいだろうか。髪は長く、白地に小さな花がいくつも描かれたワンピースを着ていた。地面の何かを探しているようだ。


 しかし、今は「犬ガール」を気にしている場合ではない。大悟が視線を戻し、歩きだした時、「そちらで、大丈夫ですよー」という声が聞こえた。振り返ると、さっきの丸顔男が大悟の隣にあるテーブル席を指していた。大悟はその席を見て、再び丸顔男に視線を戻すと、彼は笑顔で肯いた。

 少しくらい遅くなっても結果に変わりはない。大悟が座ろうとした時、椅子の上に1枚のカードを見つけた。カラフルではあるが上品な色使いのカードである。大悟はそのカードを拾い、呟いた。


「ピンキーキャロット」


 ピンキーキャロットは大悟がデザイン会社に勤めていた時にヒットさせた、数少ないキャラクターのひとつだ。新しく野菜ジュースを発売する大手ドリンクメーカーに依頼されたもので、ジュースに含まれている17種類の野菜それぞれを擬人化した「ベジスターズ」の中の一人だ。

 オレンジ色であるはずの人参の色がピンクである事に、当時は面白さを感じていた。大悟のデザインが採用されたのは、このピンキーキャロットと仏頂面ブルーベリーの2つだけだった。当時は子どもから女子高生まで、人気のキャラクターであったが、10年以上経過した現在もまだ存在している事に大悟は驚いた。


 突然、目の前に小さな手が現れ、その手は大悟の手からカードを奪い盗った。見ると、犬ガールだった。

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