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ガラス越しの彼女

作者: 日下部良介
掲載日:2018/10/22

僕にだって人を好きになったことくらいはある。

けれど、それが“恋”だったのかと言えばどうなんだか…。

でも、今、僕は確実に恋をしている。

しかも、完全に片想いだ。


通勤途中にあるカフェ。

彼女はいつも窓際の席で本を読んでいる。


そう、僕はただガラス越しに彼女を見ているだけ。

話しかけるどころか、その店に入る勇気さえない。


今日も通りすがりに彼女を見る。

ふと目が合ってしまった。

僕は思わず下を向く。


次の日、彼女はそこに居なかった。

僕は店内に入った。

コーヒーを頼み、いつも彼女が居た席へ。

すると、そこから見える風景を共有しているような気分になる。

「あなただったのね…」

不意に声を掛けられた。

一瞬、期待が膨らむ。

もしかしたら、彼女ではないかと。

「えっ?」

彼女ではなかった…。

その時、僕はきっと落胆した表情を浮かべたのだらう。

僕に声を掛けたその女性は優しく微笑んで僕の隣に腰掛けた。

そして、話を続けた。

「彼女が笑ったんです。とても嬉しそうに…」

彼女は真っ直ぐにガラスの向こう側を見ている。

「あの子、いつも言っていました。“純粋な恋”がしたいと。でもね…」

彼女の表情が一瞬、暗くなる。

けれど、すぐに笑みを浮かべた。

「ちょうど、あそこです。半年前でした…」



真奈美と有里子は同期入社の親友同士だった。

「恋をしたいわ」

それが真奈美の口癖だった。

「真奈美は理想が高すぎるのよ。真奈美くらいの美人なら選り取り見取りなのに」

有里子の言葉に真奈美は首を振った。

「理想なんてないのよ。純粋に私のことを好きになってくれる人なら誰でもいいの」

「今時、純粋に人を好きになるなんてないわよ。男なんて、みんな下心しかないじゃない」

「そうかもね…。だけど…」

その後、真奈美が何を言おうとしたのか有里子は聞くことが出来なかった。

暴走してきた車が真奈美を跳ね飛ばしたのだ。有里子は間一髪で難を逃れた。

「真奈美!」


即死だった。



ここに真奈美が現れるようになったのはその次の日からだった。

「真奈美?」

有里子の呼び掛けに真奈美は何も答えなかった。

それもそのはず。

真奈美はもうこの世には居ない。

「そっか…。待っているのね。純粋にあなたの事を好きになってくれる人を…」

有里子の問い掛けに真奈美は微かに笑みを浮かべた。

有里子にはそう思えた。


それから、有里子はたまにここへ来る。

ここへ来て真奈美に問いかける。

「見つかった?」

真奈美は何も答えずに本に視線を落としたまま。

「いつか現れるといいね」

有里子は苦笑してその場を離れる。



そして、半年後。

いつもの様に有里子が真奈美の隣に来ると、ふと本から目を離した真奈美が微笑んだ。

すると、真奈美は姿を消した。

「とうとう、見つけたのね…。よかったね」

有里子はそう呟いて席を立った。


次の日、真奈美の席に座ってる彼を見つけた。

そして、彼に近づくと声を掛けた。

「あなただったのね…」



僕の初恋が叶うことはなかった。

でも、彼女に恋をした事を僕は後悔していない。

今、こうして彼女のお墓に向かって手を合わせている。

「ホント、妬けるんだから。でも、仕方ないか。真奈美は貴方の初恋の人なんだものね」

隣で一緒に手を合わせている有里子が言った。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 日下部さん 初めまして 短編を拝読させて頂きました\(^o^)/ 淡く切ない まさにガラスのように透明な初恋でした(*^_^*) [一言] 素晴らしい読書の時間をありがとうございました\…
[一言] そういう初恋があってもいいのかも知れませんね。 出会うのが遅かったですが、思いは美しいままです。
[良い点] 拝読させていただきました。 ほんのり切なく、でもどこか温かみを感じることもできる、そんな作品だと思いました。 単に切ない、だけでは終わらないところが、印象的で良かったです。
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