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Ruin  作者: 結城
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転入生

ガチャっという音と共に扉が開いた。中に入ってきたのは黒髪のやや小柄な少年だった。


室内は日本最高峰の学校の校長室ともあってか、かなり広めに作られている。


横にはファイルや本が詰まっている棚があり、中央には来客用であろうソファと低めの机。そしてその向こうには書類の積まれた机があり一人のがたいの良い男性が座っていた。


奥にある大窓からの光のせいで顔は見えないが、恐らくは彼がこの学校の校長なのだろう。


校長は少年の来校を待ち望んでいたらしく彼の入室に合わせて起立すると、とても固い握手を交わした。そして少年に椅子に座るよう促すと自分も座り、話し始めた。


「久しぶりだね、藍君。 3年ぶりになるかな?」


「はい、それくらいですね。 先の戦争の処理に会ったのが最後だったかと」

そういうと、校長は遠い昔の事を思い出すように窓の外を眺めた。




2027年

Ruinの研究・開発は5つのグループが主に最先端を突き進んでいた。


研究の第一人者であるアーロン博士を擁する大国アメリカや数多くの有名な技術者・研究家の共同研究によりRuinを発展させようとするEU。


さらに、多額の資金と人材を武器に開発を進めていた中国と豊富な資源を元に独自のシステムを構築しようとするロシアもかなりの成果を上げていた。


そして日本の岸総理大臣の提唱によってつくられた、インド・オーストラリア・日本を主軸とする包括的多岐同盟(通称CVU)もその一角を占めていた。


ところがCVUの成長に危機感を覚えたアメリカは国際連合の場において、CVUのRuinに関する研究・開発の中止又は第三国との共同研究への変更を求める勧告案を提出。


常任理事国5か国はこれに反対せず採択されることとなったが、この横暴に対してCVU加盟国は不快感を示すとともに、勧告案の内容を遂行しようとはしなかった。


アメリカ・ロシア・中国は国際連合に対する反抗だとし、採択から3週間後、日本に対してRuinを装備した部隊による攻撃を加え、日本側も応戦した。これが第一次東亜紛争と呼ばれる戦いである。


アメリカ軍700名、ロシア軍500名、中国軍1300名の計2500名に対し日本側の戦力は300名弱という圧倒的戦力差での開戦となった。


しかし、日本側が開発を終えていた特殊H粒子を持つある人間のRuin(バルバトスと名付けられた)をはじめとする日本側の徹底防戦は凄まじく、連合国側は一時撤退を余儀なくされた。


結果、アメリカはCVUの勧告案不履行を容認するという条件で日米終戦協定を締結。


またロシアは樺太における共同研究を条件に樺太にある資源の日本側の使用を認める日露共同開発条約を締結した。これは実質的には日露終戦を意味していた。


こうして新時代の戦争となった第一次東亜紛争は幕を下ろしたのである。




「それにしても君が来てくれるのは、本当に助かるよ」

校長は藍という前に座る少年へ向き直るとそう言った。


「僕も未来のこの国を支える子たちを見ておきたかったので丁度いいタイミングでした」


「そうだったのか。いや、本当にありがたい。

 ところで、君は転校生という立場での編入で良かったのか?」


「勿論ですよ。 僕はまだ15歳ですから」

そう言ってわざとらしく笑う少年に対し、


「そうだとしても、私が他の幹部から叱られることになるんだけどね」

と、困り顔で愚痴を言ってくる。


戦争を勝利に導いた英雄には特別な待遇をするべき、という意見を唱える人間もこの日本の防衛組織の中に数多くいたのだ。


とはいえ面倒見の良いこの校長は今回も少年の我がままを何とかしたのだろう。それもあってか少年は校長に絶大な信頼を寄せているようだった。


その後もいくつか世間話や近況報告などをし合い、編入手続きを済ませたところで少年は校長室から出て行った。



翌日、あるクラスの担任の先生に連れられて転入生は教室の中に入った。


「初めまして、一ノ瀬 藍です。」

と、その転入生は軽く自己紹介するも、あまり反応はない。


「あー えっと・・・ 一ノ瀬には特殊班の班長になってもらう。席はそこだから、早速座ってくれ」

そう促されて席へ向かった。


現在日本には特殊H粒子を持つ者が何人かいるが、その中でも次世代を担うとされているのがこのクラスに在籍する4人であるのだ。


転入生は自分の班の席へ向かい、「よろしく」と、声をかける。


だが、「こっちこそ、よろしくなー」と茶髪の少年が返答しただけで、他の2人は完全に無視している。


いや、そもそも1人いないのは何故なのか・・・と、転入生が不思議に思い発言しようとしたその時、息を切らしながら一人の青髪の少年が教室に入ってきた。


今日も遅れてきたのか、という雰囲気の中せっせと席に座る。


座ってからようやく見かけない人物に気づいたらしく、「あ、えっと、その、新しい人ですか?」と、質問をする。無論、悪気はない。 


しょうがないので、「僕の名前は、一ノ瀬 藍。 よろしくね」と本日二度目の自己紹介をすると、


「あ、青谷 蒼です。よろしくお願いします!」と言って、遅れてきた少年は頭を下げる。が、案の定手に持っていた口の開いたリュックサックから中のものが床に散らばっていった。


これはかなり苦労しそうだ、と言った苦い顔をしながらも転入生は荷物を拾ってあげた。

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