第7話
天界では、転生、転移統括官のロングス神が、天界の7柱と言われるイリサス神に面会していた。もちろん、ハクの件を報告する為である。
「ロングス、それは、本当か? 」
「はい。間違いありません。それと、ヒュドラと行動を共にしているそうです」
「何? ヒュドラとか……ヒュドラはあの世界のバグ、嫌、厄介者だ。それと行動しているとなると、後々、面倒になりそうじゃ……」
「わかりました。神託を送り、教会の者達に討伐させましょう」
「あの世界では、まだ、魔王が力を奮っておったな? 」
「はい。それも、抱えている難題の1つであります」
「魔王の件も教会の者達に告げ、討伐してもらおう」
「ですが、魔王も先の者もレベルがあまりにも桁違いです……あの世界の人間では、歯が立ちません」
「勇者召喚をすれば良いではないか? 魔王討伐の一環としてその者も始末してしまえばよかろう……同郷の者なら、隙もできるじゃろうしのう……」
「わかりました。手配致します」
「頼んだぞ……これ以上の厄介ごとはごめんだ」
「肝に命じて起きます」
そして、ロングス神は、女神ミサリーの元に向かった。
◇◇◇
レイフル国、イリサス教会本部では、
レイフル国、第2王女 ユリシーナ=エルワード=レイフル。14歳は、幼き頃から、神からの神託を受ける事が出来る稀なる能力を持ち合わせている。
それ故に、10歳の時から、王家を離れ、イリサス教の神の御子として教会で暮らしている。
その護衛を任務を司る、レイフル国、伯爵家3女 キャサリン=ロベルト、17歳は、常に、ユリシーナと一緒にいた。小さい頃から騎士に憧れ、寸暇を惜しんで剣の修練をしていた。現在では、その若さで、女性初の修道騎士団の一員として、籍を置いている。
「ユリシーナ様、何処に行かれるつもりですか? 」
「少し、外の風に当たりたい気分なの……中庭でいいから出ちゃダメかしら? 」
「構いませんが、折角、櫛で整えた金色の綺麗な髪が乱れてしまいますよ」
「私より、キャサリンの水色の髪の方が綺麗だわ。ストレートのサラサラで羨ましいくらいよ」
「お褒め頂き、光栄でございますが、そのお言葉、そのまま、ユリシーナ様にお返し致します」
「キャサリンはお上手なのね」
「そんな事はありません。本当の事ですので……」
教会の中庭には、季節の花が咲いていた。今の時期なら、黄色い山吹ような花が咲き乱れている。
隅には、ベンチが置かれており、それを眺める事が出来た。
「あぁ……」
「ど、どうかなさいましたか? ユリシーナ様」
「少し、めまいが……でも、休めば良くなるわ」
「あちらのベンチに腰掛けましょう」
キャサリンは、ユリシーナに肩を貸し、そのベンチに座らせた。その時、ユリシーナは、淡く、光だす……
「こ、これは、もしや……」
ユリシーナは、神からの神託を受けていた。キャサリンは、持ち歩いていたペンとメモ用紙を取り出しユリシーナに渡す。すると、ユリシーナは、そのメモ用紙に神から授かった言葉を書き出した。
神託を受ける時のユリシーナは、殆ど無意識状態だ。誰かが側についていないと、突然起こる神託に対処できない。
ユリシーナの輝きが治まった……
メモには、細かい字でびっしり書き込まれている。
キャサリンは、それを教会の者の伝えに行く。
ユリシーナは、これから起こる事について一抹の不安を感じていた。
◇◇◇
「何! 神託があっただと! 」
イリサス教会最高位のミネルト=グラームスは、キャサリンの報告を聞いて直ぐに、役員達を招集した。
今、開かれている会議は、その件である。
「そうですか……神は、魔王討伐を果たせとおっしゃるのですか……それと、その人間の始末も、という事ですね」
「神からのお告げだ。どんな事をしても守らなければならない」
「魔王討伐の為に、勇者を召喚せよ、というもは理解できますが、そのお告げにあった人物の討伐なら、修道騎士団で対応できるのではないですか? 」
「それは、私も、同じ考えです。どうでしょう。ミネルト様。勇者召喚には時間もかかります。先にその者の討伐を済ませておいた方がよろしいのでは? 」
「う……む。皆の意見に従おう。この者を、神に反逆しおる異端者として、各教会に通達せよ。そして、捕獲、もしくは、討伐せよ、とな……」
『畏まりました』
「その間に、勇者召喚の儀の準備をしよう」
『はい』
ハクは、この先、教会から異端者として追われる事になってしまった。
◇◇◇
ハク達は、おんぶしている獣人の里を訪ねようとしていた。途中で、目が覚めた獣人の女の子は、ヒコになっているヒュドラを見て怯えだす。
「おい! ヒコ、お前、怖がられているぞ」
「えっ〜〜なんで〜〜? 私、怖がられるような事した? 」
「あぁ……」
「怖くありません。怖くありません。怒らないで下さい。食べないで〜〜」
「ほらな……」
「さっきの食事の件ね〜〜つい、何時もの癖でやっちゃったのよ〜〜今、人間の姿だから、少し、控えないとネ」
「本当にヒュドラ様なのですか? 」
「そうよーーこのハクが外の世界に連れてってくれるって言ったから、付いて来たのよ」
「俺は、そんな事言っていない。勝手に付いて来たのはお前達だ」
「ハクは、照れ屋さんなんだから〜〜名前つけてあげたでしょう? その、代償よ」
「高い名前をもらったものだ……」
「人間のお兄さんは、名前なかったの? 」
「そういうお前の名前はなんと言うんだ? 」
「私は、ササよ。白狐族なの……」
「ササか……良い名前だ。俺は、ハクと言うらしい」
「ぷっ、言うらしいって、おかしいね」
「仕方が無い……」
「このハクは、記憶が無いんだって〜〜自分探しの旅に出てるのよネ」
「違う。その日を過ごせれば、それで良いと言ったはずだ。自分に興味はない」
「ネッ、おかしいでしょう? ハクは〜〜」
「はい……お二方ともおかしいです」
ササが返事をすると、急にヒコからキリコに変わった。
「それは、頭がおかしいと言う意味? 」
「違います。違います。面白いと言う意味です」
「ハクが頭がおかしいのは納得できる」
「いいえ。お二人とも仲が良くて安心しました」
『それは、違う』
「えっ!? 」
「俺は、この化物を殺そうとしたが、死んでくれない」
「私達は、ハクを食べようとしたけど、餌になってくれない」
「つまり、俺とこの化物は、敵同士だ」
「敵なのに何でそんなに仲がいいんですか? 」
「仲は良くない。たまたまだ……」
「ぷっ、やはり、お二方はおかしいです」
ハクは白狐の女の子ササを背負ったまま、その里に向かっていた。ここまで、関わるつもりは無かったが、人間ではない事に安心した気持ちを抱いていたようだ。
ヒュドラも二足歩行に慣れた様子だ。足取りが、前より軽やかだ。
「おい、ササ、こいつはそんなに有名なのか? 」
「ハクさんは、ご存知無いのですか? ヒュドラ様は、太古の昔から存在する、荒神様のような存在です。こうしても話が出来るだけでも信じられない事なのですよ」
「神、こいつがか? 」
「ハクは失礼ネ。そのササの言葉を見習いなさいよネ」
「ハクの頭は腐っている。だから、白カビが生えた」
「もう〜〜みんなはしょうがないですね〜〜里の方から声が聞こえてきますよ〜〜まだ、残党がいるようです」
「じゃあ、今度は、私が……」
「フウコは、さっき、1人余計に食べたでしょう? 」
「フウコは、食いしん坊、万歳」
その白狐のいた里の様子は悲惨だった。人間達が、よってたかって、獣人達を殺し回っていた。女子供は、一か所に集められているようだ。泣き叫ぶ声が響き渡っている。
「いい……俺が消す」
ハクは、何かを感じたのかそう呟く。そして、その手を翳した……