第5話
「あぁ〜〜ニョロニョロしたいわ〜〜」
「二足歩行、面倒」
「だから、付いて行くの反対だったんです。今からでも間に合いますから、帰りましょうよ」
ヒコ、キリコ、フウコは、そんな事を呟きながら彼、そう、『ハク』の後を付いて来ている。
「勝手に付いて来るな! あの沼に帰れ! 」
「あそこはもう飽きたって言ったでしょう? 外が見たいのよ」
「そう、美味しいものがあるかも……」
「美味しいものですか〜〜ジュル……」
ハク達は、まだ、森の中を歩いている。かなりの時間、歩き回ったが、森は、まだまだ続いている。途中、川が流れていたので、ハクは、そこで少し休む事にした。
「なに? ここで休憩するの? 」
「川だ……水の中に入りたい」
「美味しいもの……美味しいもの……」
ハクは、変なツレが出来てしまい困惑していた。このまま帰って欲しいと思っているようだ。
今、キリコになっているヒュドラは、水を求めて川の中に入り、そして潜ってしまった。
ハクは、その瞬間を待っていたようで、その場を音も立てずに立ち去ろうとしている。
すると、突然、火炎がハクの足元に放たれた。不意を突かれた為、手を翳せない……
ハクの服が燃え出し、ハクは急いで川に飛び込んだ。
「やはりネ〜〜手を翳さないと消せないようネ」
「どんな能力でも欠点はある」
「巻きついて食べちゃいましょうよ〜〜美味しいかも……ジュル」
ハクは、今、フウコになっているヒュドラに手を翳して消した。しかし、すぐに、復活する。
「お前は、どうなってるんだ? 」
「凄いでしょう〜〜これも私達の能力の1つなのよ」
「復活できるのは、きっと、私達だけ」
「そんな事よりお腹が空きました〜〜」
ハクは手を翳し、ここに流れている川の水だけを消す。すると、川底には、魚がたくさん跳ねていた。それを掴み、陸に放り投げる。すぐに上流から水が流れてきて、川は普段通り、元に戻った。
「へ〜〜便利な使い方があるのネ」
「魚は、生より、焼いた方が好み」
「それより、早く食べましょうよ〜〜」
「何を言ってる。これは俺の分だ。お前達は、自分でどうにかしろ」
「それって、酷くない? 」
「セクハラ、嫌、パワハラ発言」
「もう〜〜わかりました。フウコが獲ってきます! 」
フウコになったヒュドラは、空に向かって風を操る。すると、渦を巻き始め、飛んでいた鳥達が飲み込まれた。無数の鳥が下に落ちてきた。
「どうです。エッヘン! 」
「流石、フウコネ。いつも助かるわ」
「フウコの食欲は異常」
ヒコになったヒュドラは、その鳥に向けて火炎を吐く。すると、即席の焼き鳥が出来上がった。
それを、各々が順番に食していた。特にフウコは、食べるのが好きらしい。満面の笑みを浮かべながら食べている。
その間、ハクは薪を集めていた。獲った魚を焼こうとしている。
「おい、ヒコ。これに火を着けてくれ」
「自分でやれば〜〜」
「都合の良い女にはならない……」
「あっかんべーーです」
ハクは、魔法が使えない。嫌、使い方を知らないだけだ。
仕方がなく、木を擦り摩擦で火を起こそうとしている。しかし、煙は出るのだが、なかなか火がつかない様子だ。それを見ていたヒコは、
「今回だけ、特別につけてあげてもいいわよ……」
「ヒコはツンデレ」
「ヒコ、ダメです。こんな奴に優しさなんか無用です」
ヒュドラが煩くて集中できない……
「私なら、そんな木、すぐに燃やせるのにネ〜〜」
「焼き魚と交換。それなら、理に適っている」
「魚ですか〜〜ジュル……仕方ないですよね〜〜」
「…………」
ハクが返事をする間も無く、ヒコは、火炎でハクが拾い集めてきた薪に火をつける。
「1人、1匹だけだぞ……」
ハクは、少し照れながらぶっきらぼうにそう話す。
感情が完全に消えてしまっていれば、今のハクのようにはならないはずだ。
ハクは、それに気づいていなかった……
◇◇◇
「ロングス統括官! 」
「女神ミサリー天回廊は、走ってはいけないと教わらなかったのですか? 」
「あっ、すみません。以後気を付けます」
「何か用があったのではないのですか? 」
「あっ、そうでした。実は……」
女神ミサリーは、ハクが一ヶ月でレベルが570にもなった事を伝えている。驚いた様子で、ロングス神はそれを聞いていた。
「う……む。それは、異常ですねーー。女神ミサリーは、そのまま、彼の行動を監視して下さい。私は、上に報告してきます。それと、彼の資料を後で届けて下さい。もう、一度目を通しておきたいので……」
「はい。わかりました」
女神ミサリーの報告を聞いて、転生、転移科の統括官であるロングス神は、不安な気持ちになった。
「一ヶ月で、レベル570ですか……我々と同レベルですね……何を倒したらそうなるのでしょうか……まさか、邪龍じゃありませんよね……あれを消せるとしたら、我々神も消せるのと同義ですから……」
そして、ロングス神は、
「これは、早いとこ手を打った方がいいかもしれませんね……」
と呟きながら、天回廊から続く階段を上って行った。