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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第40話




 ゴブリンが占領していた村に、朝が訪れた。


 朝方、キリコの霧を吸い込んだ少女シズが目を覚ます。起きた時は、パニックになっていたが、父親が側にいて悪い夢だったとあやしていると落ち着いてきたようだ。


 そして、もう1人、村の片隅で気持ち良さそうに、寝ている女性がいた。


「こいつは、誰だ? 」

「私は、知りません。何度かこの村に来てますが、この村で見た事ありません」


 王都の商人ハデスも知らないようだ。


「ぐ〜〜ぐ〜〜もう、お嬢様やめて下さい〜〜、ぐ〜〜」


 見た目は、20歳前後、ショートカットの綺麗な女性だ。


「ほっとくか? 」

「ハク、こいつ多分、あいつ」


 白蛇通信は、ササとセリーヌが話をしていても、ヒュドラたちにも伝わるようだ。チビキリコは、この女性は、セリーヌが使わした女性とわかったらしい。


「あいつって誰だ? 」

「知らない」

「そうか……」


 キリコは、何となく知ってるようだと感じたハクは、


「敵じゃないなら、ほっとくぞ」


 ハクは、そのまま何処かに行ってしまった。食材の調達に行ったようだ。


「このまま、ここで寝てたら風邪を引いてしまいます。建物の中に移動させましょう」


 ハデスは、普通の感覚を持っているようだ。気持ち良さそうに寝ている女性を抱えて建物の中で寝かせた。


 シズも大分落ち着いて、お父さんの後ろを付いてまわっている。離れ離れになるのは、まだ、怖い様子だ。


 ハクが、獲物を捌いて持ってきた。もう、既に串焼きされている。

 その匂いにつられたのか、寝ていた女性が目を覚ました。


「あれ、私、何でここに? あっ! 」

「食うか? 」


 ハクは、みんなに配った物と同じ鳥の串焼きを目覚めた女性に差し出した。


「ハク様……いけねーーやってしまったわ」

「俺の事知ってるのか? 」


 そう聞かれた女性は、覚悟を決めたように


「はい。私はセリーヌ様にお仕えするミリーナと申します。侍女のマリーナは私の姉です。セリーヌ様からハク様が王都に向かわれたと聞きましたので跡をつけていました」


「そうか、あの侍女の……」


「ハクさんのお知り合いだったのですか? それなら、良かったです。私は、王都でハデス商会を商っているハデスです。私と娘は、ハクさんとそのお嬢さんに助けて頂きました。今、この命があるのも御二方のおかげです」


「ハデス商会ですか? あの? 」

「はい。そうです」


ハデス商会は、オーリア国王都で1、2を争う商会らしい。

ミリーナは、事の経緯をハデスから聞いたようだ。


「でも、社長自ら仕入れなんて、たいしたものです」

「実は、忙しくて娘と過ごす時間が無かったものですから、仕入れと称して、娘との時間を作りたかったのです。それが、こんな、事になってしまいまして……」


 ハクとキリコは、黙って串焼きを食べている。あまり、そういう話は興味ないようだ。


「王都に帰るのでしたら、是非とも、私にご馳走させて下さい。ハクさんのお知り合いなら、私達の命の恩人ですから」


「ご馳走ですか! あっ、でも、私……」

「顔バレしたんだ。もう、コソコソする必要はないだろう? 」

「そうですよね〜〜あとで、お嬢様に怒られそうだけど……」

「あいつが怒るのか? 」

「そうなんです。あんな可愛い顔して結構怖いんです」

「そうか……」


 ミリーナとハクが話していると。チビキリコが、


「ハクの浮気者」

「はっ!? 何、言ってる」


「違いますよ。キリコ様ですよね。私はセリーヌ様に使える身。そんな事考えてませんから」


 慌ててミリーナが、取り繕うとしている。その姿がおかしかったのか。シズが笑いだした。


「わははは、おかしいの〜〜」

「これ、シズ、失礼だぞ」

「だって〜〜お父さん」


「笑えるようになれば安心」

「それはそうですが、失礼しました」

「気にする必要はない」


 チビキリコも、シズが笑っているのを見て安心したようだ。


「えへへへ、また、失敗しちゃったかな? 」


 ミリーナは、そう戯けたように話す。


「ミリーナさんは、楽しい方だ」

「そんなつもりはないのですけど……それで、皆さんはいつ出発するのですか? 」


「私はすぐにでも、と考えているのですが、朝方、村を見てまわって倉庫に薬草がありました。それを、荷車に積んでから出かけようと思っています。もし、村の者が生き延びて王都にいるのであれば、その者にお金を渡すつもりです。でも、困った事に、襲われた時に馬が逃げてしまったようで……」


「馬なら、村の手前の小川のところにいましたよ」


「本当ですか? 良かった。これで、荷車を引いて帰れる。ミリーナさん、悪いのですが、案内してもらえますか? 」


「構いませんよ」


 ハデスと、ミリーナは、馬を連れに出かけてしまった。シズは、チビキリコが気にいったようで、2人で話している。


 ハクは、寝転んで、目を閉じていた。そんなハクを見て、チビキリコが、


「ハク、荷車に薬草を積む。手伝って」

「…………」

「ハク! 労働しない者は食べる資格がない」

「……わかった」


 ハデスとミリーナが戻って来る前に、チビキリコとシズは、そう話し合っていたようだ。ハクは、2人の後に続き、薬草を荷車に積み込んだ。




◇◇◇



 オーリア国王のラミエル=オーリア4世は、北方にあるドメイル国の魔族討伐の要請に応える為、兵力を増強していた。


 兵士200名程度の遠征隊を送り込む予定だ。


 その為、オーリア国内のポーションを買い付けて、今は、品薄状態になっていた。


 オーリア4世の側近である事務管理官スティーブン=ホメイルは、レイフル国からの書簡やカラナ国からの書簡の内容に応じるべく忙しい毎日を送っていたが、それに加えて今月は、イリサス教の例大祭も行われる。


 スティーブンは、資金の工面に、頭を抱えていた。出費は出る一方で、それに伴う利益は、対面を保つ為のものしかないからだ。


「漁業組合の奴らめ……あれから音沙汰がないじゃないか……」


 漁業権は、闇市で高値で取引される。その利益を、本当は、イリサス教の例大祭の費用に充てるつもりでいた。だが、魔族討伐などという思いがけない兵士たちの出兵で、資金繰りが悪化したのである。


「せめて、巡礼者達に資金を落としてもらわないと割に合わない……」


 オーリア国は、貿易国であるが、品物の流通を第1に考え、入国税や関税は、安めに設定してある。しかし、それが、裏目に出たようだ。戦となれば、どこの国も自国の事を考え、輸出は控えるだろう。そうなれば、オーリア国に入ってくる商品も限りが出てくる。


「今からでも、遅くない。入国税と関税を上げるべき……」


 と、オーリア国王ラミエルに進言したのは、つい最近である。だが、王もその必要性を感じ、国境付近と王都周辺では、厳重な体制を整えて入国審査に力を入れていた。


 そんな中で、


「スティーブン様、ご報告があります」


 近衛兵の1人が、慌てた様子で報告に来た。


「どうした? 今、忙しい。手短に頼む」

「はい。王都北地域の検問で、白装束の男が1名捕縛されました」

「それは、教会から通達が来ていた異端者か? 」


 それなら、教会から報奨金が出るだろうと考えていた。


「それが、どうも違うようです。その白装束の男は、どうも猿人族らしいのです」


「猿人族! あの猿人族か! 」

「はい……」


 今の猿人族は、魔族の手下になっていると聞いていた。その猿人族が何故……


「これから、尋問を開始するそうですが、どうやらルイス町の教会を襲った奴らの一味らしいのです」


「そうか……イリサス教会に伝えておけ。身柄を引き渡せと言うならそうしてやれ」


「魔族がらみかもしれません。構わないのですか? 」


「今は、それどころではない。修道騎士達に任せておけ。困ったなら、何か言ってくるだろう。その方が、こちらも都合が良い」


「わかりました」


 近衛兵は、その場を退席した後、スティーブンは、少し、にやけた顔をして


「教会の奴らが泣きついてくれば、一石二鳥だ。例大祭の出費を回収できる……」


 そう思いながら、手元にある書類を見始めた。




◇◇◇




「セリーヌ様、ミリーナから連絡がありました。ハク様達にバレたそうです」


「それなら、白蛇通信でキリコ様から連絡がありました。お前の女は預かっていると、命が惜しくば、美味しいものを食べさせろと……」


「それって……」


「きっと、キリコ様のジョークですわ」

「そうですよね〜〜」

「このまま、一緒に王都に行くそうです」

「はい。私もそう聞いております。妹のせいでセリーヌ様にご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「迷惑なんて事はないわ。でも、これで、良かった。ハク様に隠し事をするのは、少し、胸が痛みますから」


「そうですね……」


「ところで、研一達はどうですか? 」

「剣術は、すぐには覚えられませんが、魔法は初級魔法なら使いこなせるようになりました。研一は、治癒魔法や回復魔法が得意のようです。凛は、火魔法と風魔法、手毬は、水魔法と珍しい木魔法を使えます」


「木魔法ですか? 確かエルフの民しか使えないのではありませんか? 」

「はい。ですが、手毬は、育成というギフトがあるそうです。木魔法は、そのギフトにとても相性が良いみたいです」

「そうなのですか、今後が楽しみですね」

「はい。本当に優秀な子達です」


 研一達は、ここに置いておかれて正解だったようだ。一緒に召喚された他のクラスメイト達よりも、基礎からきちんと教えてくれている。


 その事に研一達が気づくのは、まだ、先の事であった。







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